あぁ、ホワイトデーか




『え?バレンタイン?』続編


―――……


「あ、そういや明日ホワイトデーか…」

本部での任務を終えて、携帯を開いてふと気づいたことを口にすれば偶然任務が一緒だった出水が凄い勢いでこちらを振り向いた。

「何でバレンタインは忘れてホワイトデーは憶えてんだよ!!?普通逆だろ!?」
「え?あぁ、なんかごめん。出水さー、これから暇?ちょっと付き合ってよ」
「どこに?模擬戦なら大歓迎だけど」

いや、ホワイトデーのお返し買いにと言えば彼が固まった。

「お、お返し…?誰に?つーか、逆じゃね?返されるんじゃねェの?」
「いや、バレンタインに貰ったから。お返ししないとじゃない?」
「あーっその手があったのか!!」

頭を抱えた彼に首を傾げた。
意味が解らない。

「まぁ、いいから。来るのか来ないのかどっちよ」
「…行きます」
「ん、ありがと」

本部から出て近くのデパートに向かえば、ホワイトデーのコーナーに人が集まっていた。

「うわー、混んでんな」
「出水はお返ししないの?」
「え、必要か?」

…返さないと薄情な奴って思われそうだけど。
どうなんだろう?
お返し貰えると思ってあげてるものなのか?

「結構な数貰ってたし、必要ないか」
「だろ?俺、毎年返してねェし。けど槍バカは毎年律儀にお返ししてる」
「あぁ、栞が色々言ってそう」

確かに、と出水が笑った。

「で、何買うの?」
「考えてない。何が好きなのかも知らないし」

ホワイトデーのコーナーに入って、きょろきょろと棚を眺める。

「甘い物はダメっぽいし」
「じゃあ、物?」
「物かぁ」

ハンカチやらネクタイやら下着が並ぶコーナーで足を止める。

「下着は絶対にアウトだろうな。あげたら多分私、蜂の巣」
「…物騒な相手だな、おい」
「アンタも蜂の巣によくしてんじゃない」

まぁ、確かにと出水が隣で笑った。

「つーか、誰に返すんだよ。相手がわからなきゃ俺も手伝えねぇけど」
「三輪」
「…三輪!?え、は?」

バレンタインにアイツが何かくれたのか、と言われて飴貰ったんだよねーと呟き別のコーナーに移動した。

「飴のためにわざわざ…?」
「まぁ、ほら。三輪にはいつも世話になってるし。米屋のこともよく押し付けちゃったりしてるからさ。労いも兼ねて」
「俺にも世話になってね?」

アンタが世話になってるんじゃないの?と首を傾げればその扱いの差はなんだよと彼は肩を落とした。

「あ、これ良くない?」
「どれ?」

目についたそれを指差せば、確かにお菓子とかよりは喜びそうだなと彼が言った。

「じゃあ、これに決定。色はー…無難に黒にしよう」
「即決だな、おい」
「悩むの嫌いだからね」

可愛らしくラッピングされてしまったそれを鞄にしまい、出水は何か買うものある?と視線を彼に向けた。

「今日はお前の付き添いだし。まぁ、こんなさっさと決まるとは思ってなかったけど」
「思いの外、早く決まったよね。本部戻って模擬戦でもする?お礼に」
「バレンタインもそれだったぞ」

嫌ならしないけど、と言えば嫌とは言ってねぇよと鼻歌を歌いそうなほど上機嫌に本部へと歩いて行った。





ホワイトデー当日。
本部はやっぱりお菓子の匂いが充満していた。

「三輪」
「…みょうじ?」
「よかったー、本部にいてくれて。学校で会えなかったから」

何か用があったか?と首を傾げた彼にはい、と昨日買ったものを手渡す。

「なんだ?」
「今日、ホワイトデーでしょ?お返し」
「…忘れてなかったのか」

バレンタイン、くれたの三輪だけだからと言えばありがとうと彼は少しだけ微笑んだ。

「…中身、変なものじゃないよな」
「今回は真面目に選んだから。開けていいよ」

丁寧に包装紙を剥がした彼はそれを見て目を瞬かせた。

「万年筆?」
「隊長だし、報告書多いでしょ?実用的だし、三輪にはぴったりだと思って。まぁ、よかったら使ってよ」
「…ありがたく、使わせてもらう。けど、割に合わなくないか?俺があげたのは飴だぞ?しかも貰い物」

