Happy whiteday?


3月13日、夜。
問題が発生した。

「どうしよう!!」
「…何が?」

白河さんは不機嫌そうに眉を寄せた。

「バレンタインのお返し準備してない」
「お前、去年返してないだろ」

神谷さんの言葉に鳴さんは頷く。

「女の子には返さないけど。みょうじに」
「「「あ…」」」
「やっぱり忘れてたよね!?忘れてたでしょ!!?」

バレンタイン。
みょうじは手作りのお菓子を俺達レギュラーの為に作ってくれた。

「すっかり忘れてましたね」
「…どうしよう」
「もうあげなくていんじゃね?」

カルロスあり得ない、と白河さんが言って読みかけの本を閉じた。

「今からコンビニにでも買いにいけばいいんじゃない?」
「それね、俺も思った。けどさ、みょうじって何が好きなの?」

成宮さんが首を傾げて、俺達は顔を見合わせる。

「そう言えば…」
「みょうじって甘いもの食べるっけ?」
「なまえがお菓子食べてる姿…想像できない」

なまえって自分のことあんまり話さないから。
今更だけど、何にもわからない。

「まぁ、一応…コンビニ行こう」
「そうだな」
「え、今からですか!?」

仕方ないじゃん、と鳴さんは言って俺の手を掴んで歩き出す。
その後ろを白河さんと神谷さんが歩いて。

「みょうじっていつも何食べてる?」
「間食は基本なし。飲み物はスポドリか水。昼とかは?」
「…基本的にカロリーメイトと水とかスポドリです」

アイツ、よく生きてるなと神谷さんが呟いた。
鳴さんもそれに同意するように頷く。

「なのに作れるとか」
「それねっ!!けど、美味しいから許す!!」
「鳴、貰って顔真っ赤だったよね」

白河さんがそう言えば鳴さんはピタッと足を止めて、ゆっくりと振り返る。

「しかも、みょうじの奴だけ大切そうに食べてたし」
「わーーーっなにそれ、なにそれなにそれ!!そんなことしてないし!!」
「必死だな、お前」

笑う神谷さんに鳴さんはうるさい、と叫んだ。





学校から徒歩数分のコンビニに入って、ホワイトデーのコーナーの前で足を止める。

「クッキーにチョコに、マシュマロに…飴?」
「なまえこういうの食べるんですか?」
「樹が一番仲良いのに俺らに聞くなよ」

すいません、と言って可愛らしいラッピングをされたそれを見て首を傾げる。

「なんか…違う気がしません?」
「俺もそんな気がした」
「俺も」

じゃあ何にするのさ、と鳴さんはお菓子コーナーに向かう。

「ポテチ?」
「それ鳴が食いたいだけ」
「なんでわかんの、白河。すごっ」

コンビニの中のお菓子を物色すること数分。

「……いっそのこと、カロリーメイトでよくね?」

鳴さんがカロリーメイトを手にそう、言った。

「みょうじの引き出しのなか大量にしまってあるけど」
「じゃあウィダー」
「…まぁ、一番実用的か…」

ホワイトデーに渡すにはあれだよな、とみんな思っていたようだけど。
お菓子ほど彼に似合わないものはなくて。
今度お菓子食べるのか聞いてみようと思った。

「ウィダー、何個?」
「あのお菓子食った奴が1人1個買えばよくね?」
「じゃあ後でお金回収するか」

そういうことで籠の中にウィダーを何個か入れてレジに向かった。

コンビニを出てから、鳴さんがポテチ買い忘れたとコンビニに戻っていって。

「…こういうの渡したらアイツ今以上に食生活が心配だよな」
「もう今更だけどね」
「……倒れなきゃいいんですけど…」

俺たちは顔を見合わせてため息をついた。

「みょうじー」
「て、あれ?いない」
「どこか出かけたのか?」

寮に戻ればみょうじの姿はなかった。

彼の机上には先に寝ていてください、とだけ書かれた紙があって。

「ま、渡すのは明日でいいだろ」
「そうですね」
「じゃあ、さっさと出てけ」

白河は俺達を部屋から追い出す。
ウィダーは樹が部屋に持ち帰り、カルロは部屋に戻っていく。

俺はポケットに手を突っ込んで食堂に向かう。
案の定調理場には電気がついていた。

「みょうじ」
「あれ、成宮さん?…こんばんは」

調理場にいた彼はまた眠れないんですか?と首を傾げる。

「別に。ここにいるかなって思っただけ。それ、誰に渡すの」

皿の上のクッキーを指差せばくれた人にお返しで、と言った。

「どれくらい貰ったの?」
「そんなに多くないですよ。20個くらい?」
「……お前、意外とモテるよね」

そんなことないですよ、とみょうじは言ってオーブンに視線を向ける。

「みょうじってさ、甘いの食べんの?」
「わざわざ買って食べようとは思いませんけど。普通に食べますよ」
「…ふぅん…じゃあ、」

コンビニの袋の中にある少し小ぶりな箱を手に取って彼の名前を呼ぶ。
こちらを見た彼にそれを投げつければ軽々とそれをキャッチした。

「これ…」
「お返し!!…美味しかったよ、お前が作ったの」

みょうじは目を瞬かせてから、少しだけ口元を緩めた。

「ありがとうございます」

チンッとオーブンの音がしてみょうじはそちらにまた視線を向ける。

「時間、ありますか?」
「え?ないわけじゃ、ないけど…」
「じゃあ、少し座って待っててください」

俺の渡した箱を大事そうにパーカーのポケットにしまって、オーブンを開ける。

美味しそうな匂いがする。
みょうじは冷蔵庫から何かを出して。
気にはなるけど言われた通り椅子に座って彼を見つめていた。

「何してんの?」
「すぐにわかります」

何か作業を終えたみょうじは皿に何かを乗せて、こちらに差し出した。

「……マカロン」
「作ってって言ってたので。あ、毒見はしたので大丈夫です」

ほんのりピンク色のそれ。
生地はまだ温かい。
それを恐る恐る齧れば、口の中に甘さが広がった。

「…美味しい」

こちらを見ていた彼にそう言えば、嬉しそうに目を細めて。

「ならよかった」
「…てか、ホワイトデーに貰っちゃったら返せないじゃん」
「別にいいですよ。俺はもう貰いましたから」

クッキーをラッピングしているみょうじを見つめながら、サクッと音をたてるマカロンを食べて。

「……ありがと」
「え?……いえ、別に」

素直にお礼を言えばみょうじは少し恥ずかしそうに頬をかいて、視線を逸らした。

「喜んでくれたなら、それでよかったです」





「なまえ」
「んー?」

ウィダーを飲んでいたなまえがスコアブックから視線をあげた。

「何?」
「ホワイトデー、そんなのでよかったの?」

ホワイトデーの日。
ウィダーを渡せば目を丸くして。
でもすぐに珍しく笑ってありがとうございますと言った。

「うん。丁度カロリーメイト飽きてたし」
「……そういうもの?」
「そういうもの。それに、甘いものは貰ったから」

え?と首を傾げればみょうじは気にした様子もなくウィダーを飲む。

「それにさ、」
「なに?」
「美味しいって言ってもらえたらお返しなんて望まないよ」

まぁ、貰えたのは嬉しかったけど。
なまえはそう言って、頬を緩ませた。



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