01
月明かりに照らされる夜道。俺の視界に飛び込んできたのは一人の男だった。
ストリートのコート。
ボールは吸い込まれるようにリングをくぐる。
「上手いのう、兄さん」
「ん?」
フェンス越しに話しかければ彼はこちらを振り返る。
綺麗な顔をしている。
「バスケやってんの?」
「まぁの」
「じゃあ相手してよ。一人じゃ物足りないし」
断る理由もなくて、ストリートのコートに入ればボールをこちらに投げる。
「君からどうぞ」
「甘くみるんじゃなか」
「そんなこと、してねぇよ」
久々にした1on1は、ひどく俺を楽しませた。
どうやっても抜けなくて、頬を汗が伝う。
「なんじゃ、お前っ!!」
「何って普通のどこにでもいるおっさん?」
「そんな歳じゃないじゃろ」
ボールを奪われて、リングをくぐるボール。
「10点先取。俺の勝ちだな」
彼は汗をパーカーの袖で拭って笑う。
「化け物じゃな」
「失礼なこと言うなよ」
肩で息をする俺に手を差し出して彼は首を傾げた。
「立てるか?」
「ナメんな、アホ」
「生意気だなぁ…」
ベンチに座った彼の隣に腰を下ろす。
「いつもいるんか?」
「今日初めて来たよ。最近越してきたばっかでな」
「へぇ…」
多分結構若い。
見る限り20代前半。
ダボダボなパーカーでわからないけどガタイはいい。
「腹減らね?」
「減ったの。兄さんのせいで」
「ラーメン食いに行こう」
彼は立ち上がって笑った。
「奢ってやるよ」
「…もっと高いもんが食いたい」
「初対面でそりゃねぇよ」
額を指で弾いて、彼は地面に落ちたボールを拾って歩き出す。
「兄さん、名前は?」
「名前。お前は?」
「トビじゃ」
よろしくな、と彼は言って。
俺もよろしくと答える。
「年上じゃろ?」
「ん?かもな。まぁ年齢とかどーでもいいだろ」
「は?」
上下関係とか嫌いなんだよと彼は眉を寄せる。
「変な大人じゃ」
「大人ってガラじゃねぇよ」
駅前のラーメン屋さんに入った彼は好きなの頼めと言って。
遠慮もせずにトッピングとかをつけながら頼めば彼は苦笑した。
「遠慮ねぇな」
「何でもいい、言うたろ」
「まぁね。あ、おっちゃん。餃子も2皿追加」
2皿も食うんか、と言えばお前の分もだろ?と当たり前だと、言うように言った。
やっぱり変な奴じゃ。
けど、嫌いじゃない。
「いただきます」
「どーぞ」
あ、うめぇと彼は目を細める。
「ラーメン好きなんか?」
「好き。けど、カップラーメンは嫌い」
「贅沢な奴じゃ」
ほっとけ、と彼は俺の額を指で弾いて。
軽くやってるように見えるのに結構痛い。
額を擦りながら俺は彼を見る。
「名前は」
「ん?」
「明日もあそこでバスケやってるんか?」
やってると思うよ、と彼は笑う。
「バスケねぇと俺、死んじゃうから。まぁ時間はもうちょい遅いかもだけどな」
「…また、相手してくれんか?」
「いいよ。相手してほしかったらいつでも来なよ」
▽
「ごちそうさん」
「遠慮なく食いやがって」
「旨かった」
そりゃよかったよ、と彼は呆れたように笑った。
「家まで送ってやろうか?」
「何処の女と間違えとるんじゃ」
「冗談。じゃあ、またな。トビ」
おん、またな名前。
俺の言葉に彼は乱暴に俺の頭を撫でて、背を向けた。
ヒラヒラと手を振る彼が見えなくなって俺も歩き出す。
「明日も、行くかの…」
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