04
外を走っていた俺の視界に入った光。
きらりと輝いたそれに、ペダルを止めた。

「おい、どうしたのだ?」

光の先を辿れば俺の教室が見えた。
窓際に腰かける人影。
その姿を目を細めて見つめる。

「みょうじ…チャン?」

夕陽の中に浮かぶ灰色と、夕陽を反射させるいくつものピアス。
姿はちゃんと見えないけど、みょうじチャンだとわかった。


「みょうじちゃんって誰だ?靖友」

俺の隣で足を止めた新開が首を傾げる。

「靖友?」

新開から視線を逸らして彼女を見つめる。

「…彼女が、靖友の悩みの原因なのか?」
「違ぇヨ…みょうじチャンは何も悪くねェ」


顔を伏せて首を横に振る。


「何も…悪くねェンだヨ」
「…みょうじちゃんってどんな子なの?」
「灰色の髪に沢山のピアスをした…綺麗な子」

新開が驚いた顔をした。

「ンだよ」
「靖友が女の子のことそんな風に言うとは思わなかった。恋愛とか興味ないって言ってたろ?」

もう一度ペダルをこぎ出して、視線を落とす。

「恋愛に興味ないんじゃねぇンダヨ」
「え?」
「みょうじチャンにしか興味ねぇノ」


新開は目を丸くして俺を見ていた。

「え…なに、それ…は?」
「元カノなんダヨ。みょうじチャンは…」
「元カノ…」


前も放課後の教室で絵を描いていた。
絵を描きながら俺の部活が終わるのを待ってくれていた。

「…それで、なんでそんなに悩んでるんだ?」
「酷い振り方をして、別れた。2年近く会ってなかったのに再会したんダヨ…数日前」

彼女が転入してからもうすでに1週間はたっていた。
それでも会話はおろか目も合わせていない。


「振ったのに、好きなのか?」
「好きダヨ。みょうじチャン以外じゃダメなンだ」
「へぇ…そんなに好きなんだ。なんか、意外だな」

そう言って笑った新開に舌打ちをする。

「声、かければいいだろ?」
「…簡単じゃねぇンダヨ」







教室に差し込む夕陽が綺麗だと知ったのは昨日だった。

その夕陽を描こうと夕方の教室に1人残った。
差し込む夕陽を自分の席の机に腰かけて眺める。

広げたスケッチブックとパレットと小さな水桶。
夕陽の色を作ってスケッチブックに色を乗せていれば学校の前を通った自転車の軍団。

その中の1人が足を止め、そしてもう1人がその隣に止まった。

「え…」

じっと視線をこちらに向ける1人に筆が止まる。

「靖、友…」


あの頃と景色が重なった。
中学時代に部活をする靖友を教室で待っていた。

校庭を見ながらいつも絵を描いていた。
そんな私を校庭から靖友が見上げて、手を振ってくれた。

あの頃の景色が、見えてしまった。
手は振ってくれなかった。
私を見つめる姿もあの頃より…哀しそうに見えた。

視線を夕陽に戻して、止めた筆を動かす。

「本当に…忘れられればよかったのに」


スケッチブックに広がる夕焼けはどこか哀しそうに見えた。

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