08
次の日一応学校に行ったが、足は教室じゃなく屋上に向かっていた。

「…よォ」

フェンスに寄りかかって俯いていた俺の頭上から落とされた声。
顔を上げると、以前自転車部の部室の前で会った先輩だった。

「お前だろォ?みょうじって」
「みょうじ、ですけど…」
「不思議チャンがァ、喧嘩したかもって言ってたぜ?」

先輩の言葉に、目を逸らす。

「目ェ逸らすのって、楽だよナァ」
「え?」
「怪我で挫折して、腐って…過去から目ェ逸らして俯く。昔の俺にそっくりだ」

逸らした目を先輩に向ける。

「俺もサァ、野球やってて…怪我で挫折してお前みてェに腐ってた」
「そう、ですか…」
「けど…不器用で、けど…真っ直ぐな奴に前見ろって言われたんだ」

先輩の言いたいことがわからない。

「俺は、自転車って言う新しいモン見つけた。だからァ…こうやって過去から決別した」
「俺にも、そうなれって言いたいんですか?」
「別ニィ…ただ、そのままでいいのか?」

先輩はそれだけ言って、俺を見て笑う。

「もうわかってンだろォ?過去を悔やんだって何にもなんねェって」
「そりゃ、わかってますよ。どれだけ願っても俺の肩は治らない」

握りしめた手が震える。

「それでも…俺はバスケを捨てたくない。先輩みたいに他の何かを見つけたいわけじゃない。俺には…バスケ以外ないんです」
「だったら戻ればいいンじゃナァイ?」
「え?」

先輩は俺に背中を向けて歩き出す。

「ちょ、先輩!?それ、どういう意味ですか!?」
「100%治らないって言われたカ?1%でも…可能性はないノォ?」

1%の可能性…

「そのままでいたくないナラァ…やることは決まってるンじゃナァイ?」

ガチャリと、音を立てて閉じた屋上のドア。


「やることは決まってる…か」

山岳とも、過去とも…このままでいいのか?
昔みたいに戻れたらって何度も何度も思いながら…
それを飲み込んで心の奥底に押し込んで…

1%の可能性よりも99%の不可能にばかり気を取られていた。
努力もせずに、目をそらして…


握りしめていた左手を見つめる。

「…そ、だよな…」

このままで、いいはずないんだ。
俺はまだあのコートに戻りたいと願ってる。

「…なんか、背中押されちゃったのかな…名前も知らないあの先輩に…」


鞄を掴んでふらりと立ち上がり、屋上を飛び出した。




「なんで俺がこんなことしてんダァ?」

まぁ、いいか。
階段を下りていれば横をすごい勢いで追い越して行った姿。

「遅ェんじゃナァイ?みょうじチャン」

前を見て走っていく彼を見て笑う。

「福チャンの言葉ってスゲェ…」

俺を救った言葉が、彼を救うだろう。

あとは不思議チャンとみょうじチャンが解決することだナ。

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