06
みょうじチャンがレースに出ることになって。
どんな走りをするのかと俺達はレースを見に行くことになった。

「え、荒北君と金城君見に来たの!?」

準備をしていた彼女の元に行けば目を丸くして俺達を見る。

「折角だからネェ。無敗の女王の走りを生で見れるわけだしィ」
「荒北君!?それ、恥ずかしいんだってば!!」
「知らナァイ。金城は先輩たちに頼まれてカメラ係ネ。ゴールする瞬間を撮ってこいって」

カメラ!?と彼女は金城を見て。

「先輩がバイトで来れないらしくてな。俺も興味があったから見に来た」
「うわ、恥ずかしすぎて…」
「けど負けないンデショ?」

俺の問いかけに彼女は笑う。

「負けないよ。私、強いから 」
「ハッ楽しみにしてるネェみょうじチャン」
「あ、信じてないでしょ!?」

みょうじチャンはむっと頬を膨らませて、俺の顔を見る。

「2位と5分差以上つけて帰ってくるから、ちゃんと見ててよね!!」
「ハァ?」

フンッとみょうじチャンはそっぽを向いて。
選手の集合場所に向かおうとする。

「みょうじチャン」
「何?」

振り返った彼女の頭をぐしゃぐしゃとかき乱してニィと笑う。

「ゴールで待ってンネ」
「うん」

みょうじチャンは真っ白のLOOKと共に集合場所に向かって。

「移動するか?」
「そォだネ」





スタート位置に移動すれば思いの外カメラが多くて。

「多くネ?」
「有名な選手だからか?」
「全部みょうじチャン目当てってことネ」

スタート位置にみょうじチャンが入ってきて、こちらを見る。

「ちゃんと見ててねー」

手を振ってそう言う彼女に手をひらりと振り返せば満足そうに笑って、手袋を嵌める。
ハンドルに肘をついて顔を伏せる。

「…真波にそっくり」

アイツはあのまま寝てたけど。

あと少しでレースが始まるとアナウンスが聞こえて、みょうじチャンは顔を上げる。
今まで見たこともないような真剣な表情に俺は口元を緩める。

「別人じゃナァイ?」
「そうだな。周りの声も聞こえていないようだ」

今回のレースは平坦16キロ、登り12キロ、下り12キロの40キロのコースを一周。
みょうじチャンの得意な登りもあるけど。

「5分差以上…どう思う?」
「厳しいンじゃナァイ?クライマーだからネェ…みょうじチャンは」
「本当にクライマーだと思うか?」

金城の言葉に俺は首を傾げる。

「確かに上りで俺達を抜いたが…そこまでの平坦もそのあとの下りも俺達から切り離されずについてきた。無敗の女王と呼ばれているのは先輩達から聞いたが、男と女の体力差は確実にある」
「それでも、ついてきたってことハァ…」
「オールラウンダーの可能性もある。もしそうなら5分差は容易いだろうな」

スタートの合図が聞こえて一斉に自転車がスタートしていく。
大きなモニターに車から撮影したの映像が映し出される。

「みょうじチャン、どの辺りィ?」
「真ん中より後ろだな。見たところ…本気は出してない」

朝の通学と同じ表情で彼女はペダルを回している。
やっぱり上りで勝負するのか?

そんなことを考えながらモニターを見つめていればどこか聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。

「あれ、靖友?」
「アァ?…新開?それに、福チャン!!」

よっ、と手を上げた新開と久しぶりだなと言った福チャン。
金城も久しぶりだなと答えて。

「ナァんでこんなとこにいるノォ?」
「それは俺達の台詞だ」

新開は相変わらずパワーバーを食べながら、バキューンポーズで俺を指差す。
それにイラッとしたのは言うまでもない。

「サークルのダチが出てンだよ」
「え、靖友…女子の友達出来たのか!?」
「そうなのか?」

福チャンまで驚いた、という顔をして俺はため息をつく。

「アイツは自転車馬鹿だからァ…女だけど話は合うンだよ」
「へぇ。その子、どんな子か気になるね」
「ただの自転車馬鹿だケド。お前らは?何でいんノォ?」

俺の問いかけに新開は福チャンを見て。

「新開の従兄弟で、俺の友人が今日のレースに出ているんだ」
「へェ…」
「金城はどうして?」

新開が金城にそう尋ねる。

「先輩にカメラを頼まれたんだ。それに、俺も親しくはしているから興味があった」
「その子、靖友と仲良いの?」
「あぁ。朝も一緒に来ることがあるし、昼も基本一緒に食べてるよな?」

金城の言葉に新開は目を丸くして俺を見る。

「ンだよ」
「付き合ってるのか!?」
「まさか。朝は偶然一緒になるだけだしィ。昼はまァ…一緒に食ってるケドォ」

福チャンがいい友人が出来てよかった、と珍しく笑って。
新開は驚いたまま固まっていた。

「第一中継地点を過ぎたようだ」

金城の言葉に視線をモニターに向ける。

「アレ…」
上位3人に彼女の名前はなくて、首を傾げる。

「調子悪ィのかァ?」
「調子が悪そうには見えなかったけどな」

福チャンと新開もモニターを見て顔を見合わせる。

「名前がないな」
「いつもの美なまえの悪い癖だ。次の中継地点には名前が出るさ」
「…なまえ?」

新開の口から聞こえた名前に覚えがあって、新開の方を見る。

「どうした?」
「なまえって…みょうじチャンのコト?」
「え?…なまえのこと知ってるのか?」

驚く新開と福チャンに俺と金城は顔を見合わせた。

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