06



朝、事務所に行った俺を待っていたのは仁王立ちしてる爆豪だった。
何度連絡したと思ってるんだ、という彼の言葉にごめんねと笑彼で彼の横を通り過ぎた。

「誰といた」
「プライベートな事だって言ったろ?爆豪には関係ないよ」
「は?」

あの涙を先生は気付いていただろう。
赤く腫れた目を見て、彼は何も言わなかった。
それでも差し出された暖かいココアが 彼の優しさを感じさせた。
彼が話してくれたたわいもない話。
仲の悪い生徒がいるとか、頭が悪すぎてどうして雄英に受かったのか不思議な生徒がいるとか。
俺の気を紛らわす為のその話の節々に彼の先生としての優しさが滲み出る。
生徒だった時は 気付かなかったその1つ1つを見れたのがなんだか特別な気がした。

「教員寮でもてなしも何もないけど、いつでも来ればいいよ」

彼はそう言って俺の頭を撫でた。
それはまだ、ぎこちなさを残してた。

「関係ねぇって、なんだよ」
「そのまんま。俺のプライベートまで 縛り付けるの?流石にそんなことしないよね?」

ヒーローコスチュームに着替えて、仮面で顔を隠す。
大丈夫、俺は今日もヒーローでいられる。

「お前は俺の「俺はお前の恋人になる気はないからね」」

俺を睨みつける彼に 俺は笑った。
きっと彼には見えてないだろうけど。

「俺とお前は 上司と部下。相棒。元クラスメイト。友達。それだけ。それ以上でも以下でもない。俺を支配することが出来たのは、弟 ただ一人だけだから」
「っそーかよ!勝手にしろ」
「言われなくても」

朝、寮を出るとき 沢山の着信とメッセージが来てる事には気付いていた。
それに 返事は1つもしなかった。
煩わしいと、思ったのかもしれない。
俺にヒーローのなまえを求める彼と違って 俺を 俺として見てくれた先生が隣にいたから。

「ちゃんと仕事はしろよ」
「それは勿論」

爆豪とは言え、彼はもう子供ではない。
仕事にそれを引きずるようなことはしない。
まぁ、緑谷と現場で会うと まだ口論にはなっているけど。
俺が消えた半年間も彼は 爆心地として しっかりヒーローをしていた。

「とりあえず、夕方から合同会議だから」
「ファットガムのとことだっけ」
「そうだ。あと多分、クソデクあたりも来る」

目ぇ通しとけ、と渡された書類を捲る。
詐欺をメインに活動する組織の一斉検挙が目的のようだが、組織については不透明。
被害届だけ積み重なり、大元は見えない。

「行方不明者はほとんど子供か。数も多くないか?」
「人身売買だろ。…個性目的のな」
「あーここんとこ多いな。これ本当にこの組織と関係してんの?」

多分な、と彼は舌打ちをした。
個性目的の人身売買となれば、洗脳系の敵がいるのかもな。

「ん?」
「なんだ?」
「あ、いや」

こちらを見た爆豪に 気付いたことを伝えようとした時。鳴り響いた警報。

「朝から暇かよ。行けるか、なまえ」
「そりゃ当然」




「よ!」
「あぁ、久しぶり」

元気そうじゃねぇか!と嬉しそうに切島が俺の背を叩く。

「バクゴーから話は聞いてたけど、なんだかんだ会えなかったからな」
「迷惑かけてごめん。もう平気だから」
「そうか!帰って来てくれてよかったよ」

彼の笑顔に笑顔を返す。
集まっているヒーローは随分と有名どころばかり。
それほど、この組織がデカいということだろう。

「あ、なまえくん」
「ん?あぁ、緑谷」
「調子はどう?」

特に問題ないよ、と笑ってやれば彼は安心したように笑った。
復帰すぐの時 ぶっ倒れて迷惑をかけて以来だし、気にかけてくれていたんだろう。

「おい、喋ってねぇで 来い」
「かっちゃん!」
「うるせぇ、黙れ」

ただ名前呼んだだけだろ、と俺が言えば 爆豪は舌打ちを零す。

「口答えすんな。行くぞ」
「何様」
「あ゛?」

昨日のことをそんなに怒っているのか。
まぁ、機嫌をとる気は別にないのだけど。

「お疲れ様です。今回は宜しくお願いします」
「おー!元気しとったか」
「ご無沙汰してます、ファットさん」

ちょっと痩せたんちゃうか、と大きな手が腕を撫でた。
そんなことないですよ、と答えながら 彼の隣に座れば ガタッとわざとらしく大きな音を立てて爆豪は俺の隣に座った。
会議の内容は一斉検挙の為のそれぞれの役割分担の伝達が主だった。
逃げられない為に多方面から同時に組織を狙うらしい。
組織の大元へいけると考えているようだが、組織内の個性も含めて不透明なとこが多すぎる。

