07
風呂から上がった名前は濡れた髪をタオルで乾かしながらベッドに腰かける。

「風呂、サンキュ」
「おう」

袖を捲ったシャツの下、存在を主張するのは彼の刺青。

「トビ?」

名前は不思議そうな顔をしながら首を傾げて。

「腕だけか?」
「背中にもあるけど」
「背中…」

名前は上のシャツを脱いだ。

「な、なんで脱いでっ!?」
「男同士だし、いいだろ」

彼の背中には羽のような模様が彫られていて。
よく見れば腰や肩にも刺青があった。

「多いのう」
「つい、彫りたくなっちゃうんだよね」

名前はクスクスと笑って、自分の腕の刺青を撫でる。

まじまじと彼の体を見ていれば名前は恥ずかしいなって笑った。

「自分で脱いだんじゃろ」
「そんなに見られるとは思ってなかった」
「筋肉も…ついとる」

伸ばした手を恐る恐る彼の体に触れさせる。
指先から伝わる熱に、くらっとした。

「くすぐったい」
「これでおっさんとか嘘っぱちじゃな」
「えー、そうか?」

ペタペタと名前は自分の体を触る。

正直、好きな人が目の前で半裸っていうのは刺激的過ぎて。
目のやり場に困る。

「服着ないと風邪ひくけ」
「ん、そうだな」

名前がシャツを着たのを見て、内心溜め息をついた。

「…トビ?」
「な、なんじゃ!?」
「髪、濡れてる」

俺の首にかけていたタオルを名前が取って、優しい手つきで俺の髪を乾かし始める。

「っ名前!?」
「んー?」
「乾かさんでも、平気じゃけ」

風邪引かれちゃ嫌だから、と彼は微笑みながら言うから何も言えなくなって。

「…アホ」

恥ずかしい。
熱の集まる顔を隠すように俯いて目を閉じた。

こんな風に人に触れられるのはすごく心地よい。
意識がふわふわとしてきて、そこで記憶が途切れた。





「トビ?」

ゆらゆらと揺れる彼の体に俺は微笑む。

「寝てる…」

タオルを取って、あどけない彼の寝顔を見つめる。
頬に手を伸ばせば、思いの外柔らかくて。

「ん…名前…」
「…おやすみ」

彼をベッドに寝かせて、布団をかける。
ベッドサイドに座って彼の髪を撫でていれば俺も眠くなってきて。

一緒に寝るのはどうかな、なんて思ってベッドに背中を預けて目を閉じた。

ゆらゆらと揺らされる感覚に目を開ければ目の前にはトビがいて。
今何時?と尋ねればまだそんなに時間は経っていなかった。

「そんなとこで寝るんじゃなか…」

寝惚けた頭では彼の言葉も理解できなくて、促されるままにベッドに潜り込んだ。


次に目が覚めたのはいつもより少し早い時間。
朝食の準備をしようと体を起こそうとして気づく。

「…あれ」

俺の服を掴んで眠る彼が目の前にいた。

そういえば途中でベッドに入ったんだったな…なんて思いながら彼の頭を撫でる。

俺の服を掴んでるから起きるに起きられなくて。
もう少し、彼の寝顔を眺めていようなんて思った。

「ん…」

トビの瞼が揺れて、開かれた瞳が俺を映す。

「あ、れ…名前…?」
「おはよう」

眠たげな彼の頭を撫でて、微笑む。
彼の手から力が抜けて、シャツを離した。

「朝食の準備するから、もう少し寝てていいよ」
「おん…」

また眠りにつく彼を見ながら俺はぐっと体を伸ばして立ち上がって。

「普通に可愛いよな、トビって」

眠っている彼はいつもより幼く見えて、可愛く見える。
まぁ、普段も申し分ないくらい可愛いんだけど。

「…贔屓、するかもなー」

明日から彼は学校に来る。
ここまで来ると贔屓しない自信がなくなってきた。

「ま、いっか」

早く朝食の準備をしよう。
俺は使い慣れてきた台所に立って、朝食の準備を始めた。

「…聞こえとるわ、アホ…」

俺が気付かないくらい小さな声でトビはそう呟いて真っ赤な顔を布団に押し付けていたなんて、俺が知るよしもない。

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