01
大学に入学して少しして俺が目にしたのはあの不思議チャンな後輩が乗っていたのと同じ真っ白なLOOKだった。颯爽と俺の前を通りすぎたその自転車は大学に入っていく。
「…女?」
自分が所属する自転車のサークルには女はいたか?と考えていれば後ろから声がかかる。
「こんなところで何をしているんだ?」
「金城…サークルに女っていたかァ?」
「女子?いや、会ったことはないな」
どうしてだ?と俺に問いかけた金城に今見たもののことを伝えれば、やっぱり自転車かと笑った。
「なんだヨ」
「いや、女のことを聞くのは珍しいと思ったんだが。やっぱり自転車関係なんだなと」
「当たり前だろ。それ以外興味ねェよ」
地面につけていた足をペダルにかけて、学校に入っていく。
隣には金城が並んで。
「…白いLOOK…あれか?」
金城が指差した先の駐輪場にはさっきのLOOKが停められていた。
「ヘェ…綺麗にしてるンじゃナァイ?」
「そうだな。だが、タイヤのすり減りを見る限り…」
「すげェ走ってる」
綺麗な車体に比べてすり減ったタイヤ。
よく見ればハンドルもすり減っていて。
「ますます興味でた」
「随分と嬉しそうだな」
「そうカァ?」
自分の自転車を停めて、真っ白なLOOKに視線を向ける。
「不思議チャンじゃねェといいケド」
「真波か?」
「あァ。アイツと同じLOOKだからナァ…」
思い出して、溜め息をつく。
「思い出しただけでもめんどくせっ」
▽
風でぐしゃぐしゃになった髪を解かして欠伸を噛み殺す。
「授業は…あぁ、あれか」
階段をタンタンと音をたてながら上って。
教室の真ん中より少し後ろの端の席に腰かける。
教科書と一緒に雑誌を出して。
「んー…新しいタイヤ…欲しいな」
愛車のLOOKはタイヤがすり減ってきていて、あまりいい状況ではない。
新しいのが欲しいけどお金あったかなぁ…
ペラペラとページを捲ってふと、思い出す。
そういえば、この大学自転車競技のサークルあるんだよねぇ…
入りたいけど男ばっかりだろうしな…
徐々に席が埋まって、周りには知らない人が腰かける。
教授が教室に入ってきて、雑誌を閉じた。
退屈な授業を聞きながら頭のなかは自転車のことばかり。
誰かと走りたい。
大学に入ってから誰かと競ったことはないし。
「欲求不満、かなぁ…」
教室の窓の外に視線を向ければ、駐輪場が見える。
自分の真っ白なLOOKの近くに停められている自転車に私は目を丸くして。
「Trek!!それに、Bianchi!!」
見えた自転車に私は前のめりになって、窓の外を見つめる。
私はLOOKとBianchi。
どちらに乗るかずっと悩んでいて、結局LOOKを選んだけど。
「近くで見たい…」
私は授業を聞きながらも、視線はBianchiとTrekに奪われたまま。
チャイムが鳴って、授業が終わった。
私は荷物を乱暴に鞄に教科書を入れて、駐輪場に走り出す。
階段を一段飛ばしで降りていって、曲がり角を勢いそのままに走っていけばドンッと誰かにぶつかって。
「す、スミマセン!!」
相手の返事を確認するよりも前にその人の横を通り過ぎて駐輪場にたどり着く。
「Bianchi!!Trek!!」
そこにある自転車に胸が弾む。
BianchiもTrekも近くで見れば車体に傷が多くて。
きっと何年も乗ってるんだろう。
一緒に色んなところを走って、一緒に色んな戦いをして。
傷だらけになりながらも、綺麗にしてもらって、大事にされてる。
「…愛されてるんだねぇ…君たちは」
傷だらけで、でもキラキラと輝いて見えるその2台の自転車に微笑んで立ち上がる。
「さ、てと授業、授業。終わったら箱根行こう」
走りたくてうずうずする。
真っ白なLOOKを見て、早く授業終われーと思いながら校舎に戻った。
「あ、れ…そういえば…」
あのBianchi…どっかで見たことあるなぁ…
「いや、まぁ違うか…」
有名ブランドだし、同じの乗ってる人沢山いるよねぇ…
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