01
大晦日。
携帯が鳴って、画面には及川徹の文字。

「もしもし」
『もしもーし、なまえチャン?今平気?』
「平気だよ」

大晦日でもハイテンションな彼の声。

「どうしたの?」
『なまえチャン、明日暇だったりしない?初詣、一緒に行きたいなーって…』
「初詣?」

私が聞き返せば、慌てて無理だったらいいんだよ!!と言って。
それに私は笑ってしまった。

『え、何で笑ってるの!!?』
「そんな必死に取り繕わなくてもいいのに。いいよ、明日一緒に行こうか」
『本当!!?やった』

子供みたいに喜ぶ彼に私はまた笑ってしまう。

『初詣、昼間の方がいい?』
「折角だし、深夜行こうよ。今から準備したら11時半くらいに合流できるでしょ?」
『うん!!じゃあ、迎えに行くね。1人で夜道歩いたりしちゃだめだからね?』

こういう言葉が咄嗟に出てくるのはやっぱり及川らしい。

「わかった。着物はさすがに無理だから私服だけどいい?」
『うん』
「じゃあ、またあとでね。あ、ちゃんと温かい恰好で来てね?」

わかってるよ、と及川が答えて電話が切れる。

「さ、てと…準備しようかな…」

1人暮らしの私は1人でおせちを食べるのもなんだか寂しくて。
正月らしいものなんて何も並んでいないテーブルの上。
食べかけのそれにラップをかけて、冷蔵庫に入れる。

部屋着から少しだけお洒落服に着替える。
コートを着て、マフラーや手袋を用意していれば時間はすぐに過ぎて。

11時半、きっかりになった玄関のチャイム。

「はーい」

ドアを開ければマフラーに顔を埋めた彼がいた。

「ちょっと早かったかな?」
「全然。きっかり11時半だよ」

よかったと微笑んだ及川の鼻が赤くなっていて。

「寒かった?」
「すっごく、寒い…」
「カイロ持ってきてあげる。玄関入って待ってて」

うん、とうなずいた彼が玄関に入ってきて私は部屋からカイロを2つ持って及川の元に戻る。

「ポケットに入れておくから。温かくなるまでちょっと我慢ね」
「ありがと〜」
「じゃ、行こうか?」

すごく嬉しそうに笑って頷いた彼に私も笑って、真っ暗な外へ出た。



除夜の鐘が鳴りだした頃、近所の少し大きな神社についた。

「あけましておめでとう、及川」
「あけおめっ!!今年もよろしくね」
「こちらこそよろしく」

あけおめって略すと新年の挨拶っぽくないなぁ、なんて考えながら階段を上る。
鳥居をくぐれば人がたくさんいて。

「夜に来たのは初めてだけど…すごい人だね」
「だねー…最初はお参りだよね?」
「うん」

除夜の鐘の音を聞きながらお参りの列に並ぶ。

「ごめんね、急に誘っちゃって」
「全然いいよ。私、特に正月らしいことする予定もなかったし」
「親御さんは?」

今年は帰ってこれないって、と告げればえっ!?と目を丸くした及川。

「だったら早く言ってくれればよかったのに」
「え?」
「俺の家でお雑煮とかおせち食べよ」

ニコニコと笑って、親に電話しようとする彼を慌てて止める。

「それはダメでしょ!?」
「え、なんで?」
「正月は家族水入らずが普通でしょ。私がいたら変だし」

私の言葉に及川は頬を膨らませて、いいじゃんかと呟く。

「俺の母さん、なまえチャンのこと自分の娘みたいって言ってたし。父さんも会いたがってたし」
「いや、それとこれは話が違う気がする」
「いいのっ!!」

及川は私の制止を振りほどいて、携帯を耳に当てる。

「あ、母さん?俺。え?うん、今なまえチャンと一緒だよ」

あぁ、もうダメだと彼を止めるのと諦めてため息をつく。

「いいって、なまえチャン」
「…申し訳ない」
「えー、なんで?俺と一緒じゃ嫌?」

シュンと肩を落とした彼。
184aもある男がこれをやって可愛いと思えてしまうってのはどうなんだろう…

「嫌じゃないよ」
「ホント!?嬉しい」
「……なんかずるくない?」

え?何?と首を傾げた彼に何でもないと答えた。

いつの間にか私たちの番になっていて、2人並んでお参りを終えて。

「及川、おみくじとか引く?」
「引きたい!!お守りも買いたいかな〜…必勝祈願と合格祈願」
「ちょっと神様にお願いしすぎだと思うけど…」

そう言えば、俺も頑張るけど少しだけ!!なんて笑いながら答えた彼。

「じゃあまずおみくじ―」

及川が手袋越しに私の手を握って、手を引いて歩いていく。
後ろから見える彼の耳と頬が赤いのは寒さからかそれとも…なんて考えて。
少しだけ繋いだ手に力を入れれば、それに応えるように彼もギュッと私の手を握りしめた。

「照れてる?」
「なまえチャン!!それ言っちゃダメでしょ!?」
「ごめん。つい」

彼の隣に並んで顔を覗き込んでそういえば慌てて顔を背けられた。

「意地悪…。超恥ずかしい」
「ごめんってば。ほら、行こう?」
「うん」

おみくじのところに歩いていけばどこか見覚えのある姿を見つけて足を止める。

「なまえチャン?」
「もっと恥ずかしいことになるかもね」
「え?」

目を丸くした彼は前を見たのと、見覚えのある彼らがこちらを向いた

「あれ、及川とみょうじじゃん」
「おーあけおめー」

見覚えのある彼ら。
私たちのチームメイトはこちらを見てそう挨拶をして、すぐに何か気づいたのかにやりと笑う。

「あれ?あれれ?及川ー?」
「わーまっつん!!何も言わないで!!」
「へぇ、頑張ったんだね」

及川は私の手をほどいて、松川に駆け寄って口を塞ぐ。

「あけましておめでとう、みょうじ」
「あけましておめでと、岩泉。今年も苦労かけるだろうけどよろしくね」
「こちらこそ」

松川と花巻にからかわれる及川を見ながら2人でほのぼのとしていれば後ろからコートをひかれて。

「みょうじ先輩?」
「あ、国見と金田一!!あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いしますっ!!」

