愚かな番


{emj_ip_0615}オメガバース R18です。
苦手な方、未成年の方はお読みにならないで下さい


αだがら。
強い個性を持っているから。
そんな理由で雄英のヒーロー科に入ることを望まれて、望まれたままヒーローになって。
そこに自分の意志なんてなかったし、抗う勇気も俺にはなかった。
幼い頃、俺は何になりたかったんだっけ。
今ではもう、思い出すことも出来ないでいた。

「弔、」

そうやって、人に望まれる道を生きてきた。
まるで誰かの操り人形のように。

「遅かったな、ヒーロー様」
「嫌味だな」

これは、俺の意志なのだろうか。
運命の番って、一体誰の意志だ。

「まァたそんな不機嫌な顔してんのか」
「昔から、こんな顔だ」
「ヒーローは笑顔でいなきゃなんじゃねぇのか?」

それはオールマイトだけで十分だろうと吐き捨てて、ドアの鍵を後ろ手で閉めた。

彼は死柄木弔。
敵連合のリーダーだ。
そして、俺の運命の番。
出会いはもう随分前のこと。
暗い路地裏でヒートが訪れた彼に 出会った。
出会った瞬間に彼が俺のそれだと、そして俺が彼のそれだと 言葉を交わさずともわかった。
お互いが 交わってはいけない相手だということを知ったのは、彼をめちゃくちゃに抱いた後だった。
幸いにも首は噛んじゃいなかったが、彼を捕まえることもせず 関係はズルズルと続いていた。
会うのはいつも弔から。
携帯に届くホテルの名前とルームナンバー。
それが届いたら、その夜そこへ行く。
もう何度も繰り返したことだった。

「そんな甘ったるいもん出しといて、口は達者だな。外まで漏れてる」
「うるせぇ。さっさとしろ」
「はいはい」

俺たちの関係は何だろう。
この関係の行き先は?
これは、誰の意志?

彼を壁に押し付けて、唇を重ねる。
んっと鳴いた彼の喉。
自分を包み込む甘ったるい香り。
人よりフェロモンへの耐性がある体だが 彼のものはやはり別格だ。

「っ、カッコつけてんなよ。見え見えなんだよ、欲情してんのが」
「そのまんまその言葉を返す。こんなにして、よくも毎回煽って来れるな。お前」

ズボンを押し上げる彼自身を膝で押し上げれば彼は体をビクッと揺らす。
そのまま膝でグリグリと刺激を続ければ 彼は俺を恨めしそうに睨みつけた。

「ヒートじゃないだろ」
「っ、うるせぇな。いい、だろ」

ヒートの時だけの関係だと最初は思っていた。
だが、どうも回数を重ねるごとにそうではなくなっていた。
彼が俺を呼び出す回数は増える一方で、まるで恋人みたいだと思ったが 何を馬鹿なことをと自分を笑った。

