10 送られてきた位置情報を頼りに駆けつけた先。
「なまえ!」
手錠をかけられて俯く女となまえが立っていた。
「やっぱり、こいつだったんか」
「うん」
「そう、か」
彼女は顔を上げることもせず 駆けつけた警察に連れられていく。
その姿をなまえは視線で追いかけた。
「ねぇ、俺が 守ってあげるから。今度こそ」
返事はなかった。
俯いた彼女の名前を呼んで、もう一度 なまえは言った。
「だから、帰っておいで。罪を償って、今度こそ 普通の生活をしよう」
待ってるから、といつもより丁寧に言葉を紡いだ彼に 俯いた彼女の肩が震えたのがわかった。
馬鹿な人、と彼女は小さな声で呟いて 笑う。
そして、顔を上げて 真っ直ぐと前を見据えて 歩き出した。
その姿を なまえは優しい目で見つめて、大きく息を吐いた。
「いつから、気づいてた」
「最後に2人でご飯行った時、電話を盗み聞きしてたんだ」
「は?それだけ?」
うん、と頷けば彼は目を丸くさせる。
「今までと違う行動をしたから、気になった」
「…それがなんで、繋がんだよ」
「わかんない。直感かな。あの事件の資料を見たときに、なんか、嫌な予感がしてたし」
そうだったお前のそれはよく当たるんだった、と項垂れれば彼はごめんと笑った。
「せめて、相談をしろ。お前にこれで何かあったら俺はどうすりゃいい?」
「うん、ごめん」
「無事で、良かった」
彼を抱きしめて、良かったともう一度呟けば 彼の手が俺の頭を撫でた。
また救えなかったと、彼は小さな声で言った。
「あの子もね、神様になりたかったんだ。自分の大切なものを守る為に。家族を守る盾となり、家族を護る剣となり、家族の生きる道を照らす光になりたかった」
「あぁ、」
「たとえそれが、罪だとわかっていても。誰かが その罪を被らなきゃいけなかった。それがたまたま、彼女で 彼女たちだっただけ。きっと、代々受け継がれてきたことなんだろうね。俺に出会わなければ、これからも受け継がれていくことだったのかもしれない」
彼は笑う。
その笑顔は悲しそうで、けどどこかで安心したようにも見えた。
「なぁ、」
「ん?」
「ヒーロー辞めんなよ」
なんでと笑いながら 辞めないよ、と彼は言った。
守ってあげなくちゃいけないから、と発車するパトカーを見送る。
「あの子の帰る場所、今度こそ。守ってあげなくちゃいけないから。だから、ちゃんヒーローやるよ」
「…お前の弟は、どっちだったんだ」
「さぁ?けど、どっちであっても…今更知る必要はないかな」
なまえは歩き出し、ヒーローコスチューム着ておけばよかったなと 自分の服を見遣る。
話そらすなよ、と言えば彼は彼は足を止めて こちらを振り返った。
思った以上に冷めた目が細められ、ゆるく首を傾げる。
「その先なんて、頭の良い爆豪になら わかってんでしょ。俺の弟に危害を加えようとしてたなら、恋人だろうが関係ない。俺が、この手で 殺す」
「っ」
「なんて。そうなったら嫌だから、知らなくていいんだよ。嘘でも真でも、彼女は弟が愛した人だから。その人が愛した人を、俺は守るよ」
今度こそ神様になれたらいいねと 彼は笑った。
「さて、と。イレイザーヘッドを警察署に。残党の確保も急ぎの方がいいだろうね。孤児院へのガサ入れも」
「お前が好き勝手したせいでスケジュールめちゃくちゃじゃねぇか」
「その辺は、しっかりと怒られるとするよ。申し訳ないけど、一緒に頭下げてね。所長」
▽
「体に異変はないか」
彼女の個性を抹消し終えて、貸し会議室でファットとイレイザーに見つめられながら尋ねられた質問。
異変もなにも、変化はこれといってない。
「他の被害者はどうでした?」
「変わらなかった。自分達は寄付をしたと、主張を続けているそうだ」
「…どういう、原理なんですかね」
個性をかけることはできなくなるが、植え付けられた物自体はもう俺のものになってしまっているのだろう。
「本人も解除の方法はない、と。」
「そうなんですね。まぁ、これといって不便はないので 俺は大丈夫です」
「そういうわけにはいくかよ」
後ろに控えていた爆豪が舌打ちを零しながら、吠える。
なんで、と首だけ振り返れば 今のお前は嫌だと彼は言う。
「別にそんなに変わりなくないか」
「あるっつーの。俺を優先しろ、何よりも。今まではそうだったはずだ」
「王様かよ」
あ゛!?と敵紛いな眼光で俺を睨む彼に 溜息を吐く。
「戻らないものは仕方ないだろ。意識して優先してやるから我儘言うな」
「我儘じゃねぇ!元はと言えばお前が俺を甘やかし続けたんだろうが!!」
「そうだっけ?」
そこは否定できんな、と相澤先生まで言うから そうだったかと首を傾げる。
「神様に一番近かったから、敬う気持ちはあったかもね」
「また神様かよ」
「まぁ、元に戻るように 意識はしてみます。俺は個性がかかりきってなかったので、そこまで生活に不便はないかと思いますし」
他の被害者についてはカウンセリングが必要かもな、と2人が顔を見合わせて ここからが本題だと残された孤児院の話題に切り替わる。