金田一は岩泉と話し始めて、隣には体を震わせる国見。

「寒い?」
「寒い…です。無理やり連れてこられたんで…炬燵でごろごろしてたのに…」

帰りたい、と呟いた彼に苦笑してポケットに入れていたカイロを彼の頬に当てる。

「あったかい…」
「いいよ、使ってて」
「ありがとうございます」

幸せそうに微笑んだ彼はなんだか猫みたいでつい笑ってしまう。

いまだに騒ぐ彼らに視線を向ければいつの間にか渡までいて。

「あれ、いつの間に…」
「みんな一緒に来たんです」
「あ、そうなの?」

みょうじ先輩は誰と…と言いかけた国見だったがすぐに口を閉ざす。

「国見?」
「及川さん…ですか?」
「うん。誘われたの。結局このメンバーだけどね」

そうですね、と国見は呟いて白い息を吐いて。

「全員、そろってますね…」
「そうだね」

普通に話していたはずの岩泉と金田一まで一緒に騒いでいて苦笑する。

「……ちょっと、迷惑かなぁ…」
「まぁ、そうっすね」

お守りとか、買いに行きたかったんだけどな。
私は財布を開いて少し首を傾げる。

「ねぇ、国見。ちょっと買い物付き合ってくれたりする?」
「いいですけど…」

彼らに背を向けて国見と2人でお守り売り場に向かった。

「お守りですか?」
「うん。もう買った?」
「いえ、まだ買ってないです。お参り終わってあそこに集まったので…」

そう答えた彼にありがと、と告げる。

「すいません、この必勝祈願のお守り8個。あと、合格祈願を5個お願いします」
「え?」

驚く国見を無視して、お年玉として両親から送られてきたお金を出して。
紙袋に入れられたそれを受け取る。

「なんで、そんなにたくさん…?」
「いいから、いいから」

首を傾げる彼と元の場所に戻ればまだ彼らは騒いでいた。

「はい、じゃあまず国見ね」
「え?」

袋の中の必勝祈願を彼に渡せば目を丸くして。

「もしかして…」
「金田一」
「え?はいっ」

金田一にも同じものを渡せば彼も目を丸くする。

「渡にもね」
「あ、ありがとうございます!!」

固まって私を見ている3年組に苦笑してお守りを渡していく。

「はい、松川」
「お、おう」
「花巻」
「サンキュ」

岩泉と及川も、と彼らの手の平に必勝祈願のお守りを乗せる。

「これ…なまえチャン買ってきたの?」
「うん。あ、3年にはもう1個」

合格祈願のお守りも一緒に渡せば彼らは顔を見合わせて。

「え、えっと…お金」
「いいよ。私からのお年玉ってことで」

クスクスと笑いながら言えば同い年だよ!?と慌てて財布を出した及川。
他のメンバーも財布を出すから私はそれを止めた。

「お金はいいって。みんなといられるだけで、満足だし」
「……なまえチャン…」
「みょうじ先輩、少し優しすぎません?」

国見がそう言って眉を寄せる。

「そんなことないよ。みんな、今年もよろしくね」

そう言って笑えば彼らも笑ってくれた。

「みょうじ、カッコ良すぎ」
「え?」
「男前だよな、そういうとこ」

松川と花巻がそういって私を見る。

「そう?」
「お金はいいよ。って結構高くね?」
「あー…マネやってるとさ遊ぶ暇なくて。お金使わないし。手作りのミサンガとかあげられないからその代り、みたいな?」

私の言葉に彼らはため息をつく。

「…こりゃ惚れるね」
「だな」
「そうですね」
「わーっ!!まっつん、マッキー、国見ちゃん!!?ダメ!!」

慌てる及川に私は苦笑して。
そんな私に岩泉が小声で話しかけてきた。

「…なぁ、みょうじ」
「何?」
「お前、本当は気づいてんだろ…」

わーわーと騒ぐ彼らを見ながら私は微笑む。

「何のこと?」
「……お前、やっぱり少し黒いよな」
「心外だなー」

何に気づいてるかを岩泉は言わなかった。
けど、どこか優しい顔して微笑む。

「まぁ、今のままでいいかもな。俺はなんだかんで、結構好きだ。こういう雰囲気」
「私も好きだよ。……ホント、最高のチームだよね」
「あぁ、そうだな」

永遠なんてないけれど。
彼らとできるだけ長く、一緒にいたい。

「そういや、お参り何お願いしたんだ?」

岩泉はそう私に問いかけて。

「言ったら叶わないって言うじゃん」
「え、そうなのか?」
「うん。だから内緒」


『出来るだけ長く、誰よりも多く、彼らがコートに立っていられますように』


お願いごとを思い出して私は小さく微笑んで、岩泉の方を見る。

「いつ帰れるかな?」
「まぁ、無理だろ」
「だよね」




(結局全員で及川の家にお邪魔になるなんて…)
(まぁいいんじゃね?みんな楽しそうだし。おばさんも嬉しそうだし)
(…及川のお母様ってこういうとこ及川にそっくりだね)
(……イベントになるとスゲェハイテンションなんだよ)
(あー…なんか、及川にそっくりだね…)
(だろ?)
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