08
レースの表彰式を終えて、トロフィーを持って困った顔をする彼女の元に行く。

「どォしたノォ?」
「トロフィー邪魔だなぁって」

リュックにそれを突っ込んだ彼女は顔を上げて。

「で?何で荒北君と隼人が一緒にいるの?福富まで」
「全員同じ高校だよ。金城は俺達のライバル校の主将」
「へぇ…て、ことは。隼人達は金城君に王座を奪われたわけねぇ」

さらっと一番触れてほしくないところに触れ、彼女は立ち上がる。

「まぁ王座とか興味ないけど。同じ高校か…て、ことは…福富のBianchiって…」
「俺がもらった奴ダヨ」
「やっぱり馬鹿は1人しかいないか。うん、けど…荒北君にあげたなら文句はないね」

ハァ?と言葉を漏らせば彼女はにこりと笑う。

「荒北君みたいな走りのためなら投資する価値があるってこと。隼人にあげたとか言ったら、お金を溝に捨てるようなものだけどねぇ」
「相変わらず俺にはひどくないか?」
「そりゃそうでしょ。行いの差ってやつ?…で、抜けるようになったの?左側」

あぁ、と新開が答えれば満足そうに笑う。

「今度走ろうか」
「もう負けるわけにはいかないな」
「私も負けないよ?」

彼女は楽しそうに笑ってLOOKに跨がる。

「ねェみょうじチャン」
「ん?なに?」
「クライム苦手だったってホント?」

俺の問いかけに彼女は目を丸くして、すぐに微笑んだ。

「ホントだよ。元々スプリンターだったんだけどねぇ…フランスのチームで必要とされたのがクライマーだったんだよ。だから、早くレースに出たくてクライマーになったの」
「なろうと思ってなれるもなのか?」
「努力と気合いかな。ただひたすらクライムしただけだよ」

今はオールラウンダーってことになってる。
彼女はそう言って楽しそうに笑う。


「で、なまえ。折角会ったんだし飯でも行こうぜ?」
「隼人のおごりね。荒北君と金城君もどう?福富は来るでしょ? 」
「あぁ、行かせてもらおう」

2人は?とみょうじチャンが俺達の顔を見る。

「福チャンが行くならァ」
「俺はこのあと用事があるから、悪いが断らせてもらう」
「そっかぁ。じゃあ金城君はまた大学でね」

見に来てくれてありがとう、と言いながら手を振って。

「荒北君は来るんだよね。てか、福チャンって福富のこと?」
「そォだヨ」
「可愛いあだ名ついたねぇ。よし、じゃあ隼人のおごりでご飯ー」

苦笑する新開のことなんて無視して、早く行こうと俺達を急かす。

「…楽しそうだネェ、みょうじチャンは」
「え?うん。だって、LOOKと走れたんだもん」
「結局そこネ」





「まァたパスタ?」
「好きなんだもん」

幸せそうにパスタを食べながらみょうじチャンは笑う。

「荒北君の名前、どっかで聞いたことあるって言ったじゃん?」
「アァ、言ったネ」
「隼人が電話で言ってたんだと思う。面白い奴が入ったーって」

思い出せてスッキリしたと彼女は言って、新開はため息をついた。

「俺の電話まともに聞いてなかったってことか?」
「だって、話長いんだもん。ね、3人の高校時代の話聞かせてよ」

彼女がそう言って、俺達は顔を見合わせる。

「え、ダメ?」
「荒北は不良だった」

福チャンの言葉にみょうじチャンは目を丸くして、すぐに笑いだす。

「似合わないっ!!」
「今時珍しいリーゼントだったんだぜ?」
「うっせ」

身を乗り出してお腹を抱えて笑う彼女の頭を叩けば笑いながらそこを押さえる。

「ひどいっ!!」
「笑いすぎなンだよ、みょうじチャン?」
「仕方ないじゃん。そっかぁ面白そうな高校時代だね」

なんでかみょうじチャンが笑ってるのは嬉しかった。
その隣に新開がいるのはムカついたけど。

「みょうじチャンは、どんなだった?」
「今と変わらないよ。自転車に命かけてたし。ツールとか見に行って、レース出て、坂上って…みたいな?」
「みょうじらしいな」

福チャンの言葉によく言われるーと笑いながら答えて。

「彼氏は出来たか?」
「隼人はすぐにそういう話する。めんどくさいなー」
「なまえは一応女だろ?そういうのあってもいいだろ」

みょうじチャンは眉を寄せて、そんなの興味ないしと答えて。

「付き合うなら自転車乗ってる人がいい」
「言うと思ったヨ」
「これ、最低条件だよねぇ」

福チャンは首を傾げて、新開はため息をつく。

「なまえはどんな人と付き合いたいんだ?」
「よくよく考えるとねぇ、荒北君みたいな人と付き合いたいね」
「ハァ!?」

君嶋チャンはふわりと微笑んで。

「自転車乗ってるし、一緒にいて楽しいし。適度に優しくしてくれるし…何だかんだいって世話焼きっぽいしねぇ」
「…馬鹿じゃナァイ?」
「あ、ひどーいっ!!」

柄にもなくドキッとした。
気にしないように装っても、胸は少し早く鼓動を刻む。

ホントに君みょうじチャンといると、変になる。

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