08


「こんにちは」

最後の被害者宅。
チャイムを鳴らせば怪訝そうな顔をした男性が出てきた。

「ヒーローのなまえと申します。突然申し訳ありません。お話が聞きたくて」
「…話すことはない。帰ってくれ」
「あ、違うんです。貴方が被害者だとは思っていません」

にこりと笑ってやれば、閉めようとしていたドアが止まる。
やはり、この人もそうか。

「貴方が寄付した先のこと、教えてくれませんか」
「…お前、」
「私はちゃんと知ってます。貴方は詐欺になんてあってない」

ここに来るまでに会った被害者も一様に口を揃えて言った。
詐欺になんてあってない。
自分の意思で、お金を払ったと。
厄介なことに、詐欺という言葉には強い嫌悪感を抱くように彼らはなっている。
捜査資料に彼らからの供述がなかったのは その為だろう。
詐欺られたというのは被害者の周囲の人間だけだ。
人が変わった。
お金がなくなった。
そんな訴えがいくつも重なり、ようやくその組織の外枠が浮き彫りになった。
だが、外枠だ。
下っ端の構成員も逮捕はされているようだが、決定的な証拠はない。

金はどこへ消えた?何に使った?
何故、本人は被害届を出さない?
被害者に会って、わかった。
彼らは自分の意思で 金を 誰かに渡した。
そう、思い込んでいる。
思い込まされている。
詐欺、被害者、騙された そんな言葉を投げかければ途端に彼らは心を閉ざす。
今もまだ、個性から抜け出せていないのだろう。

「寄付、したんですよね?」
「だったらなんだ」
「その寄付した先を、教えていただけませんか」

どうして、と彼は俺を睨んだ。
これまで会ってきた被害者同様、警戒心はそう簡単には解けないな。

「弟が亡くなったんです」
「は?」
「弟の遺したものは寄付してほしいと、遺言で。…けど、ヒーローという身では 一つの場所を選ぶも癒着だなんだと 騒ぎ立てられてしまうので」

絶対バレない相手に寄付したいんです、と言えば彼は少し黙り込み、何も言わずにドアを開いた。
寄付先を、誰一人として話さなかった。
捕まった構成員でさえ、言わない知らないの一点張り。
なら、騙されたふりする他ないだろう。

「どうして、弟は寄付なんか」
「俺と弟は孤児院の生まれなんです。苦労しましたよ、ほんとに。だからこそ、力になりたかったんでしょうね。…けど、私たちが育った所は経営困難で…」

よかったらどうぞとソファに座った俺の前に置かれたグラス。

「私が寄付した先も…孤児院です」
「…へぇ、」
「経営困難で潰れてしまう寸前で。…潰れてしまえば沢山の子供が路頭に迷うことになる。だから、自分の使わないお金を寄付しました」

現金でやり取りしたのは何故ですか、と尋ねれば 貴方と同じですよと彼は言った。

「記録が残れば、それを誰かが見つける。実際、今も詐欺だなんだと騒ぎ立てられている。貴方ほどには、苦労はないですけどね。それでも、」
「そうだったんですね。…わかります、その気持ち」

そういう気持ちを汲んで、現金でやり取りしてくれると言ったのだと 彼は言う。
寄付した先はと 見せてくれたパンフレット。

「ここが、」
「はい。この電話番号にかければ こちらの都合に合わせてやりとりしてくれます」
「…ありがとうございます」

これ写真に撮らせていただいても?と尋ねれば 彼は頷いた。





「ただいま、」
「なんかわかったんか」

爆豪が俺に気付いて電話を切った。

「電話いいの?」
「あぁ、気にしなくていい」
「そう」

これ、とチラシの写真を見せれば彼はこちらを見上げた。

「詐欺のお金の行き先だよ」
「は?」
「洗脳に近い何かで 被害者は一様に寄付をしたと言う。詐欺とか被害者って言葉を出せば 心を閉ざすように弄られてた」

爆豪がカタカタとパソコンを叩く。
プロジェクターにはチラシに映る孤児院が映し出された。

「そこは実際にある孤児院。子供は結構な人数いるみたいだった。金の動きは調べたけど、大口の支援者がいるわけじゃないのに お金には困っていないようだった」
「…詐欺で集めたお金が全部ここに?なんで?子供を兵器にでもして売ってんのか」
「いや、それもなさそう」

じゃあ何に使ってんだ、と言う爆豪に 子供を育てるためじゃない?と首を傾げた。

「孤児院の運営には金が必要なんだよ。寄付を集めるにも ヒーローは一つのとこに寄付すると癒着だなんだと騒がれる時代でしょ?孤児院の数が多いからお金が分散して そんなに沢山は入らない。だから、詐欺でお金を集めて 運営してる」
「おいおいおい、そんな理由で?じゃあ、誘拐は?」
「誘拐された子供は、その孤児院にいた。確認できたのは2人だけだけど きっと全員いるだろうね」

