え?バレンタイン?


教室が妙に色めきだっていることに気づいたのは、教室に入って少ししてからだった。
なんていうか、女子が妙に気合い入ってる?

「米屋ー」
「なに?」
「今日ってなんかあるっけ?」

宿題?と首を傾げた彼に違うと答えて、クラスの女の子たちのことを話す。

「は?ちょ、お前…マジで?」
「何?」
「バレンタインだぞ!!?」

バレンタイン?
携帯の日付を見て見れば2月13日だった。

「明日でしょ?」
「明日土曜だから皆今日作って来てんだろ!?」

土曜ならバレンタインもなくせばいいのに。
いや、あってもなくても私には関係ないけど。

「そんなことだったんだ」
「え、そんなことかって…もしかして俺になんか作ってたりしねぇの?」
「私がそんなするわけないでしょ。馬鹿じゃないの」

マジかよー、とあからさまに落ち込む彼を無視して、だからこんなに女の子の気合いが入っているのかの教室を見渡した。

「槍バカ、みょうじー、はよ」
「おはよう」
「あれ、なんでこいつこんな落ち込んでんの?」

さぁ?と首を傾げれば米屋がバンッと机を叩いた。

「聞いてくれよ、弾バカ!!こいつ、俺達にバレンタインのお菓子ねぇんだって!!」
「は?なんで?」
「いや、なんであると思ったわけ?私別にアンタら好きなわけじゃないし」

今の時代友チョコってあるだろと米屋同様肩を落とした出水に溜息をつく。

「友チョコってなにそれ。完全にお菓子業界の策略にハマってんじゃない」
「いいだろ、1日ぐらいハマってやれよ!?」
「それに私、お菓子嫌いだし。わざわざ作るとかバカみたい」

なんでこいつこれで女なんだよと呟いた出水を容赦なく叩いて溜息をつく。

「欲しいなら女の子たちのとこ行ってきなよ。アンタらに渡したいって顔してこっち見てるから」
「それは後で受け取る。俺はお前から貰いたかったのに…」
「馬鹿らしいね、2人って。あ、弾バカと槍バカだもんね。仕方ないか」

