闇医者ネクロマンサー


乱暴に開いたドア。
倒れ込むように中に入ってきた 手の男。

「治せ」

高圧的な態度で言った男は血の匂いを運んできた。

「どちらさん」
「両手両足を撃たれた」
「質問に答えろ、クソガキ。治すも治さねぇも、こっちの匙加減だってわかってんのか?」

治さねぇなら殺す、と伸びてきた手。
俺を庇うに立った彼の体が手に触れるとボロボロと壊れていく。

なるほど。
触れたものを壊す個性か。
ギミックは微妙だが、いい個性を持っている。

「そいつみたいに殺されたくなきゃ言うことを聞け」
「起きろ、デルタ」

俺の声で崩れた体が再生されていく。
それを見て彼は目を見開いた。

「勝手に壊されちゃ困るんだよ、クソガキ。で?どこでここを聞きつけてきた」
「…先生……AFOから……」
「…なるほど」

歩けるかと問えば彼は首を横に振った。
彼を小脇に抱え、奥のベッドに放り投げる。

「準備する。大人しくしてろ」
「雑すぎんだろ」
「診てもらえるだけ感謝しろ」

傷口見せろ、と言えば素直に服を捲る。

「…銃か、この傷」
「あぁ、」
「弾は貫通してんな」

手袋をして傷口に触れれば彼の表情はわかりやすく歪んだ。

「デルタ、麻酔準備。めんどくせぇから全身麻酔」

音もなく準備を始めるのを確認し、男に視線を向ける。

「寝てろ。手は全部外すぞ」
「…余計なことしたら、殺す」
「デカい口叩くな。殺すぞ」





目を覚ましたら知らない天井だった。
両手は包帯でグルグル巻きだ。
視線を横に投げれば俺が1度壊したはずのデルタと呼ばれた男。

「おい、」

それは言葉を発することはなく背を向ける。

幻術か何かか?
なんで壊れたもんが再生すんだよ。
腹立つな…

「起きたか」

デルタに連れられやってき医者は気だるげに俺にそう声をかけた。

「見りゃ、わかんだろ」
「生意気。とりあえず傷さえ塞がりゃ問題なく生活できる。あまり動かすな。請求はあんたか?それともAFOか?」
「…先生だ」

そうかと頷いた彼はデルタ、と隣に控える男に声をかける。

「パソコンから請求書送っといてくれ」

やはり返事はなくデルタは部屋を出ていく。

「なんなんだよ、アイツ」
「教える必要あるか?とりあえず今晩はそこで寝てろ。明日帰れ。イプシロン」

また彼は名を呼んだ。
どこからともなく現れたのは小さな少年。

「そいつ置いとくから。痛みがでたり、なんかあったら声かけろ」
「…どっから湧いた…」
「だから、関係ねぇだろ?いいか?余計な詮索はするな。こっちもしねぇから。それがここでのルールだ。覚えろ」

彼は部屋から出ていき、残されたイプシロンと呼ばれた少年はベッドの傍らに佇む。

「…座れよ」

見下ろされているのは気分が悪い。
そう声をかければ そいつも返事もせず、その場に体育座りをした。





「デルタ、請求書送れたか?」

自分の寝室としても使っているオフィスでバソコンの前に座る彼はコクリと頷いた。
と、なればすぐに連絡が来るだろうと携帯に手を伸ばせばやはり非通知の着信。

「はい」
『やぁ、元気そうだね。みょうじ』
「お陰様で」

うちのが世話になったね、も思ってもいなさそうなことを彼は言う。
声に感情が篭ってないコイツは、正直好きではない。

『お金は振り込んだ』
「はい、まいど」
『あれはこれから君に世話になることが増えるだろうから、宜しく頼むよ』

隠し子?と問えばそんなもんさと彼は笑った。

『死柄木 弔だ』
「ふぅん?マナーのねぇガキは次から断んぞ」
『…それは、すまなかったね。よく言っておくよ』

パソコンで口座を確認すれば請求額より金額が多い。

「おい、金入れすぎだ」
『言ったろ?これから世話になるって。契約金とでも、思ってくれ』
「…いらん。別に金には困ってねぇ。治療の対価を払え。それ以外は不要だ」

相変わらず欲がない、と彼は言った。

「デルタ、金送り直しておいて。じゃ、もう切るぞ」
『つれないな』
「仲良くやろうって関係でもねえだろ」

煙草を咥え、火をつける。
その音が聞こえたのか電話の向こうの男は笑った。

『相変わらずのヘビースモーカーかい?』
「だとしたらなんだ。アンタにゃ関係ねぇだろ。とりあえず、明日迎えを寄越せ。アイツは当分まともに歩けやしねぇぞ」
『歩けるようになるまでみょうじに任せてもいいかな』