「誘拐されていた子供たちは親元に返された。虐待被害に遭っていた子供たちは 今は保護下にある。今後はそちらに任せることになるが、殆どの子が孤児院に残ることを希望しているそうだ」
「そうですか。それだけ、大切にされてきたんですね」
「それ以外の子供たちは変わらず生活しているが。本当に支援する気か?」
はい、と答えて爆豪の方を振り返る。
「なまえ単体でと言うよりは、うちの事務所で援助していこうって話になってる。俺もあの女とはやりとりがあったし。なまえ単体に任せるには 操られてる不安もあるからな」
「…爆心地がそれでエエんなら、文句は言わんけど」
「ま、なまえをうちの事務所に縛り付けとく理由にもなるし、ヒーロー辞めさせねぇ足枷って事でいいかなと」
お前は俺をなんだと思ってるんだ、と言えば 言うこと聞かない番犬だなと 笑う。
「孤児院の名前についても報道規制されてますし、売名の為にやるわけでもないので。表に情報が出ることはないと思うので、院の子供たちには そこまでの苦労はさせないかと」
「けど、いいのか?お前を騙して 守ろうとした場所だぞ?」
「俺でも、同じことをしたと思うので。大切なものを守るためなら、手を染めても構わない。俺は彼女の気持ちはわかります。それに、もっと早く気づいて救ってあげることもできたかもしれないから。義兄としての、責任ってやつですかね」
そういう御託は聞き飽きたとばかりに爆豪は舌打ちをした。
事件が明けてから 生理か?と言いたくなるくらいにイライラしてるな 爆豪。
原因が俺なのはわかっているけど。
「まずもって、子供たちには何の罪もありませんから。同じことを繰り返させない為にも、罪を償って出てきた彼らも 普通の生活に戻れるようにする為にも 放っておけはしないので」
「そうか。お前がそれでいいなら、俺はこれ以上何も言わないよ」
「ありがとうございます、先生」
安心したように先生は微笑み、あの日のように俺の頭を撫でた。
「ねぇ、先生」
「どうした」
「今度こそ、ヒーローになれますかね。俺」
真っ直ぐ俺を見つめた先生は きっとなれるさと 今度は躊躇いもなく答えた。
「守るものがある人は、強いよ」
「はい」
「けど、何かあったら 俺がいる。また、いつでも 会いにくればいい」
何の話しとるん?とファットが俺と先生の間で視線を動かす。
内緒です と笑えばまた後ろから舌打ち。
「ありがとうございます。今回は独断で行動して色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません。以後このようなことがないように努めます。爆豪、帰ろ」
「言われんでも」
「また、何かの捜査で」
そうだ、なまえ と先生が俺を呼び止めて 爆豪を一瞥してから 口を開く。
「伝えられるときに伝えるってのは 悪くはないけど。好きって言葉はもっと大切にしろ」
「え、」
ぱちぱち、と目を瞬かせる俺と鬼の形相になった爆豪。
なるほど。
意外と独断で動いたこと 先生は怒っているらしい。
ニヤリと笑う先生に 肝に命じておきますと笑って、爆豪の手を引いて 部屋を出た。
▽
「随分とイレイザーヘッドと親密みたいじゃねぇか」
「お前は俺の彼女か何かかな」
「俺にこそこそと 会ってたんはあの人か」
言い方、と指摘するも彼は 文句を言い続ける。
「あの女のせいで俺を優先しなくなっただけじゃなく。他にも野郎がいるとはな」
「だから、言い方ね。別に俺はお前の恋人でもなんでもないだろ。ただの相棒」
「俺はそうは思ってねぇ」
じゃあ俺のこと好きなの?と尋ねれば 彼は口を閉ざす。
「お前が 素直に俺を好きって言えるようになったら 真面目に考えてあげるよ」
「は!?!」
ん?と首を傾げ 爆豪を見つめれば 彼の白い肌に朱が混じり始める。
「こっち見んな!!クッソ腹立つ!!!」
「怒っても、照れ隠しにしか見えないって」
「殺すぞ、マジで」
出来るものなら、と返せば 彼の手の平がバチバチと音を立てる。
けど 絶対にそれを俺に向けることはないのだ。
「けどまぁ、隣にはいてあげるよ」
「何で上からなんだよ、お前」
「爆豪が俺がいないと嫌だーって言うからじゃん」
言ってねぇ!!と彼は言うが やっぱりその顔は紅く染まってた。
「首洗って待ってろ」
「え、なに。怖」
「俺なしじゃ生きれなくしてやっから」
ニヤリと彼は好戦的に笑う。
彼らしいその笑顔につられて、俺も笑ってしまった。
「爆豪、」
「ンだよ、黙れ」
「ありがとう」
弟の死に向き合えず逃げた俺を、死を決めた俺を。
最後まで諦めなかったのは 彼だった。
俺が諦めてしまった俺を、彼は諦めないでいた。
高校の頃から変わらず、彼は俺の道しるべなのだ。
神様に一番近いのに、神様が一番に似合わない男。
「ねぇ、神様に 今度こそなれるかな」
「神様なんかいねぇよ、バーカ」
爆豪は笑って、俺の肩を小突いた。
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