06
「よっしゃー、体育だ!!」

嬉しそうに叫ぶ友人の言葉にそーだな、と返してジャージを羽織る。
あの日以来、委員長とは話をしていない。
元々喋る方じゃないから別に問題はないけど、心に何かが引っかかりいつも息苦しさを感じる。

「テンション低くね?バスケだってよ、今日」
「バスケ…?」
「おうっ!!スゲェ楽しみ」

友人の声が遠くなる。
いつか、いつか…こんな日が来るとは思ってたけど…

体育館に入ると可動式のゴールがすでに設置されていて、茶色いボールが籠に入れられ置いてあった。

「みょうじ!!お前、ボーっとしすぎだろ」

練習が始まってすぐに友人の大きな声で叫ばれ悪い、とだけ返すと視界の端で真波がこちらをじっと見つめていた。

ボールのバウンドする音が、床と靴が擦れる音が、ボールに触れる音が、リングをくぐった音が体育館を埋め尽くす。

耳を塞ぎたい。
今すぐ、ここから…逃げたい。
一歩、後ずさる。
そして、また一歩一歩と後ろに逃げていく。
息が詰まる。
目の前が霞んでいく。
体が震えていく。

背中に、トンと当たった無機質なもの。
ゆっくり振り向いて、ヤバいと思った。
目の前にある自分よりも大きな、ゴールにあの光景がフラッシュバックする。

「みょうじ!!!!」

傾いた体を、抱きとめたのは山岳だった。

「みょうじ,みょうじ!!」
「さん、が…く」
「なんで、ダメなのに来たんだよ!!?」

泣きそうな顔の山岳に、ただ笑った。

「ごめ、ん…」

力の抜けた手が体育館の床に落ちる。
指先に触れた温度に蘇るあの日の情景。

悲鳴と仲間の声。
乱雑に投げ捨てられたボールが弾む音と、駆け寄ってくる人たちの足音。
霞む視界の向こうに見えた眩しいほどの体育館のライト。
観客席で立ち尽くす山岳。

あの日も…

「お、前…は…泣きそう…だった、な」

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