「あの、この詐欺って主にどういうのを?」
「結婚が多いな。後は、遺産狙いの年配の人を狙ったもの」
「手口は?」

そこまでは、と彼らは言う。

「組織が保有してる個性は?」
「わかるのは書いてあるのが全てだ」
「…ありがとうございます」

どうした、とこちらを見た爆豪にちょっと気になることがあっただけ、と資料に視線を落とす。
今時珍しい詐欺をメインとする組織。
お金を集めるには手っ取り早いが、ここのところ派手なものに固執する敵が多かったからなぁ。
だからこそ、細々と続いて ここまでデカくなったのか。
だが、何故わざわざ結婚や遺産狙いの詐欺を?
関係を築く為に割く時間の割に、取り分が少なくないか?
詐欺での現状わかる被害総額の多さを見ると、一つ一つ相当巻き上げてはいるが、だとしてもだ。
お金の行き先はどこだ?
誘拐した子供はどこへ消えた?
個性目的の人身売買なら お金も腐る程入るだろうに。
誘拐の為に洗脳系がいると思っていたが もしそれがいるなら、わざわざこんな面倒なやり方するだろうか。
洗脳で操って金持ちから巻き上げた方が早そうなのに、それをやっていないのは何故か。
しかも、一番気になる点は…。

「なまえ、」

肩を揺すられ、顔を上げる。

「大丈夫か」

心配そうな爆豪の視線に瞬きを返す。

「具合悪いんか?」

反対側に座ったファットからもそう声をかけられて、大丈夫ですよと笑い返す。

「ちょっと考え事してて、」
「お前は前線から離れた方がいいか?今回」
「いや、平気。大丈夫」

復帰後初と言っていい 大規模な事件ではあるが 特に問題はないだろう。
昨日の相澤先生との件もあり、気持ちは比較的穏やかだ。
会議が終わり、一旦外へ出る。
各々思う所を話し合っているのを視界の端に入れつつ、会議室の外のベンチに座って もう一度資料に視線を落とす。

「なまえくん」
「ん?」
「この後切島くんとご飯行くんだけど 一緒にどう?あ、上鳴くんとか麗日さんも来るんだけど」

返事をする前に 切島が爆豪を誘う声が聞こえて、あー となんとも言えない声だけ返し視線を逸らす。
行ってやるわ、クソが!と素直じゃない行くという返事をしてる爆豪の声が聞こえて 自然と口が動いていた。

「やめとく、今日は」
「え、あ…そっか…」
「ごめんな誘ってくれたのに」

いやいや、大丈夫だよ!と大袈裟に手を横に振った。

「やっぱり、まだ…本調子じゃない?」
「そういうわけじゃないよ、もう平気。ただ、今日は気分じゃなくて」
「そっか。また誘うね」

ありがとう、と答えて 立ち上がる。

「爆豪、」
「あ゛!?」
「俺、直帰で平気?」

じっと俺を睨んだ彼だったが、帰っていいぞ と彼は答える。

「すいません、お先失礼します。お疲れ様です」





「なんだよー、なまえ来てないのかよ」
「断られちゃって…」

ちら、と水を飲むようにお酒を煽るかっちゃんに視線を向ける。

「で、爆豪はなんでああなの?」
「変なんだよ、なまえ」

爆豪の代わりに答えた切島に 話を聞いていた瀬呂くんや麗日さんが顔を見合わせる。

「変って?」
「なんつーか、こう!」

切島くんが目の横に手を添える。
視野が狭まっていることを 伝えたいのだろう。
今日の会議中も 資料に集中して 話を聞いてないこともあったように見えたし 言いたい事はわかる。

「集中してるんはいいことやないの?」
「それはそうなんだけどさ。なまえくんって 周りを凄く見てたじゃん?自分を優先することってあんまりなかったし、いつも周りに気を遣ってて」
「そう言われるとたしかに」

特に爆豪派閥と言われる 切島くん、瀬呂くん、上鳴くん辺りがうんうんと大袈裟に頷く。

「空気読みすぎっつーか、なぁ?」
「いつも俺らの一歩先周りしてて 行き先の邪魔なものを片しておいてくれるような…そんな感じ?」
「そんななまえの視野が狭まるって、たしかに変ね」

ずっと黙って話を聞いていたかっちゃんが ガンッと空になったグラスを机に置く。

「あの女のせいだ」
「女?」
「それだけじゃない、昨日の奴も」

少しいつもより元気のないかっちゃんの声に その場がしんとなる。

「アイツが変わったんじゃねぇ。変えられてんだ」
「え、なに?女って彼女?」
「違ぇ!殺すぞ!」

怖っ!と上鳴くんが瀬呂くんの後ろに隠れる。
まぁまぁ落ち着けよと切島くんが肩を叩く。

「アイツが、俺以外の誰かを 優先することなんてなかった」
「え…まぁ、なまえにもプライベートってあるし…。ほら、歳も歳だし」
「それでも、なによりも 俺を優先してた。…一緒にいて、別の奴の呼び出しに応じるなんて…なかった」

ガン、と急に机に突っ伏した彼から聞こえる寝息。
寝たなと 切島くんが苦笑を零しながらこちらを振り返った。

「けど確かに、なまえって 爆豪優先なとこあったよな。学校の頃から」
「まぁ、それは女子も思ってたんよ」
「だろ?俺らもそれが当たり前だったし、だからこそこいつらの関係って成り立ってたんだよ」

そう言われると確かに。
かっちゃんの我儘を笑って許してくれるから、かっちゃんは彼の隣に居たんだと思う。
個性の相性もあるだろうけど。

「…大丈夫なのかな、同じ事務所で」
「確かに…」




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