01
「少しの間お世話になりますね」

幼馴染はニコニコと笑う。

「あらなまえちゃん可愛くなっちゃってー」
「おばさまもお綺麗なままですね。よろしくお願いします」
「よろしくね。蛍、部屋に案内してあげて」

母親に言われて無言で背中を向けて階段を上がる。

「おじゃまします」

後ろからついてくる足音。

「ここがみょうじの部屋」
「ありがとね、月島君」

ニコリと笑って部屋に入っていくみょうじ。
幼馴染ではあるが中2頃から疎遠になっていた。

異性の幼馴染にはよくあることだ。
思春期に入ってお互いに口を利くことが減った。

ずっと会っていなかったと言ってもあの頃のみょうじとは随分と変わっていた。
いや、変わり過ぎていた。

「なに…あの笑顔…」

ポツリと呟いて、僕は自室に入った。

夕飯が出来たと母親に呼ばれてリビングにいけば椎葉がエプロンをつけてそこにいた。

「なまえちゃんが手伝ってくれたのよ」
「へぇ…」
「手伝っただけでメインはおばさまだから。食べれるもののはずだよ」

ニコニコと笑ってみょうじが椅子に座る。

「なまえちゃん、学校はどこに通ってるの?」
「烏野ですよ」
「あれ、蛍と一緒?」

母さんの問いかけにやはりみょうじはニコニコと笑う。
「クラスが違くて学校で会ったことはないですよ」
「何組なの?」
「2組だよ」

2組は…誰も知り合いいないか…

「4組だったよね?」
「何で知ってるの?」
「クラスの女の子が月島君カッコイイって騒いでたから」

一瞬だけその顔は歪んだように見えた。

「なまえちゃん、朝は何時くらいに家出るの?」
「部活はやってないのでギリギリに」
「わかったわ。お弁当作っておくわね」

やっぱりニコニコと笑うみょうじ。
気のせい、か?

夕飯を食べ終えるとみょうじはすぐに部屋に消えて行った。

「蛍」
「…何?」
「なまえちゃん、家の鍵持ってないから明日から一緒に帰って来てね」

母親の言葉に僕は手を止めた。

「は?」
「お母さんはいつも通り仕事だから。よろしくね」
「鍵、渡せばいいでしょ」

母さんは困ったように笑った。
「合鍵作れないのよ、この家の鍵」
「そういえば…そうだった…」

面倒だ。
そう思って、小さく息を吐いた。

みょうじの部屋をノックすれば少しして部屋のドアが開く。
冷たい風が入ってきてそちらを見れば全開の窓。

「どうかした?」
「…家の鍵、ないんデショ?」
「え?あぁ…うん。ないけど?」
「帰り…僕と一緒に帰るようにって母さんが」

みょうじは目を丸くした。

「なに?」
「あ、いや…ごめんね。私バイトあるから家に帰るの遅いの。だから平気だよ」
「バイト?聞いてないんだけど」
「おばさまには言ったはずだけど…忘れてるのかな?」

わざわざありがとね、とみょうじは笑う。
「平気だけど…」

冷たい風がみょうじの髪を揺らす。
「寒くないの?」
「え?あぁ…平気だよ」
「…そう。ならいいや」
「じゃあ、おやすみなさい」

パタンとドアが閉じるときに見えた手首の傷。

「…まさか、ね…」
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