どう言う意味だ、と爆豪が眉間の皺を深くした。

「元々の資料にあるよう誘拐された子供はみんな、学校なり家なりで 暴力やいじめを受けていた。これは誘拐じゃなく、救済。可哀想な子供達を助けて、この孤児院という平和な場所で育ててあげる。救えば救うほどお金が必要になる。て、とこだろ」
「もし、それが本当だとして…犯人はなんの目的で?」
「ここの出身なんじゃない?」

プロジェクターに映し出した捕まった下っ端構成員複数名。
名前を捨て、戸籍を捨て、敵名で生きてる彼らだったが警察の努力で少しずつ情報が割れてきていた。

「実際、この2人はここの出身だった」
「…なるほどな。自分たちの生まれたところを守りたいってか?犯罪に手を染めてまで」
「そう」

そこまでやるか、普通 と爆豪は表情をより険しくさせた。

「やるよ」
「は?」

プロジェクターの映像を消して、こちらを見た彼に笑いかける。
気持ちはすごくわかる、この犯罪に手を染めてしまった彼らの。

「俺だって、弟の為なら犯罪に手を染めたっていい。人を殺したっていい」
「おい、ヒーローがなんつーこと言ってんだ」
「神様になりたいんだよ」

全てを救える本当の神様にはなれないってわかっている。
そんなもの存在してないって、わかってる。
だから、彼らは。だから俺たちは。

「自分の大切なものを守る為に、神様になりたいんだ。たとえ、その他大勢を犠牲にしてもね」
「…酔狂にも、ほどがあんだろ」
「そう?」

きっと彼らも同じように助けられたんだろう。
始まりは誰だったのか、どんな気まぐれだったのか。
だが、それを受け継いでいくくらい 大切にされたんだ。

「孤児院の出身の人が普通の生活に戻るのは難しい」
「なんで?」
「お金がないから。働き口も ない。自分の望んだ望まない関係なく、社会に出れば親がいないことは不利なんだよ。」

それは俺が一番知っていること。
弟をまっとうに生きさせるために、俺がヒーローという職業に身を置いたように。
それも、広告塔として俺を使おうとしてくれたお偉いさんがいたから、御誂え向きな個性があったからできたこと。
そうでなければきっと、もっと苦労していただろう。
それこそ、闇に身を沈めていた可能性だってある。

「父がいて、母がいて、何不自由なく雄英なんかに通えた爆豪には わからないだろうけどね」
「っ」
「…俺はこれ、警察に伝えてくるから。ファットさんのとこに連絡してもらっていいか」

俯いた爆豪が何か呟いた。

「爆豪?」
「っだよ!!テメェは!!」
「は?なんで怒ってんの、」

顔を上げた爆豪がその瞳に薄ら涙を浮かべた。
泣かせるようなこと、言ったか。
意外と泣き虫だからな、とどこか他人事のように考えている自分の胸倉を彼が掴む。

「なんなんだよ!お前!最近!!」
「最近って?」
「昔のお前なら、そんなこと言わなかった。俺を否定する言葉なんて、」

胸倉を掴む彼の手が微かに震えてた。

「勝手に人のこと甘やかしておいて、女が出来た途端邪魔になったんか?!」
「待って、俺はそんなつもり…」
「自覚ねぇんか!!?!なら、尚更タチが悪ぃ」

手を離した彼が舌打ちをする。
そして、乱暴に自分の髪をかき乱した。

「わかってやっててくれりゃ、まだよかった」
「…悪い」
「自覚ねぇくせに謝んな」

人が変わったと、言われましたよ。
被害者の何人かの言葉が頭の中を過ぎる。

「なぁ、俺って変わったか」
「ハァ!?!だから!そう言ってんだろ!!」
「そうか。なるほど、な。」

何1人で納得してんだと俺を睨んだ爆豪に俺は笑った。

「次は、俺か」
「は?」

最悪中の最悪だな。
額に手を当てて、ふぅと一つ息を吐く。

「とりあえず、ファットさんと警察に連絡頼む」
「は、おい!?」
「俺はやることができたから。帰る」

急になんだ、と爆豪が俺の腕を掴む。

「何考えてる、」
「あと、イレイザーヘッドに 術者を捕まえて個性を消せば、体に残ってる個性の効果も消せるのか確認してほしい。とりあえず捜査協力をお願いした方がいいかもな」
「は?」

頼んだ、と爆豪の手を俺の腕から離して 着信履歴の一番上にある名前を押した。
数回のコール音の後、もしもし?といつもの声。

「今から会える?」

喜んで、と電話の向こうの声が 答えた。




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