02
教室変更の貼り紙を見て、いつもと違う教室に入る。
窓際の空いた席に座ってめんどくせぇ、と思いながらも筆箱とルーズリーフを出した。

頬杖をついて窓の外に視線を向ければ駐輪場が見えて、自分の愛車の前に人がいるのが見えた。

「あの女…」

さっきすごい勢いでぶつかってきた奴だ。

「…何してンだ?」

その女はBianchiとTrekの前に立って、そこから動かない。

教室には人が増えてきて、あと少しで授業が始まるんだろう。
女は何をするわけでもなくそこから離れていく。

意味わかんね。
なンだよ、アレ。

茶色の髪をぐしゃぐしゃと指でかき混ぜたその女は真っ白なLOOKに触れてから校舎に戻っていく。

「…LOOKの持ち主…?」

そういやァ、乗ってた奴は髪は短かったし茶色だった。
もしLOOKの持ち主なら、俺達の自転車の前にいたのも頷ける。
BianchiもTrekも有名なブランドだ。

「会ってみてェ」

俺は真っ白のLOOKを見ながら頬を緩めた。





授業がやっと終わって。
箱根山に走りにいこうと嬉々としながらLOOKの鍵を開ける。

BianchiとTrekはまだそこに停められていた。

「誰が乗ってるんだろう」

愛車に跨がって視線をそちらに向けてから前を見る。

キラキラと輝いているその自転車に私は頬を緩めた。

「いつか会えるかなぁ…」

自転車に乗ってればきっといつか会える、と思いたい。
誰かと競いたいし。

やっぱりサークル入ろうかな…
自転車に跨がったまま、そんなことを考えて頬を緩ませる。


「んー、楽しみだなぁ」


手袋をつけて、ペダルを回す。
目指す先は箱根山。

頬を撫でる風に目を細めて。
流れる景色のなか、BianchiとTrekの前に立っている男の人が2人いて。
あぁ、あの人たちだとすぐにわかった。

「いつか、会おうね…BianchiとTrekの人たち!!」

なんとなく、いつもより速く走れる気がした。





授業を終えて、金城と合流してから自転車置き場に向かえばあのLOOKはもう停まっていなかった。
視線を校門の方へ向ければ颯爽と走り去る自転車が見える。


「ちょっと遅かったナァ」
「LOOKか?」
「そ。2限目の前に俺らの自転車見に来てたヨ」

金城は本当に自転車が好きなんだな、と呟いて鍵を開ける。

「まァ、いつか会えるよネェ」
「会いたいのか?」
「まァね」

短い休み時間、自転車を見るためだけに走っていた彼女。
自転車に対して真っ直ぐすぎる名前も知らない彼女に俺が全てをかけた男を思い出した。

あそこまで不器用な人ではないだろうけど。

「似てるんだよナァ…なんか」
「誰に?」
「いや、こっちの話」

金城は不思議そうに首を傾げて。
俺はBianchiに触れる。

「なァンか、走りたい気分」
「珍しいな」
「うっせ」

自転車に跨がって金城を見れば、どこまで走る?と問いかけてきて。

「ンなもん、テキトーだろ」
「そうだな」

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