07
「…靖友の友達って…なまえなのか?」
「そ。で…みょうじチャンは新開の従兄弟?」
「あぁ。中学までは学校も一緒だったんだよ」

て、ことは…
みょうじチャンのBianchiをあげた友人が福チャンで、それを受け取ったのは俺…だからァ…

「みょうじチャンのいう馬鹿は1人だけみたいだネェ…」
「え?」
「アァ、こっちの話ィ」

モニターに視線を向ければ、第二中継地点の映像が出て。
先頭にみょうじチャンの姿があった。

「なまえが1番みたいだな」
「へェ…やるじゃナァイ?ケドォ…5分差はキツいンじゃ…」
「5分差?」

新開が首を傾げて俺を見る。
さっきの彼女の言葉を新開に言えばどこか楽しげに笑う。

「変わらないなぁ…」
「出来ンのォ?」
「可能だと思うよ、なまえなら。何て言ったって…俺が1度も追い付いたことがないんだから」

パワーバーを食べて、新開は苦笑する。
それに俺と金城は目を丸くして。

「山でか?」
「直線でだよ。寿一は…勝ったことあったっけ?」
「五分五分だ。レースのルートによるけどな」

福チャンで五分五分?
けど、この間は…

「本気にならなきゃ、男にギリギリ追い付けるくらいだよ。けど、本気になったら手をつけられない」
「みょうじチャンがネェ…」
「無敗の女王は伊達じゃないってことだよ」

山の前の第三中継地点ではみょうじチャンと後ろと1分半ほどの差がついていた。

「直線で新開に追い付くってことはスプリンターなのか?」
「あぁ。そうだよ。クライムは苦手だった」

金城の問いかけに新開はそう答えて。
俺と金城は顔を見合わせて、首を傾げる。

「それはないンじゃナァイ?」
「靖友?どうして?」
「だって、みょうじチャンは…」

山を目の前にしたみょうじチャンの表情がモニターに映し出される。
キラキラと輝く彼女の瞳と弧を描く唇。

「「坂を見ると楽しそうに笑う」」
「え…?」
「みょうじが…坂を…?」

坂を颯爽と上っていく背中はやはり真波と重なった。

「似てンだロォ?あの不思議チャンに」
「…そうだな。いつの間に坂を…」
「どこまでも成長していくな、みょうじは」

新開と福チャンはモニターを見ながらそう呟いて。

「5分差は余裕だな」
「そォみたいだネェ…」

坂を独走する彼女。
後ろには誰も見えない。

「そういえば…靖友はなまえとはどうやって知り合ったんだ?」
「ア?アァ…声かけた」
「は?靖友が!?」

モニターを見ていた新開が俺を見て目を丸くする。

「LOOK乗ってる姿…見かけて。会ってみてェって言ってたら見つけたカラ声かけた」
「靖友がそんなことするなんて…尽八にも報告しねぇと」
「ヤメロ。つーか、みょうじチャンは特別だロォ?」

そう、彼女はきっと特別だ。
鼻につく香水の香りもしなけりゃ化粧もほとんどしてなくて。
洒落っ気より自転車。
真っ直ぐすぎる彼女。

「ナァンか…福チャンに似てるンだよネェ…みょうじチャン」
「自転車馬鹿だからな。自転車のことになると他が見えなくなる。…そうか、考えてみれば靖友とは気が合いそうだな」
「デショ?」

折り返し地点を過ぎる頃には5分以上の差がついていた。
みょうじチャンは鼻唄を歌いそうなほど楽しそうにペダルを回していて。

「見てて飽きないだろ?なまえは」
「そォだネェ…」

新開がなまえ、と呼ぶ度に感じるチリッと胸が焼けるようなそんな微かな、でも確実にある違和感。

「靖友?どうした?」
「別ニィ」

よくわからないそれに首を傾げて、モニターの彼女を見つめた。





ゴールに彼女の姿が見えて、ざわめきが大きくなる。
彼女の後ろには誰もいない。

両手を上げて、ゴールテープを切った。
シャッター音のなか彼女はLOOKを撫でて頬を緩める。

向けられるカメラに笑顔見せて、彼女はモニターに視線を向ける。

2位の人がゴールに入ってきてタイムが映し出される。
みょうじチャンとは10分以上の差がついていた。

ペダルを軽く回して俺達の前で足を止める。

「宣言通り!!」
「宣言以上じゃナァイ?お疲れェ」

メットを外してぺったんこになった彼女の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜればみょうじチャンは笑う。

「ぐしゃぐしゃにしないでよ!?」
「ぺったんこよりはマシじゃナァイ?」
「えー…」

金城がおめでとうと伝えればありがとうと少し照れ臭そうにお礼を言って。

「その反応の差はナァニ?」
「荒北君は髪ぐしゃぐしゃにするんだもん!!おめでとうじゃなくてお疲れ、だし」
「じゃあ、おめでと。みょうじチャン」

ニヤッと笑ってそういえばみょうじチャンの顔は紅くなって。

「あーもうっ!!恥ずかしいからなしっ」
「自分で言わせたじゃナァイ?」
「言えとは言ってなーい!!」

みょうじチャンはフンッと顔を背けて。
俺の後ろにいた新開がクスクスと笑う。

「ホントに仲良いんだな」
「うっせ」
「あれ、隼人?」

みょうじチャンが新開の名前を呼んだときまた感じた違和感。

「えー…なんで荒北君と一緒にいるの?てか、なんでいんの?」
「ははっ相変わらずひどいな」

眉を寄せたみょうじチャンに新開は慣れたように笑った。

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