05
昨日食べた名前のハンバーグは本当に旨かった。
そのあと煙草屋に案内して、結局バスケをした。

1on1をやめた頃にはもう日を跨いでいて、名前はやべぇと言葉を漏らしていた。

俺はぼんやりと携帯を見つめる。
俺の停学は明日まで。
明日で名前は家には来なくなる。

別に先公なんて来ないに越したことないのに、どこか嫌だと思う自分がいた。
名前と一緒にいるのは、好きだ。

先公らしくないあの態度と、笑った顔。
バスケをしてるときの真剣な目。
嫌いになる要素はどこにもなかった。
勝手なイメージだけど、頭の回転は早いだろう。

「…暇じゃ」

携帯から彼の名前を探す。
今は休み時間だろう、と電話を掛ければ少しして機械音が切れる。

『トビ?どうかしたか?』
「暇なだけじゃ」
『明日までの我慢だろうが』

彼はクスクスと笑う。

「それでも暇なもんは暇じゃ。出掛けたい」
『だーめ。大人しくしてろ』
「バスケしたい」

俺もしたい、と彼は間髪入れずに答えた。

『帰ったらしよう』
「当たり前じゃ。夕飯は…唐揚げ」
『また時間かかるやつ選びやがって』

また日を跨いで帰らせる気か、と彼は冗談混じりな怒った声。

「泊まればええじゃろ?」
『お前生徒じゃん』
「…なんじゃ、先生みたいなこと言いおってからに」

唇を尖らせれば、彼は見えてもいないはずなのに拗ねるなよと呟いた。

『お前がいいなら泊まるけど。おっさん泊めるより女泊めた方がよくね?』
「女はええ。バスケできん」
『わかったよ。泊まるから』
「待っとるけ」

正直、なんでこんなこと言ってるのかわからない。
女の方がいいはずなのに、そんなことよりも俺は名前といたかった。

「のう、名前」
『んー?』
「なんでもない。早よ帰ってこんといなくなっちゃるからな」

やめてくれ、と彼は言った。
お前がいなくなったら見つかるまで探さないといけないだろと言葉を続ける。

「探してくれるんか?」
『当たり前だろ。普通に心配する』
「俺が生徒だからか?」

我ながら意味のわからないことを言ってしまった。

「すまん、今のなし」
『トビ』
「な、なんじゃ…」

慌てて電話を切ろうとした俺の手が止まる。
いつもより優しげな声が鼓膜を揺らした。

『俺が生徒をみんな助けるような先生に見えるか?』
「え?」
『…お前だけだよ』

彼の言葉に体温が上昇する。
何も言えなくて、口は開閉するだけ。

『心配するから。いなくなるなよ』
「お、おん…」
『じゃあな』

電話が切れて、俺は手の甲で口元を隠す。

「反則、じゃろ…」

お前だけだよ、と言った彼はどんな顔をしていた?
いつもみたいに優しく笑ってた?
低く甘い彼の声にゾクッと体に電気が走ったような感じがした。

ベッドに倒れこんで、小さく溜め息をつく。

「名前……」

早よう帰って来い。
名前が、足りない。
これじゃ、まるで…

「お前に、名前に恋しちょるみたいじゃ…」

アホか、と自分に言い聞かせ目を閉じた。





我ながら恥ずかしいことを言ったな。
携帯を片手に溜め息をつく。

けど嘘をついたつもりはない。

「…お前だけだよ、本当に」

完全なる贔屓かもしれないけど。
アイツは可愛い。

「さっさと仕事終わらせて帰ろ…」

帰ってバスケしたい。
俺はポケットに携帯をしまって、職員室に戻った。

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