09
数日後、遅刻して学校に行った俺にみんな目を見開いていた。


「みょうじ君!!?どうしたの、その髪…」
茶髪の長髪だった髪は黒の短髪に戻した。
その髪を撫でて微笑む。


「イメチェン。似合わない?」
「カッコいいけど…どうしたの、急に…」
「ん…ちょっとね…」

テーピングのされた手を見てクスリと笑う。

「もう、逃げてられないんだよ」
「え?」

鞄を机に置いて、机に顔を伏せて眠る山岳の机を蹴り飛ばす。
もちろん、弱い力で。

「うわっ!!?」
「おはよう」
「え?…え!!?」

俺を見て頬をつねった山岳に溜息をつく。

「夢じゃねぇけど」
「みょうじ!!?なんで…」
「ごめんな、今まで」

クラスがざわざわと騒がしくなった。

「もう一回、やってみようと思ってさ。バスケ」
「嘘…本当に!!?」
「ホントだよ」
「みょうじ!!!!!」

嬉しそうに笑って抱き着いた山岳の頭を撫でる。

「山岳、ありがとな…」
「よかった…俺、あの時何もできなくて…けど」
「いいよ、ちゃんと立ち直ったから」

今頃、俺のトロフィーたちはゴミ収集車の中かななんて、頭の隅で考える。

「リハビリと並行して、練習始めるから。昔みたいに戻れる可能性はスゲェ低いけど…俺にはバスケしかないから」
「みょうじなら、大丈夫だよ。絶対に」
「ん、サンキュ」
「やっと、俺の大好きなみょうじが帰ってきた」


小さく呟いた山岳に微笑む。

「お待たせ」
「遅い、馬鹿」
「お前に、馬鹿とは言われたくないけどな」


****

「あ、お久しぶりです」

バスケを再開して数週間後。
自転車部の部室の前で先輩に会った。

「随分変わったじゃナァイ?」
「もう一回、バスケ始めたんですよ。先輩にあんなこと、言われちゃったんで」
「俺は別に何も言ってネェよ?」
「いえ、ありがとうございます。あ、あと山岳呼んでもらえます?」

先輩は部室のドアを開けて、山岳を呼ぶ。
「みょうじ!!」
「お疲れ」

抱き着いて、キスをしてきた山岳の頭を撫でる。
先輩が固まってるのはスルーしていいのか?

「お前ら…」
「あー、荒北先輩!!みょうじは俺のなんであげませんよ」
「いらねぇよ!!!」

まぁ、少し前まで喧嘩してた奴らがこれじゃ…流石に驚くか。

「中学の時から、付き合ってたんですよ。俺達」
「ハァ?」
「俺がバスケやめて一方的に別れを告げたんですけどね。戻りました」

ヘラヘラと笑いながら言うと溜息をつかれた。

「ンだよ、それ」
「あはは、ごめんなさい。あ、そうだ山岳。これ、先生からな」
「え?」

目の前に突き出したプリントの束に微笑む。

「頑張れよ、遅刻魔君?」
「ちょ、みょうじ!!?」
「じゃ、失礼しますね。先輩?」
「おう、じゃあナァ」

2人には、本当に感謝してるんだ。
やっと、前を向けた。
「ありがとうございます」
呟いた声は風に飲み込まれた。

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