03
LOOKを見つけてから数日。いつも通り教室に入って窓際の席に座る。
俺の前には女子が一人座っていて、頬杖をついて雑誌を見ていた。
その後ろ姿にどこか見覚えがあって、彼女の手元の雑誌に視線を向ければそこには自転車のパーツ。
「見ィつけた」
小さく呟いて、口元が緩む。
「ねェ、ロード好きなノォ?」
「え?」
俺の言葉に彼女肩を揺らして振り返る。
目を丸くして俺を見た彼女は視線を俺の手に向けてから顔をこちらに向けた。
「ン?」
「Bianchiに乗ってる人?」
「そォだケド…なぁんで、わかった?Trekもあったじゃナァイ?」
俺の言葉に彼女は目をキラキラさせる。
「やっぱりそうなんだ!!会いたいなって思ってたの!!」
「それは嬉しいケドォ、質問の答えが知りたいんだケド」
あ、ごめん。嬉しくなっちゃって!!と彼女は苦笑して。
「Bianchiが教えてくれたよ、どんな人が乗ってるか」
「ハァ?」
彼女はふわりと微笑んで、俺は首を傾げる。
やっぱり真っ白のLOOKに乗る人って不思議チャン?
「わっ引いてる!?ごめん、冗談だから!!」
「冗談、ねェ…」
「そんな怪訝そうに見ないでよ。まぁ強ち間違ってはいないんだけど」
机の上に乗せていた手。
それを指差して、彼女は口を開く。
「同じ握り方でも力が入る場所はみんなそれぞれ違うの」
「ハァ?」
「Bianchiのハンドルグリップ。普通なら指先がくる場所が一番摩れてた。て、ことは指先に力が入ってるってことでしょ?乗ってる人は指先にマメがあったりするかなって思ったの」
俺の指先のかたくなった皮膚を指差して、笑った。
「指先ってあんまり力入らないから、珍しいなって思ってたの」
「この間のあの短い休み時間で、そんなことまで見たってことだよナァ?」
「え、何で見てたの知ってるの!?」
慌てる彼女に俺は笑って。
「スゲェ勢いでぶつかってきたじゃナァイ?」
「あ、あの時の人!?ごめん、怪我してない?あの時、テンション上がりすぎて…」
「そんな柔じゃねェカラ」
よかったぁ、と肩の力が抜けて微笑む。
「まぁあれで怪我してたらレースで当たり負けしちゃうよね。車体とかの傷見る限り…結構当たり激しいそうだし」
「間違ってネェケド」
「これは全部、Bianchiが教えてくれたこと。強ち間違ってないでしょ?」
不思議チャンなことにはかわりねぇな。
クスクスと彼女は笑って、教室に教授が入ってくる。
「ねぇ、お昼誰かと約束してる?」
「してネェよ」
「じゃあ一緒に食べない?」
いーよ、と返事をすれば嬉しそうに笑って雑誌を閉じた。
▽
授業が終わって2人で学食に向かう。
「ね、名前。教えてよ。私はみょうじなまえ。18歳だよ」
「荒北靖友。19歳」
「あれ、年上?もしかして先輩?」
慌てる彼女に違ェよ、と言えば安心したのかふわりと微笑んだ。
「あれ、荒北靖友…靖、友…?」
「ナァに?」
「どっかで聞いたこと…ある気がしたんだけどなぁ…」
彼女はじっと俺を見つめて首を傾げる。
「わかんないからいいや」
「ダメじゃねぇか」
「自転車関係以外の記憶力悪いんだよね」
どこで聞いたのかなー?なんて呟く彼女に俺は苦笑する。
「自転車馬鹿?」
「あ、それ荒北君まで言うの!?出会ってすぐだよ?」
「俺までってことはァ、よく言われンのネ」
真波みたいに不思議チャンだけど。
根は福チャンに似てる気がする。
真波と福チャンを足して2で割った感じか…
「荒北君、席どこでもいい?」
「おう」
みょうじチャンはパスタをテーブルに置いて。
「真っ白のLOOK。いつなら乗ってんノォ?」
「あれはねー…中2くらいかな。あれ、LOOKに乗ってるって言ったっけ?」
「聞かなくてもわかる。LOOKに乗ってンの見たから声かけたんダヨ」
みょうじチャンは目を丸くしてすぐに笑う。
「どんな奴なんだろうって思った?」
「まァね。女でロードって珍しいじゃナァイ?」
「あんまりいないよね。男でもあんまり乗ってる人いないし。荒北君に会えてよかった」
話を聞けば、練習相手がいないらしい。
「サークル入れば?」
「荒北君、入ってるの?」
「ン。俺とTrekの奴。先輩も結構いるヨ。活動も活発だしネェ」
そう言えば彼女の目はキラキラと輝いて。
「入る!!」
「単純」
「ひどいっ!!」
彼女は楽しみだなぁと呟いて。
「ホント、好きなだネェ」
「うん、大好きだよ。サークル行くとき一緒に行っていい?」
「今日?」
今日!!と子供みたいに答えて、携帯を取り出す。
「連絡先、交換しよ?そっちの方がラクでしょ?」
「いーよ。授業終わったら連絡すんネ」
「よろしくね」
携帯に増えたみょうじなまえの文字。
メールアドレスにはLOOKとloadの文字があって、笑えば彼女は首を傾げる。
「みょうじチャンはやっぱり自転車馬鹿だネェ」
「えぇ!?なんでよ!!」
「何でもダヨ」
女なんてめんどくせぇと思ってたけど、
こいつならそんなこともない気がした。
戻る