04
授業終わったよ、とメールを送れば校舎の入り口にいるとメールが届いた。

「荒北君!!」
「よォ」

荒北君は片手を上げて。
隣の人はじっと私を見ていた。

駆け寄って隣の人の手を見てあぁ、と納得する。

「Trekの人?」
「せェかい」
「金城だ」

差し出された手を握り返して微笑む。

「みょうじなまえです。よろしく」

彼の手の皮膚は固くなっていて、どれだけ自転車に乗っているかすぐにわかった。

「ねぇ、荒北君」
「ナァニ?」
「ちょっと手、貸して」

ハァ?と怪訝そうな顔をした荒北君を無視して彼の右手を握る。
荒北君の手も固い。

「ありがと」
「意味わかんねっ」
「気にしないで」

2人は顔を見合わせて首を傾げた。

「サークルに入るのか?」
「うん、そのつもり。男の人と走れる機会なんてそれくらいだしね」
「ンじゃ、行く?」

荒北君の言葉に頷いて、歩き出した2人の後を追いかけた。

部室棟にある一室に入れば中には自転車関係の本が並んでいて。

「わぁー、すごい!!」
「みょうじチャン、自己紹介」
「あ、そうだった…」

中にいた先輩らしき人は目を丸くしていて私は苦笑する。

「1年のみょうじなまえです。今日から参加するつもりなのでよろしくお願いします」
「女の子だ…」
「このサークルに女の子って初めてだよな?」

驚いている先輩たちから荒北君に視線を向ける。

「ね、あそこの本って勝手に読んでいいの?」
「あァ」
「ホント!?」

その本を読もうと手を伸ばして、あと少しで触れるところで手を止めた。

「みょうじチャン?」
「読むのはやっぱり今度でいいや」
「ハァ?」

くるっと後ろを振り返って笑う。

「走ろ!!!」

荒北君は目を丸くしてすぐに笑いだす。

「ちょっと、なんで笑うの!?」
「いや、自転車馬鹿だナァって。じゃ、走るゥ?金城は?」
「俺も行かせてもらおう。」





真っ白のLOOKに乗ってみょうじは楽しげに口元を緩ませる。

「女子もレーパン穿くんだナァ…」
「まぁねぇ。こっちの方が速いし。男の人と走るのに手加減はしてられないしね」

手袋を嵌めて、彼女は手を数回握りしめた。

「ついて来れなかったら言えよォ?みょうじチャン」
「あ、馬鹿にしてる?」

ハンドルに肘をついてこちらを見た彼女の瞳は獣のようにギラついていて、俺はニヤリと笑う。

「悪いけど、これでも…」

彼女はニヤリと笑った。

「負けられない立場なんだよ」

走り出せば彼女はヘラヘラ笑いながら俺たちについてくる。

「荒北君も金城君もいい走りだねぇ」
「普通についてこれるんだな」
「へェ…やるじゃナァイ?」

スピードを上げても、それに合わせてスピードを上げる。
表情は相変わらずヘラヘラしていて。

差し掛かった登りを見て、彼女の目はキラキラと輝きだす。
そして弧を描く唇。

「お先ぃ」
「な、お前…!?」

俺達を抜き、スピードを上げて彼女は坂を登っていく。
その背中に例の不思議チャンが重なって見えて。

「似ているな」

金城はそう言って俺を見た。

「お前のところのクライマーに」
「真波ダロォ?真っ白のLOOKに坂になると目が輝いて…ケドォ…」

あの自転車馬鹿な感じは…福チャンと重なって。

「変なの見つけちゃった気ィする」
「…そうだな」

彼女の背中を追いかけても、頂上まで追い付かなくて。
肩で息をしながらも彼女は笑っていた。

「やっ、たー」
「ハッあり得ねェ…」

みょうじチャンはこちらを振り返って、ピースを向ける。

「クライマーとか、言ってなかったじゃナァイ?」
「荒北君も言ってないよ」
「ここから、ついてこれるノォ?」


俺の言葉に彼女はニヤリと笑った。

「よ、ゆー」
「面白い奴だな」

金城もどこか楽しげに笑って。
俺もニヤリと笑う。

「じゃ、行くカァ」
「うん!!!」


大学に戻った時にはもうみんなへとへとで。
みょうじチャンも肩で息を繰り返す。

「つ、かれたー」
「普通についてくるトカ…あり得ねェ…」
「女子、も…ここまで速いのか…」

金城の言葉に彼女は笑って。

「甘く見ちゃダメってことだよ」

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