「今日は、一段と考えっごと 多いじゃねぇ、か」
「弔は相変わらず、快感に弱いな」

真っ赤になった顔と目に浮かぶ涙、少しずつ荒くなる息。

「わかってんならっ、ぁ あっ さっさと、しろ」
「はいはい」

もう一度、彼の口を塞いで 服の中に手を差し入れる。
一般男性より痩せた脇腹を撫でてやれば 体はまた小さく震えた。

「ぁ、ひざ、やめっぁ」
「なんで?気持ちいだろ?」
「ん、ぁっクソッ」

俺に触れようとした手は 俺に届くことはない。
彼の体に植えついた癖だろう。
彼の手は 決して人に触れることはない。

相変わらず痩せた体を撫でていた手は、胸の頂に辿り着く。
ぷくり、と立ち上がったそれに触れれば 彼また体を震わせた。

「ここ、でっやんのかよ、」
「一回イけたら 運んでやるよ」
「死ねっ」

口が悪いのはいつものこと。
殺そうと思えば彼はいつでも俺を殺せるだろう。
だが、それをしないのは そういうことだ。

「ふ、っ あ なまえっ」
「なに?」
「た、んないっから。イけねぇっ、んっ、」

我儘だな、と呟いて ズボンのベルトを外して わざとゆっくりチャックを下ろせば 彼の目が 期待に濡れる。

「下着、ドロドロじゃん」

色の変わった下着の上から 立ち上がった彼を柔く握れば あっと艶っぽい声を彼は出した。

「触っただけで、そんな声出すなよ」
「っぁ あっん、んーっ」

下着の上から数回しごいただけで彼は唇を噛んで肩を震わせた。
掌に伝わる生温い液体の感覚。

「随分と 早いな」
「一々、うるさいんだよ。お前」

さっさとベッドに連れてけ、と両手を広げた彼をやれやれと首を振れば 拗ねたのか俺を睨みつける。

「悪かったよ。仰せのままに、」





クラクラする。
組み敷いた彼が 喘ぐたびに麻薬みたいに体を侵食していく何か。

「ぁ、あっ」
「もう、十分だよな?」
「ゃっ、んっ」

何も掴まず握りしめられた彼の手は白くなっていた。
この手に触れたいと 思い始めたのはいつだったか。
この手に縋られたいと思い始めたのはいつだったか。
結局俺は、俺の意志でこうなっているんだろうか。

彼の中を解していた指を引き抜いて、自分自身を充てがえば。
押し当てた蕾がヒクつき 彼は期待するように瞳を熱に溶かす。

「弔はさ、」
「ん、」

ゆっくりと中に沈めながら いつもの会話のように言葉を続けた。

「俺とどうなりたいの?俺の何になりたいの」
「ぁ、あ゛っな、に?」
「…ちゃんと、番う?」

俺の全てを包み込んだ彼は ふはっと 馬鹿にするように笑った。

「やめ、とけっ」
「それを 望んでんじゃないの?」
「…こっちに、堕ちてくんなら。噛ませてやるよ」

快楽にどろどろになってるくせに 彼は生意気に笑う。

「そ。じゃあ、いいや。動くよ」
「っん!あっ あ、はげしっ」
「好きじゃん、激しい方が」

ギシギシとベッドが軋む。
その音に混じる彼の嬌声を聞きながら、俺は自然と笑っていた。

「好きだわ、お前んこと」

彼は目を見開いて 後ろを締め付ける。

「あっ、きっつ、」
「ひっ、ぁあっな、っん」
「っなに?」

ゆるゆると彼は首を振り、自分の腕で 目を覆い隠す。
こんな姿を見たのは初めてだな。

「どうした 弔」
「、ぁ、やぁっん」

会話できる状態ではないらしい。
腹に着きそうなほど立ち上がった彼を柔く握り、摩りながら腰を振る。

「ぁ イくっイク」
「どーぞ、」

手の中で弾けた欲。
どろりと糸を引くそれを舐めて、肩で息をする彼に 大丈夫と声をかける。

「……うるせぇ」
「なんでだよ」

枕元のティッシュで手を拭いて、顔を隠す彼の手に触れれば 大袈裟な程に彼が体を強張らせた。

「自殺願望はねぇよ。全部には触れねぇ」

彼の何も掴めない手を取り、親指から順に口付けを落とす。

「…なにしてんだよ」
「やりたくなっただけ」
「塵にしてもいいんだぞ」

すればいいよ、と笑って 彼に口付けを落とす。

「俺は、そっち側には行けないから」
「…知ってる」
「引き摺り込んでくれんなら、話は別だけど。やんねぇだろうし」

結局これは誰の意志なんだろう。
お互いに責任逃れ。
けど、手放すことも できやしない。

「塵にするならさ、抱きしめてよ」
「は?」
「死ぬなら 誰かの腕の中で死にたいだろ」

俺でいいのかよ、って笑う彼に他にいる?と首を傾げる。

「運命の番に出会った奴は それ以外とは無理って言うだろ」
「…運命ね」

馬鹿にするように笑った彼を抱き上げて、ベッドからゆっくりおりる。

「やめとけよ、俺なんか」
「こっちのセリフだよ」

首の後ろに回された腕。
そして、弔は首に顔を寄せて 俺の項に噛み付いた。

「痛ッ!!お前、ガチで噛んだな?」
「なぁ、」
「なんだよ」

噛まれた所がズキズキと痛む。
血出てるんじゃないだろうか。
てか、明日 会議あるのに隠せるのか。

「好きになんなよ、俺なんか」
「…あぁ、やめとくよ」

結局これに名前はない。
誰の意志かもわからない。
好きなんだろうけど、それを認めることも出来やしない。
お互いにわかってる。
名前をつけてはいけないと。
踏み込んではいけないと。

「弔」
「ん?」
「生きろよ」

ふはっと彼は俺に抱かれながら笑った。

「お前が殺すんだよ」
「…勘弁してくれ」
「じゃあ、生きてやるよ」

ヒーローと敵。
そして 運命の番。
あぁ俺たちは 今日も愚かな存在だ。





戻る






TOP