02
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。苗字先生」
「どうかなさったんですか?」

集まっていた先生たちは1枚の紙をこちらに向けた。

「先生が来る前から停学になってる夏目健二という生徒なんですがね。毎日様子を見に行くのが学校の決まりなんですが…」
「皆さん、やりたくないと?」
「えぇ。彼、問題児で」

問題児ねぇ。
その紙を見つめていた俺は机にそれを置く。

「新任の自分でよければ引き受けますよ」
「え?いやけど彼は…」
「大丈夫ですよ」

顔を見合わせた先生たちだったが面倒事を回避できると思ってかではお願いしますと頷いた。

仕事を終えて、彼の住所が書かれた紙はポケットに突っ込んで。
向かった先はあのストリートのコート。
そこにはやっぱり彼がいた。

「トビ」
「…名前」
「停学の生徒がこんなとこいていいのか?」

コートに入りながら言った言葉に彼は眉を寄せる。

「なんじゃ、お前。先公か」

明らかな拒絶の色に俺は苦笑する。

「一応な」
「俺の見張りか?そんなことのためにバスケなんてしたんか!?」
「まさか」

お前を知ったのは昨日が初めてだよ。
俺の言葉を彼はきっと信じていないだろう。

「苗字名前。昨日から高校教師になったんだけど」

トビ は信じていないようで眉を寄せたまま。

「まぁそんなことはどうでもいいや。1on1やろうぜ」
「は?」

Yシャツの袖を捲って、ネクタイを緩める。

「それ…」
「なに?」

トビの視線を辿れば自分の腕に行き着く。

「刺青?」
「先公がなんてもん入れてんじゃ」
「元々先公じゃねぇもん」

体にも入ってるよ、と言えば目を丸くして俺を見つめた。

「昨日から先公になったんだってば」
「…本当に俺のこと知らんかったんか?」
「知らない。てか、トビって本名じゃなかったんだな」

まぁ健二ってイメージでもねぇかなんて言いながら体を解す。

「ま、あれだ。見張り役を引き受けたのは間違いないけど。どうせここで会うならバスケも出来て見張りも出来て一石二鳥だし?」
「アホか」
「よく言われる」

トビはやけくそって感じでこちらにボールを投げた。
それを取って俺は微笑む。

「相手せい」
「言われなくてもそのために来てるってば」





「大丈ー夫?」
「…アホ抜かせ、平気じゃ」
「足腰立たないくせに」

クスクスと笑って寝転ぶ彼の髪を撫でる。

「ええんか?」
「何が?」
「自宅謹慎の奴が外におるんじゃ」

トビは視線を逸らしながらそう、言った。

「いいんじゃね?俺はトビが家にいるのを確認すればいいだけだから」
「は?」
「トビが家に帰るのを見たら、俺の仕事は完了。な?」

アホ、とトビは言ったけどどこか嬉しそうに微笑んだ。

「ま、その前に飯食いに行こ」
「先公が生徒に奢るんはようないで」
「え、そうなの?」

じゃあ、どうすっかと考えてからあぁと頷く。

「帰るか」
「飯は?」
「奢るのがダメなら作ればいいだろ。俺も食べたら奢りにもご馳走したことにもならねぇよ」

帰りスーパー寄ってくぞ、なんて言えばトビは目を丸くしてから笑い出す。

「俺の家で作る気か?」
「ん、そのつもり。そしたらバスケも見張りも出来て飯まで食える。一石三鳥」

帰るぞ、と言って立ち上がればトビもふらふらと立ち上がる。

「おんぶ」
「アホか。自分で歩け、若いだろ」
「名前とはそう変わらんわ」

俺はもうおっさんだっつーの。
彼の歩調に合わせながら隣を歩く。

「変な気分じゃ」
「何が?」
「先公と夜道デート」

笑いながら言ったトビの額を指で弾いて俺も笑う。

「デートじゃねぇだろ。つーか、先公先公言うなよ。違和感Maxでぞわぞわする」
「名前に先公は似合わん」
「俺もそう思う」

俺の言葉にトビはまた笑った。

「夕飯はハンバーグがええの」
「時間ねぇからまた今度。今日はオムライスかな」
「子供扱いされとる」

ハンバーグもそうかわんねぇよと言って彼の頭を撫でた。

「腹へったな」
「おん。早よ帰ろ」

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