07
目を開けると、見慣れない天井が見えた。

「あれ、ここ…」
「みょうじ」
「真波…」

ベッドの横にある椅子に座った山岳が嫌な顔をした。

「山岳、って呼んでよ」
「…俺、倒れたのか…」
「ねぇ、みょうじ…なんで、俺達と離れようとしてんの」

山岳から視線をずらす。

「そんなこと、してねぇよ」
「嘘吐き」
「嘘じゃない」

山岳が俺のジャージの首もとを掴んで顔を近づける。
無理矢理合わせられた視線。

「逃げないでよ」
「逃げてない」
「逃げてる。あの頃のみょうじを知ってる俺達は邪魔?俺達がいると忘れられない?あの頃から、逃げられない?」

俺は真波の手を乱暴に掴む。

「わかってんなら、関わってくんじゃねぇよ!!!わかってんなら、蒸し返すんじゃねぇよ!!お前も、委員長も…逃げて何が悪いんだよ!!!!」

山岳の言葉を待たずに、自分の口は止まらない。

「大切なもの失ったことないくせに、俺の気持ちなんかわかんねぇだろ!!?あれだけが、生きがいだったんだよ。バスケが、バスケだけが!!」
「みょうじ…」
「山岳に何がわかんだよ!!この左腕じゃ、もう何も掴めねぇんだよ……」

握りしめた左腕を山岳の胸に叩きつけて俯く。
頬に涙が伝う。

「もう…逃げさせてくれよ……」

握りしめた手も、山岳の腕を掴んだ手も力を失いずるずると落ちた。

「頼む、から……もう、いいだろ……」
「みょうじ、待って!!みょうじ!!」

山岳の声を聞きながら、俺は保健室を出た。

どうやって家に帰ったかも覚えてない。

鳴り響く携帯と家の電話を聞き流して部屋の隅に蹲っていた。
こういうとき、家族がいなくてよかったなんて思いながら。

顔を上げたときに映ったトロフィーや、額縁に入れられた賞状を乱暴に床に落とす。
大きな音をたてて落ちたそれを見下ろして、肩で息をする。

あの時…怪我さえしなければ…

中3の夏。
最後の試合。
トーナメントの決勝で、ブザービーターを決めた直後だった。
可動式のゴールが傾き、俺を下敷きに倒れたのだ。
肩より上に上げられなくなった左肩。
その日以来、バスケは出来なくなった。

頬から落ちた雫がトロフィーに落ちて滑り落ちる。
「なんで…俺なんだよ…」

大抵のことじゃ挫けない。
怪我だって沢山してきた。
それでも、絶対にあのコートに戻れた。

「いっそ、死ねばよかった……バスケのない世界に…生きる意味なんか、ない」

膝から崩れ落ちて、子供みたいに声をあげて泣いた。

「畜、生……」


山岳視点

「みょうじ…」
保健室から飛び出したみょうじは教室に帰って来なかった。
一応部活に行っても、体は思うように動かなかった。

「不思議チャン、また喧嘩ァ?」
「前は、違いますよ。今回は、そうかもしれないです」
「…ナァニしたのォ?」

荒北先輩に一度視線を向けてから、俯く。
「生きがいを失った……友人を…追い詰めたかもしれないんです」
「ふぅん…」
「怪我して…バスケが出来なくなって…それから、逃げようとしてたみょうじを…」

先輩がめんどくさそうに溜息をついた。

「逃げても、なンもなんねェぞ。前見て、振り切らねェと。俯いて、腐ってる間は…変われないんじゃナァイ?」

先輩の言葉にただ、俯くしかなかった。

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