04



「馬鹿かよ。俺の目の前で、死ねると思ったんか」

ヒーロースーツがなくとも、人1人くらい救える。
身を投げた彼を抱きとめて、高台のベンチに座らせた。

「…生きろ。またあの女を、苦しめる気か。義妹なんだろ。家族を、置き去りにするんか」
「そうだね」
「……俺が、お前の神様になってやる」

彼は目を瞬かせ何を思ったか笑い出す。
そして、馬鹿らしいと宣った。

「俺の神様になってどうすんだ。救うもんは、俺じゃないだろ」

立ち上がった彼は俺の前を通り過ぎて 階段に向かう。

「ちょ、おい!」
「意外だったわ、俺。」
「は?」

探しに来ると思わなかった、と彼は言った。

「逃げた奴を、わざわざ呼び戻しにくるとは思わなかった。勝手にしろや、雑魚に興味ねぇ って感じだと思ってた」

いきなり何の話をしているのか。
頭が追い付かないのに 彼はそのまま話し続ける。

「神様になんか、なれねぇ。死にたい奴は 勝手に死ね。…お前は、そう言うと思ってたんだよね。いや、そう…言って欲しかった」
「どういう、」
「お前なら、そう言うと思ったから あの日玄関を開けたのに。お前、普通の反応だったから」

まさか、お前!と彼の腕を掴めば 彼はやはりいつもの笑みを浮かべるのだ。

「俺に、背中を押させる気だったんか」
「察しが良いじゃん。どうせなら、神様に見限られて死にたかった。人間風情が、夢見てんじゃねぇって、現実に突き落として欲しかった」

けど、助けに来ちゃうから。
そういうとこが逆に神様なのかな、やっぱり。
彼はそんなことを言って、笑う。
そしてあの子と過ごして、死ぬ気はもうなくなっていたのだと 彼は言った。

「最初は本当に死ぬつもりだった。あの子を助けてから。けど、放っておけなくなった。俺と同じで、身寄りがないんだよね あの子。だから、本当に兄になろうと思って。弟が大切にしたい相手を 悲しませたくはないから」
「…じゃあ、今までのはなんだ!!?茶番か!!?!」
「お前が勝手にヒートアップしたんじゃん。あの子にも酷い態度だし。ちゃんと俺は言ったよね?死ぬつもりだった って。過去形」

これから本当に死のうって人間が、素直に私死にますなんて言うわけないだろ。
彼は馬鹿にするように笑った。
じゃあなんだ?
あの飛び降りもわざと?何のために?

「お前が、俺なんかの為に必死になってるから。ちょっとからかった」
「…殺すぞ、テメェ」
「構わないよ。君に殺されるんなら本望だ」

話のペースが掴めなくて、イライラする。
それを察したのかごめんごめん、と彼は笑った。

「死ぬつもりの行動だった、全て。だから、それで迷惑をかけたことは謝罪する。けど、まだ あの子を放ってはおけないから。俺はあの子の側にいるよ」
「チッ そうかよ」
「携帯も持てないし、電話もないから。変わらないけど、もう逃げたりはしない。死にもしない。だから、行方不明届は取り下げといて」

ヒーローは、と問うた俺に彼は苦笑を零す。

「それはまだ、待ってくれ。戻るか戻らないか、その選択は 今の俺には出来ない。まぁ、戻らないの方が 今のところ優勢。」
「あ゛ぁ!?!」
「怖いから。命に、触れるのが。…命が失われるのが、怖いから」

だからまだ テレビも見れないと 彼は言った。
あの女だけじゃなかったんか。
そりゃ、死を考えるレベルだったんなら、仕方ないのか。
そこから一歩踏み止まれだだけラッキーなのか。

「……独立する」
「は?」
「席を空けとく。さっさと、帰ってこい」

無茶苦茶な、と彼は言う。
何だっていい。
何と言われようが、彼を俺の隣から離す気はもうない。

「言ったろ、大事なもん みすみす手離す気はねぇ」
「あっそ。期待するだけ、無駄だろうけど」





それから、1年が過ぎた。
なまえは例の女とは別々に暮らし始めた。
近所に住んでいるからよく顔を合わせてはいるようだが、彼女は休学していた大学に復学したらしい。
そして、彼は。

「人使いが荒い」
「あ゛?!文句あるんか、クソなまえ」
「すぐそうやってキレないでくれる?」

俺の事務所で、ヒーローに復帰した。
あれから、病院に通い 2人とも治療を受けたらしい。
なまえの方が治療は長引いた。
現場復帰してからも、現場で動けなくなったり ぶっ倒れたりと色々あり。
漸く なんとか元の姿に戻れた所だった。
最近では元A組メンバーにも会っているようで、周りもやっと安心できる環境になってきた。

