05
「及川、最近みょうじと仲良いのか?」「え?仲良いって訳じゃないけど…たまに話すようにはなったけど」
「ふぅん…」
岩ちゃんは部室のロッカーをバンッと閉めてため息をついた。
「今までお前の周りにいた奴らとは違うから。仲良くなりたいとか思ってんのかもしんねぇけどほどほどにしとけよ」
「岩ちゃん?」
「お前と仲良くなった奴がどうなるか、わかってんだろ?」
岩ちゃんは多分、俺のために言ってくれてる。
自分のせいでって俺が背負い込まないように。
「うん…そう、だね」
岩ちゃんの優しさなのはわかってたけど。
どうしても彼女とは離れたくないと思った。
心のよりどころみたいな、そんな感じがして。
「そうだよね…」
「俺だって、及川とアイツなら仲良くなれんじゃねぇかと思ってるんだけどな。お前は馬鹿みたいに人気だから」
「うん」
起きてからでは遅いんだ。
彼女が怪我をしたりなんてしたらもう…。
練習をしながら彼女が水道にいるのが見えた。
ボーッと彼女を見ていれば彼女はこちらに気付いて。
にこりと優しく微笑んで背中を向けた。
俺といたらきっと不幸にさせてしまうから。
事情を話して、少し距離を置こう。
▽
「みょうじさん、ちょっと」
「あ、ちょっと待ってもらっていい?」
少し抜けることを話せば眉を寄せながらも友人は頷いた。
「ごめん。なに?」
いつもの告白スポット。
私は呼び出した女の子数人に首を傾げた。
「最近及川くんと仲良いってほんと?」
「及川?あぁ、最近友達になったけど」
「ふぅん…みょうじさんってさぁあんまりそういうの興味ないと思ってたんだけど」
まぁ、及川と仲良くなることでこうなることはわかってた。
近くにいる=危険因子っていう方程式は彼女達の中に確かにあるようで。
「及川くんはみんなのものなんだよね。あんまり仲良くしないでくれない?」
「みんなのもの、ねぇ…」
私はため息をついてから微笑んだ。
「悪いけど断らせてもらうね」
「なっ!?これはお誘いじゃなくて命令なんだけど!!」
「なんでアンタ命令されなきゃいけないの?」
彼女の顔は怒りで真っ赤に染まっていく。
振り上げられた手が頬を叩く。
痛みが走りじんじんと熱を持つ。
「満足?」
「な、によ!!少し可愛いからって調子乗らないでよ!!」
「顔に自信はないけど、確かに可愛いかもね。アンタのその不細工な性格に比べたら」
相手を煽ってることはわかっていたけど、黙ってあげる義理はない。
「この腫れた頬で及川のところに行ってあげようか?貴女に頬を叩かれたのって。涙でも目に溜めながら」
「ふざけないで!!」
「ふざけてんのはそっちでしょ」
彼女達を睨み、一歩近づけばビクッと肩を揺らして彼女は後ずさる。
「及川はみんなのもの?それ、及川が言ったわけ?」
「え…?」
「もし及川がそれを言ったなら、私はなにも言わないけど」
どうなの?と首を傾げれば彼女は視線を逸らした。
周りの子達も気まずそうに顔を伏せる。
「彼が可哀想だと貴女は思わないの?」
「可哀想…?」
「自分の意思で友人を作ることもできなくて。友人を作ればきっとその子は私みたいに呼び出されて脅される。傷付く友人を見る度に胸を痛めてるんじゃないの?」
それは…と彼女達は言葉を詰まらせた。
「貴女達は及川と仲良くできる、めでだしめでたし。みたいな?」
「ち、ちがっ」
「及川の気持ちを1度でも聞こうとしたことは?及川の立場に立って考えたことは?」
顔を逸らしていた彼女の胸ぐらを掴んで無理矢理視線を合わせる。
「めでだしめでたしってお伽噺みたいに終わらせないで」
胸ぐらを掴んでいた手を離して小さくて息を吐いた。
「私ね大嫌いなの、お伽噺って」
もう戻っていい?と首を傾げれば彼女達はこくりと頷いた。
「そう。じゃあ、さよなら」
練習に戻れば友人にお疲れ、と微笑まれた。
「誰にだって幸せになる権利はあるよね?」
「うん」
誰か、彼の本当の気持ちを聞いて。
彼の涙を知って。
ひきつる笑顔に気付いて。
「一方的なめでだしめでたしなんて、私は認めない」
彼も幸せになる権利があるんだ。
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