冗談抜かすな、と吐き捨て、舌打ちをする。

「迎えに来ねぇなら、外に放り投げる」
『優しくないなぁ、君は』
「犯罪者診てやってるだけ、マシだろ。じゃあな」

電話を一方的に切り、溜息をつく。

「何をやらかす気だ、あのおっさん」

お金を送り返したことをデルタが俺に伝える。

「ありがとう。お疲れさん」

こくりと彼は頷いて姿を消す。
そんな時点けっぱなしだったテレビから速報を報せる音が鳴った。
まさか、と思って視線をテレビに向ければ 雄英高校が襲撃されたという衝撃的な内容が流れたのだった。

「おいおい、冗談だろ」

犯罪者を匿うことは初めてではない。
だが、今回は今までで一番面倒な気がする。
個人の怨恨やら欲求の為の犯罪者はまだいい。この手の革命を狙うタイプは繋がっていたことがバレやすい。

「…あのおっさんと関わるとやっぱろくな事ねぇわ」

長くなった灰を灰皿に落とし、彼がなだれ込んで来る前に読んでいた本に手を伸ばそうとすればエプシロンが俺の服の裾を引いた。

「ん?どした、」

返事などするはずもない彼は服を掴んだまま、病室へ。
扉を開けばベッドの上、彼が魘されていた。
彼の額に触れれば、指先に熱が伝わる。

「熱出ちまったか…。エプシロン、氷嚢持ってきてくれ」

こくりと彼は頷いて、部屋を出ていく。

「…雄英襲撃…ねぇ…」

こんな若い子使って、何を考えているんだか。
それに彼がつけていた手。
全て本物だった。
あのおっさん、この子で何をする気だ…。

眉間に皺が寄り、辛そうな呻き声が彼の傷付いた口から零れる。
額に張り付いた髪を指先で流して、そっと頬を撫でる。
薬もいくらか持たせた方が良さそうだな。

控えめに服の裾を引いたエプシロンから氷嚢とタオルを受け取り、彼の額にのせる。
気休めにしかならねぇだろうけど、ないよりはマシだろう。

「エプシロン、また見ててやって。あと氷が溶けたら呼んで」

彼はこくりと頷き、その場に座り込む。
今間でも幾度となく病人を見させてきたが、座っているのは初めて見た。

「…座れって言われたのか?」

彼はまたこくりと頷いた。
子供には優しいのか、はたまた別の理由か。
まぁどっちにしても関係ねぇな。





翌朝。
目が覚めるのベッドの横に座っていた少年が立ち上がり俺の顔を覗き込んだ。
額からずり落ちた氷嚢はまだ微かに冷たい。
少年は何を言うわけでもなく部屋を出て、デルタ同様にあの医者を連れて来た。

「具合はどうだ」
「痛ぇ」
「そりゃ、そうだ」

近付いてきた彼から煙草の匂いがする。
伸びてきた手が額に触れ、「熱は下がったな」とどこか穏やかな声で言った。

「1週間分くらい、薬出してやるから忘れずに飲めよ。それから、包帯は交換して清潔な状態を保つこと」

白い袋をエプシロンはこちらに差し出す。
それを受け取れば、中には薬やら包帯が乱雑に入れられていた。

「迎えは?」
「…呼べば来る」
「じゃ来てもらえ。もううちに厄介になってくれるなよ」

彼はそう言ってエプシロンと共に部屋を出ていった。
黒霧に連絡をし、ゲートを繋いでもらいいつものバーへ。
「おかえりなさい」と黒霧が言った。

「…あぁ、」
「おかえり、弔。みょうじは元気だったかい?」
「みょうじ?」

あの医者の事だ、と先生は言った。

「…元気だった、と思う。あいつの補助をしてた奴らは何だ?壊したのに、再生した」
「あれは…死霊。体をなくした死んだ人間だよ」

死んだ人間…?
幽霊の類ですか?と黒霧が問えばそんな物さと先生は答えた。

「昔から、気に入った死霊を使役しているよ」
「……へぇ、」
「いい個性なんだけれどね。彼は医者って仕事にしか興味がないから」

今時珍しい、個性を用いない医療行為。
そうまでして拘るのには理由があるのか。

「これからもきっと、世話になる。失礼のないように。わかってるね、弔」
「……あぁ、」





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