色々迷惑かけてるし、これからもかけるだろうからと言って笑えば迷惑をかけているのはこっちだと彼は言った。

「元はと言えばうちの陽介が…」
「隊長だからって全部責任負う必要ないでしょ。まぁ、押し付ける私の言うことじゃないかもしれないけど」
「…そうだな」

迷惑料として受け取って、と笑えば後ろから凄い勢いで何かが飛びついてきた。

「痛っ!!何!?て、緑川…?」
「みょうじさーん、お返しです!!」
「あ、ありがと」

渡されたのは私の好きな生キャラメルだった。

「チロルチョコのお礼がこれって…」
「差分は模擬戦お願いします!!」
「あ、そういうことね。あとで付き合ってあげる」

やったーと笑った彼はまたどこかへ走っていった。

「まぁ、こんなもんなんじゃない?」
「…そのようだな。差分は追々返していく」
「じゃ、そういうことで。じゃ、あんまり無理しないで」

お前もな、と彼は言ってその箱を片手に隊室の方へと歩いて行った。

緑川の相手をしに行こうか、と思っていれば本部には珍しい人の姿を見つけた。

「あ、みょうじさん」
「烏丸。珍しいじゃん、どうしたの?」
「ホワイトデーなので」

そう言って烏丸は可愛らしい紙袋をこちらに差し出した。

「お返し、どうぞ」
「え、私に?」
「カツサンド、美味しかったです」

ありがとう、とそれを受け取れば用はこれだけなのでと彼は頭を下げてから今来た道を戻っていった。

「烏丸、今度ご飯奢るから!!」
「とんかつ、お願いします」
「ん、好きなお店選らんでおいて」

中身、なんだろうと紙袋の中に視線を落とす。

「あ…」
「なになにー?モテモテだな、みょうじ」
「げ、陽介」

京介からお返しだろ?中身は?と彼も袋を覗き込む。

「手袋!!」
「この間、手袋失くしたから丁度良かった」
「……イケメンやること違うな。てかさ、さっき秀次が戻ってきたんだけど、スゲェ機嫌よかった」

なんで?と言えば万年筆誰かから貰ったみたいでさーと彼は笑う。

「この間、気に入ってたペン失くしたとか言って超不機嫌だったんだよ。イイとこ狙う奴もいるもんだなーって」
「へぇ…」

それ私があげたんだけど、とは言わない方がいい気がする。

「喜んでくれてるなら、いいんじゃない?あ、そうだ。これから緑川と模擬戦するんだけど米屋もどう?」
「おー、行く行く。お返しも全員渡したし暇だったんだよ」
「やっぱり、お返ししてるんだ」

栞がな、と笑った彼にやはりそうだったかと納得した。
彼だけなら絶対にお返しなんてしない。

「みょうじも俺にくれたら、ちゃんとお返ししたのによ」
「次は考えとくよ」
「マジで!?」

忘れなきゃね、と付け加えて模擬戦のブースへと足を進める。

「チロルチョコあげた奴らからお返しは?」
「緑川がさっき生キャラメルくれた。差分で模擬戦しろって」
「あぁ…他は?」

バラバラと小さいお菓子貰ってる、と言えばまぁそんなもんかと彼は笑った。

「さてと、ホワイトデーだしポイント沢山いただこうかなぁ」
「うわっ!!バレンタインでも結構削っただろ、俺の!!」
「そうだっけ?」

今日は俺が勝つからな、と宣言をした彼は私の腕を掴みさっさと行くぞと駆け足で私を引っ張っていった。

気付けば、出水も参戦していて。
ホワイトデーもいつもと変わらない感じになっていた。

「みょうじさん、俺のポイント削りすぎ!!」
「ほら、ホワイトデーだし」
「関係なくない!?」

換装を解いて、彼に貰ったキャラメルを口の中で溶かす。
三輪に喜んでもらえて、緑川からは好物のキャラメルがもらえてそこそこにポイントももらえた。

「うん、満足満足」

俺らは満足じゃねェよ、とまた模擬戦になるのもいつも通りすぎて笑えた。



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