04
「夏目、大丈夫でしたか?」「え?何がですか?」
「昨日、様子を見に行ったんでしょう?」
あぁ、そういうことか。
俺は教材から視線を上げる。
「いい子でしたよ、夏目くん」
「え?」
「そこまで怖がる意味がわからないです」
俺はそう言ってクスリと笑った。
目を丸くしている先生から視線を教材に戻そうとしたときに鳴った携帯。
「すいません、失礼します」
「え、えぇ…」
携帯を見ればトビの2文字。
人がいないところで携帯に出る。
「もしもし?」
『名前。暇じゃ』
「は?」
電話の向こうの彼はもう一度暇、と呟いた。
「要件それ?」
『文句あるんか?』
「アホ。んなこといわれても俺、仕事中」
知っとるわそんなこと、と彼は拗ねた口調で言った。
「謹慎、明後日までなんだってな」
『まぁの。明後日までじゃ』
「だったら少しは我慢しろって」
嫌じゃ、と彼は言って。
バスケがしたいと呟いた。
「俺もしたい。帰ったらするか?」
『ハンバーグは?』
「どっちかだな。どっちがいい?」
トビは電話の向こうで無言になる。
そんなに悩むことか?
『ハンバーグ』
「りょーかい。出来るだけ早く帰るから我慢しろ。飯のあと時間あったらバスケ、しようぜ?」
『早よ帰ってこい』
なんか、恋人みてーな会話だなと思いながら電話を切る。
謹慎は明後日まで。
て、ことはアイツの家に行くのも明後日までか。
どうせコートで会うことになるだろうし別にいいか。
▽
「よぉ」
「名前」
「お邪魔します」
ハンバーグの材料を買って彼の家に向かえば彼は遅い、と呟いた。
「悪い悪い」
「…ハンバーグ」
「ちゃんと材料買ってきた。台所借りるぞ」
トビは昨日みたいに椅子を持ってきて後ろに座る。
「学校、どうじゃった?」
「授業怠い」
「それ、先公が言う台詞じゃないじゃろ」
え、マジ?って言えばトビは呆れたように笑った。
「名前何教えるんじゃ?」
「現文」
「…名前の授業受けてみたいのう」
トビの言葉に俺は振り返る。
「なんじゃ?」
「トビのクラスも俺の受け持ちだった。前の現文の先生やめただろ?俺がその代わり」
「ホントか!?名前の授業だけ真面目に受けちゃる」
他のも受けてやれよって言えば面倒じゃと彼は視線を逸らした。
「いつから謹慎だったんだ?」
「入学式の次の日。自宅謹慎じゃ」
「何したんだ?」
俺はもう喧嘩、とトビは言った。
だから教師陣はあんな態度だったのか。
「俺も学生時代よく停学になった」
「不良?」
「まぁ。煙草吸って刺青いれて喧嘩して…そんな感じ」
煙草、今は吸わないんか?
彼の問いかけに吸うよ、と言えばスンッと鼻をならす。
「匂いせん」
「忙しくてストック切れ。前の職場に置いてきちゃってさ」
「買わないんか?」
煙草屋どこにあるかわかんね、と言えば彼は笑う。
「後で連れてっちゃるけ」
「え、マジ?サンキュー」
「それより早よハンバーグ」
これから焼くからもう少し我慢しろよと言って、フライパンに形を整えたハンバーグを乗せる。
「のう…」
「ん?」
「名前は…」
歯切れの悪い彼に振り返るとなんでもないと視線を逸らす。
「煙草買ったらバスケするか」
「時間平気なんか?」
「ま、平気っしょ」
バスケしないと俺死んじゃうなんておどけたように言えば彼は俺もじゃと笑った。
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