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次の次の日の朝、校長がどこか笑みを浮かべて俺のもとに来た。

「よかったですね、苗字先生」
「え?」
「彼、戻ってきましたよ。昨日わざわざ自分から来たんです」

うちの学校をインハイに連れていってくれるそうですよ。
校長の言葉に俺は笑う。

「楽しみですね」
「会いに、いかなくていいのですか?学校に来てますよ」
「彼が帰ってきたならそれで満足です」

俺はそう言って、窓の外に視線を向ける。

「雨、ですか?」
「えぇ、降り始めましたね」

退学が取り消されたら連絡してくると思ったけど。
まぁ、あんなことを言った手前、連絡しにくいのかもな。

職員室のカーテンの隙間から見えた光景に、俺は席を立つ。

「少し、失礼しますね」
「えぇ」

スーツを椅子にかけて職員室を出た。
全く、世話がやける。
心のなかで呟いて、雨の降る外に出た。

「ナニをやってるんだオマエ達!!」

聞こえたのは五月先生の声。

「三年の西脇だな!?待ちなさい!!コラッ!!」

三年の西脇。
トビが問題を起こした相手か。

こちらに走ってきた彼らに俺は溜め息をつく。

「どけっ!!」

そんな声に道を譲って俺の横を通りすぎようとした彼に足を引っかける。
雨のなか無様に転けた彼に皆、足を止めた。

「あーぁ、どろどろ」

地面に倒れた西脇の襟を掴んで無理矢理立たせる。

「あー、お前ら全員動くなよ」

周りの奴らにそう言って笑えばビクッと肩が震えた。

「名前…」

トビが俺を呼ぶ声がした。

「君が、三年の西脇君?」
「だ、だったらなんだよ!!離せっ!!」
「あ、離していいの?」

手を離せば西脇は地面に膝をつけた。

「人が折角泥だらけにならないように持ち上げてやってたのに」

こちらを睨み付けた西脇がすぐに目を見開く。
視線の先にあったのはYシャツに透けた俺の腕の刺青。

「かっこいいでしょ?」

彼に近づいてそう言えば西脇はずりずりと後ろに後ずさっていく。

壁に背中が当たって、西脇は動きを止めた。

「な、なんだよっ!!」
「何っていうか…」

ズボンのポケットに手を突っ込んで彼の顔の横すれすれの壁を蹴る。

「ひっ!?」
「ちょっとおイタが過ぎるんじゃない?」

見下ろす彼の顔はひきつって、周りの奴らに視線を向ければ彼らも力なく肩を落とした。

「五月先生、彼らお願いしても?」
「え、えぇ…」

驚いている先生に西脇達の世話を任せ、もう一人目を丸くして俺を見ていたトビに近付いた。

「こ、こいつは何もしてないっすよ!!」

彼の周りにいた奴が慌ててそんなことを言って。
けど、トビは何も言わずに俺を見ていた。

「苗字先生!!トビ君は耐える痛みでえっと…何もしてなくてですね。だから、えっと…」
「車谷。国語教師の前でその日本語はないだろ。お前、授業寝てて平気か?」
「え…あ、いや…」

トビの前にしゃがみ頭をポンポンと撫でる。

「…おかえり」
「「「「え…?」」」」

周りの奴らが固まる中、トビは傷だらけの顔で笑った。

「ただいま」
「お前ら今、授業中な。さっさと教室戻れ」

顔を見合わせる彼らを無視してトビを肩に担ぐ。

「うわっ!?な、何すんじゃ!?」
「保健室で手当てな。あ、お姫様抱っこでもしてやろうか?」
「アホぬかせ!!」

だったら暴れるな、と言って校舎へ入っていく。





「苗字って最近きた新任の?」
「あ、はい。1週間くらい前に」
「…なんでトビと仲良いんだよ」

そんな疑問を俺達に残して、彼らは姿を消した。

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