今日くらいは毒吐くなよと肩を落とす2人。
私が席を立てば教室にいた女の子の空気が一瞬変わった気がした。

怖いなー女の子。
そんで、馬鹿なのにモテるなーこの2人。

「トイレ行ってくるからごゆっくり」
「あ、てめっ逃げんな!!」
「じゃあね」

ひらひらを手を振り教室を出れば凄い勢いで2人が女の子の向こうに見えなくなった。

「さてと、HRまで時間潰そうかな」

財布は持ってきたし、自販で飲み物買ってゆっくりしてよう。
階段を下りて、購買で温かいコーヒーを買っていれば見覚えのある人を見つけて彼の名前を呼んだ。

「おはよう、烏丸」
「みょうじ先輩、おはようございます」
「バレンタインの沢山だね」

彼の持つ紙袋を指差せば、助かりますと無表情に多分喜んでいた。

「先輩からは何かないんですか?」
「米屋と出水にも同じこと言われたけど、残念ながらありません。あー、けどまぁ可愛い後輩だし…飲み物くらいは奢ってあげるよ」

何が良い?と尋ねれば彼は自販に並ぶ飲み物に視線を向けた。
あぁけど烏丸は飲み物よりもあれの方が喜ぶか…

「どれにするか選んでてくれる?」
「あ、はい」

自販を見つめる彼から離れて購買に並ぶあるものを1つ購入する。
それも持って彼の元に戻れば、寒いんで暖かいお茶ですかねと言った。

「ん、暖かいお茶ね」

彼の注文通りお茶を購入して両手の塞がる彼のポケットに入れる。

「温くならないうちに飲みなよ。あと、これね」
「…カツサンド!!」
「らしくなさすぎるけど、Happy Valentine」

ありがとうございます、と少しだけ嬉しそうな顔をした彼はすぐに表情を戻して教室の方へ歩いて行った。

コーヒーのプルタブを開けて、ベンチに腰かける。
我ながらバレンタインにカツサンドとお茶ってどうなんだろうかと思う。

「まぁ、喜んでたしいいか…」
「何してるんだ、こんなとこで」
「あれ、三輪?おはよう」

あぁ、と言葉を返して彼は首を傾げる。

「陽介がお前から貰うと朝からうるさかったんだが…」
「残念、あげてない。てか、バレンタインだってこと忘れてたし」
「お前ならそうだと思った」

お菓子嫌いな奴が作るわけないだろうに、と呆れたように呟いた彼に三輪はよくわかってるなと感心してしまった。

「烏丸にも強請られたから、お茶とカツサンドあげたとこ」
「それバレンタインのバの字もかすってないよな」
「まぁ、喜んでたし良いでしょ。三輪は何か欲しいのある?飲み物くらい奢るけど」

別にいらいない、と答えて彼は自分で飲み物を買っていた。
こういうところ本当にあの馬鹿2人に見習ってほしい。

「隣座るぞ」
「どーぞ。私の隣でよければ」
「お前の隣にいれば基本的に、女子は声をかけてこない」

あぁ、確かにそれはそうかも。
さっきの教室でもそうだったし。

「そんなに怖いかね?A級の女子って」
「まぁ近づきがたいだろうな」
「そう?こっちとしては万々歳だからいいんだけど」

女の子とは悉く話が合わないし。
恋愛系の映画を見るくらいならアクション系を見たいし。
ショッピングするよりは模擬戦をしてたい。

「今日、本部行きたくないなー」
「珍しいな」
「行ったら確実にたかられる」

チロルチョコでも買って行ったらどうだ、と言った彼にそうするよと私は溜息をついた。

「苦労するな、お前も」
「本当にね」
「まぁ、無理はするなよ」

飲みかけの缶を持ったまま三輪は立ち上がって、あぁ、そうだとポケットを探った。

「手を出せ」
「何?」

言われた通り手を差し出せば手の平にころころと何かが落ちた。

「飴?」
「うちのオペレーターに貰ったんだけどな、俺は食べないから。お前にやる。お菓子はあまり好いていなかったが飴は食べれただろ?」
「うん、飴は好きだよ。ありがとう。お礼はホワイトデーでいい?」

期待しないで待ってると彼は少しだけ頬を緩めて、歩いて行った。

「ソーダ味…」

空になった缶コーヒーを捨てて、飴を口に放り込む。
教室に戻ればあの馬鹿2人がうるさいだろうし、模擬戦10本で黙らせよう。
あとは帰りにチロルチョコの詰め合わせを買っていこう。





「え?米屋先輩と出水先輩、みょうじ先輩からバレンタインになにも貰ってないんですか?」
「そうだよ、悪いか!?たく、アイツ本部ではコンビニで買ったチロルチョコ配ってたくせに…」
「俺は貰いましたよ、学校で」

それ嘘だろ、と言った米屋先輩に本当ですと答える。

「ちょ、なんで!?京介だけ特別!?本命!?」
「てか、何貰ったの?」
「お茶とカツサンド」

いや、それバレンタインじゃねぇだろと2人のツッコミが重なった。

「貰えないよりは良くないですか?俺の好きなものだし」
「来年こそはアイツから貰うぞ、弾バカ」
「おう。絶対にアイツから貰う」

まぁ、みょうじ先輩のことだからまた模擬戦で済ませそうだな…

「なんの話?」
「みょうじ先輩…いえ、来年こそは先輩から貰うって2人が」

先輩は2人を見て溜息をつく。

「模擬戦10本じゃ足りなかったのかな」
「そこは足りてると思いますけど。こう、なにか物が欲しいんじゃないですか?」
「好きな子に頼めばいいのに」

先輩はそう言って不思議そうに首を傾げた。



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