「なぁ、お前さ」
「ん?」
「結局、今はどうなりたいの?」

俺の問いかけに彼は首を傾げた。

「…さぁね」

傷のない新しいジッポライターから出た火が龍のように蠢いて、俺の頬を掠めていく。
俺の背後にいた敵を捕まえたのか、振り返れば 炎が2人の敵を縛り付けていた。

「これで、全員?今日は残業なしで帰るからな、俺」
「何で?」
「あの子とご飯」

チッと舌打ちをすれば何にキレてんの?と彼は首を傾げた。
別々に暮らしてるくせに、週の半分はあの女のために予定を空けているのが気にくわねぇ。

「彼氏できねぇぞ、あの女」
「もしもの時は俺が貰うよ」

彼のその言葉を聞いた瞬間、手のひらで爆発が起きた。
目を丸くした彼が 暴発?と心配そうに俺の手をとる。

「妹と結婚はできねぇ」
「戸籍上は赤の他人なんだけど」
「テメェは 俺のもんだ」

どういうこと?と彼は首を傾げた。
正直今も俺の感情に ちゃんと名前がついてるわけじゃない。
けど、俺以外の誰かが 彼の隣にいることは到底許せるものではなかった。

「俺以外を選ばせるわけねぇだろ」
「いや、恋人は 普通に女の子がいいんだけど」
「ダメだ」

それは理不尽すぎね?と彼は言う。
知るかよ、そんなもん。

「じゃあ、爆豪俺と付き合うの?」
「あぁ、付き合ってやんよ」
「いや、何で上から目線なの?意味わかんない」

敵を警察に引き渡して、お前俺のこと好きなの?と真顔で問うてくる彼に蹴りを入れた。

「何!?理不尽!」
「好きとかそういうんじゃねぇ」
「はぁ!?いや、意味わかんなすぎませんか?」

神様の言うこと聞けや、と俺が言えば彼は口を閉ざす。

「お前は俺のもんだ。誰にも、絶対に渡す気はねぇ」
「なんつー我儘な神様。お前の傲慢さはここまで悪化するの?流石に重症じゃない?」
「黙れ」





「ごめん、お待たせ」
「いえ、お疲れ様です。どうですか、お仕事」
「理不尽な上司に振り回されてる」

彼女はクスクスと笑った。
本当に仲が良いんですね、と言った彼女にそうなの?と俺は首を傾げた。

「そうですよ、きっと。爆豪さん、なまえさんのこと凄く大切にされてるから。だから、あんなに必死に 貴方を連れ戻しにきたんですよ」
「…違うと思うよ」

自分の所有物だと思ってた物が 無くなったから。
それに執着しているだけ。
当たり前のように側にいたから、いなくなったことで そこにこだわってしまっているだけだ。

「早々に浮気か、クソなまえ」
「は?いや、はぁ!?」
「なまえさんが、珍しく動揺してる…」

動揺しかないわ。

「付き合ってないからな、俺とお前」
「…お前は俺のもんだ」
「俺は物じゃないし。好きな奴と付き合いたいし、自分を好いてくれてる奴と付き合いたい。てか、まず…今は大切な人は作らないから」

てか、なんでいんの?と首を傾げれば 彼女が私が呼んじゃいましたと笑った。

「…マジか」
「行くぞ」

歩き出した爆豪の後を彼女が追いかける。
話してる内容までは聞こえないが 彼女が爆豪の肩に手を置いて 何かを耳打ちした。
その後ろ姿を見ながら 何かが燻った。
それが、何なのか 俺にはよくわからなかった。

「おい、ボサッとすんな。置いてくぞ」
「あぁ、ごめん」

彼らの後を追いかければ、自分の携帯が鳴った。
その音で少し身構えたが、深呼吸を1つして ポケットから取り出す。

「誰からだ?」
「…誰だろ」

登録されていない番号だった。
一度解約したこともあり、登録してある方が珍しいのだが。

「…もしもし、」
『急に悪い。俺だ、』
「えっと?」

イレイザーヘッド、と電話の向こうの声が言った。

「え、あ…お疲れ様です。どうしましたか」
『いや。少し、会えないか?話したいことがある』
「今から?」

お前の事務所の近くに仕事で来てたから。無理は言わないがと 彼は言う。
俺の電話で足を止めた2人を見ながら、口は自然のわかりましたと答えていた。

『悪いな、急に。大丈夫だったか?』
「はい、今帰ってるところなので。今、どちらに?」
『とりあえず、駅前に』

そこにいて下さい、と伝えて 電話を切る。

「ごめん、呼び出しだから。今日は パスで」
「は?誰から?」
「あー。プライベートなことだから、ごめん」

事務所のトップである爆豪を間に挟んでいない所を見ると、仕事のことではないと思うが。
そうでないとも限らないし、守秘義務のある内容かもしれないから 今は伝えるべきではないだろう。

「ごめんね、ご飯はまた今度」
「少し寂しいですけど。…気をつけて行ってきて下さいね」
「ありがとう。ごめん、 爆豪。出来れば、彼女のこと家まで送ってあげて」

何か言いたげな爆豪の返事を聞く前に 俺は踵を返した。



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