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「痛いわ、アホ!!」
「だったら怪我すんな」

運悪く保健医は出張中で。
傷だらけの彼の手当てをしながら溜め息をつく。

「…すまん」
「何が?」
「この間失礼なこと、言ったじゃろ」

俯いた彼の額を指で弾く。

「痛っ」
「これで許してやるよ」

額を押さえる彼に微笑めば、トビは目を逸らした。

「…昨日、校長に言われたんじゃ」
「何を?」
「名前が退学のこと、掛け合ってくれたって」

絆創膏とかを片付けながら俺は口を閉ざした。

「もし自分で頭下げに来たら…取消して欲しいって頼んだんじゃろ?」
「…さて、なんのことだか」
「一昨日も…ストリートに来ちょった」

振り返ればどこか頬を染め、視線を逸らすトビがいて。

「…なんのこと、かな?」
「ホンマに、嬉しかったんじゃ」

見捨てられなかったことが、嬉しかったと彼は言った。
俺は溜め息をついて、彼の赤く染まった頬に手を添える。

「…名前…?」
「そーいう顔、見せるのはどうかと思うよ」
「え…?」

目を丸くする彼と至近距離で視線が絡む。

「な、何すんじゃ…!?」
「何してほしい?」

クスクスと笑えばトビの顔は真っ赤に染まって、振り払われた手。

「ア、アホ!!馬鹿!!わけわから「トビ」…な、なんじゃ…」
「…待ってたよ」

トビは何か言おうと口を開いたけど俯いて、こくりと頷いた。

「…すまん」

真っ赤に染まった頬と耳が可愛い。
どこか熱を帯びた眼差しにくらっとした。

「さーて、手当ても終わったしお前授業戻れよ」
「…名前?」

今、これ以上近くにいたら何しでかすかわかったもんじゃない。

「嫌じゃ」
「は?」
「もう少しで授業終わるじゃろ。…名前と、おりたい」

俺のYシャツをトビは遠慮がちに掴んで、俺を見上げた。

「…昨日も一昨日も…会っちょらん。…名前が、足りん」
「そういうことは彼女に言うべきだぞ」
「そんなん、おらん」

じっと俺を見つめるトビに俺は溜め息をついて。
彼の額を指で弾こうと手を近付ければトビは目を閉じた。

「バーカ」

少しは俺の気持ちを考えろよ。

目を閉じた彼の唇に自分のを重ねる。
ビクッと肩が揺れて俺のシャツを掴む手が少し躊躇ってから俺の肩の辺りに回された。

彼に近付けた方の手を彼の後頭部に回して、舌で彼の唇の隙間を割った。

「んっ!?」

慌てて離れようとした彼をぐいっと引き寄せて。
縮こまっていた彼の舌を絡めとる。

「ん、ぁ…」

耳に届くのは水音と彼の鼻を抜ける甘ったるい吐息。
肩に回していた手は震えながらも俺にしがみついていた。

好き勝手彼のなかを堪能してから唇を離せば真っ赤な顔と涙で濡れた目が見えてクスリと笑う。

「やっぱり、可愛い」

耳元でそう囁いて俺は彼に背中を向けた。

「、名前っ!!な、んで…」

振り返ればトビは泣きそうな顔をしていた。

「知りたい?」

こくりとトビは頷く。

「部活終わったら連絡して」
「、え?」
「この間の食材、腐らす前に使いたいんだよね」

目をが丸くしてる彼に、今日泊まるけどいい?と尋ねればトビはまた頷いた。

「じゃあ、またね」
「ちょっ名前!!質問の答えは!?」

慌ててそう叫んだ彼に手を振って、保健室を出た。

がっつり生徒に手出しちゃったなぁ…
バレたらクビか?
…まぁ、いっか。





「な、なんなんじゃ…」

自分の唇をなぞる。
キスされた。
しかも、舌を入れられた。

慣れてるはずなのに体から力が抜けて、翻弄されていた。

上手すぎじゃろ、名前…

「…期待、してもええんか?」

ポツリとワシは呟いて、真っ赤に染まっているであろう顔を手で覆い隠す。

結局、チャイムが鳴るまで教室には戻れんかった。

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