05
「荒北君だー」「はよ」
自転車で学校に向かえば隣に並んだ自転車。
「みょうじチャン、今日も元気だネェ」
「LOOKと一緒だからねぇ」
「やっぱり自転車馬鹿。家でも練習してるデショ?」
俺の言葉に彼女は笑う。
「練習してるつもりはないかなー。ただ、乗ってるだけ」
「ずっと?」
「暇があれば!!バイトとかもあるからね」
バイト何してるノォ?と聞けば彼女はまた楽しげに笑って。
「自転車屋さん!!整備できる人探しててねぇ」
「ハァ?マァタ自転車?」
「楽しいんだよー?」
やっぱり馬鹿だナァと視線を向ければ彼女は頬を膨らませる。
「なんか失礼なこと考えてるでしょ!!」
「べっつニィ」
いつも通り自転車を停めれば彼女はBianchiの前にしゃがんだ。
「ナァニ?」
「自転車買うときにね、LOOKとBianchiで悩んだんだよねぇ…」
「へェ。なんでLOOKにしたノォ?」
彼女は立ち上がって俺の隣に並ぶ。
「友達がね、Bianchi乗ってて。LOOKにしたんだけど」
「へェ」
「Bianchi同級生にあげたらしくて。あんなに高い自転車あげるとか、あり得なくない!?」
彼女の言葉に俺は首を傾げる。
「俺のBianchiも貰い物だケドォ?」
「えぇ!?そうなの!?…Bianchiあげる馬鹿、2人もいるんだ…」
「みょうじチャンに馬鹿って言われちゃおしまいだネェ」
俺の言葉に彼女は眉を寄せて。
「ひどいっ!!馬鹿じゃないよ!?」
「自転車馬鹿じゃナァイ?」
「それみんな言うけど!!そこまでじゃないし」
どうだか、と言って笑えば不機嫌そうに俺を見て。
「冗談ダヨ」
ぐしゃぐしゃだったみょうじチャンの髪を乱暴に撫でる。
「髪、ぐしゃぐしゃ」
「荒北君のせいでね!!」
「元から。じゃ、またネェ」
別々の授業に向かうため、階段で別れの言葉を言えば彼女は笑って手を振る。
「またねぇ!!」
「ン」
彼女と出会ってまだ両手で数えられるくらいしかたっていない。
それでも、彼女が隣にいることが当たり前のようになってきた。
自分がここまで誰かを気に入るのは、福チャン以来で。
「変なノォ」
こんな風なるのも、俺をこうさせる彼女も。
変だと思った。
▽
「荒北」
「なンすか?」
部室でレポートをしていた俺の肩を先輩が叩いて、手招きをする。
首を傾げて、そちらにいけば一冊の雑誌を見せられて。
「…ハァ?」
見開きのページにデカデカと写るのは見覚えのある人で。
顔をあげて、部室の隅で雑誌を読んでいる彼女を見る。
「みょうじチャン…?」
「この戦歴見てみろ」
先輩が指差した戦歴のところには海外の大会での優勝の文字が並ぶ。
「あり得ねェ…」
「だろ?」
無敗の女王、みょうじなまえ。
見出しにはそう書かれていた。
「みょうじチャン」
「ん?なに?」
「これ、ホント?」
雑誌を彼女に見せれば目を丸くして。
「なんでそんな記事出てるの!?」
みょうじチャンは雑誌を奪い取って、すぐに頭を抱える。
「恥ずかし…」
「無敗の女王ネェ」
「わーっ!!恥ずかしいからそれ言わないで!!」
真っ赤な顔でこちらを見る彼女に笑って。
「みょうじ、有名人だったの?」
「…まぁ向こうで、そこそこに」
先輩の問いにそう答えて彼女はため息をついた。
「穴があったら入りたい…」
「高校生でよくこんなに海外の大会、回れたな」
彼女は言ってませんでしたっけ?と首を傾げる。
「私、高校3年間。フランス留学してたんですよ」
「ハァ?留学!?」
「あれ、荒北君にも言ってなかった?」
目を丸くした彼女に俺はため息をついて。
「初耳だケドォ?」
「あれ、そうだっけ?ごめんねぇ…」
話を聞けば、彼女は高校3年間を単身でフランス留学をして自転車漬けの日々を送っていたらしい。
「やっぱり自転車馬鹿じゃナァイ」
「そんなつもりないけどなぁ…」
彼女から雑誌を取り返して、記事を眺める。
「アレ、今週のレース出んノォ?」
「あ、うん。日本初レース!!」
先輩に目標を聞かれれば彼女はしれっとした顔で言ってのけた。
「そりゃもちろん、優勝です!!」
「自信満々だネェ…みょうじチャン」
彼女はふわりと微笑んだ。
「だって、私強いから」
彼女の言葉に福チャンの言葉が重なって。
あぁ、やっぱり似てると…そう思った。
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