09 警察とファットに連絡をすればテレビ電話での緊急会議が行われることになった。
『ホンマなんか?なまえの言うことは』
「ほぼ間違いねぇだろ。実際、警察からの情報で 逮捕されてる残りの構成員もあの孤児院の出身だってわかってる」
『けど、かっちゃん。本当にそんなことのために詐欺なんかする?誘拐まで…』
なまえが言うことが信じらんねぇんか、とデクに吠えればそんなつもりはないけど!と彼は反論する。
『けど、信じられない…かな。そんな、もっと方法が…』
「俺らにゃ、わからねぇよ。父がいて、母がいて、何不自由なく雄英なんかに通えた 俺らにゃ』
『それ、誰のセリフだ』
俺の連絡から 捜査に加わることになったイレイザーヘッドが眉を寄せる。
「アンタの予想してる奴だよ」
『…なまえ、か』
「そーさ。アイツにゃわかるらしいぜ?この犯罪者たちの気持ちが」
胸糞悪ぃ、と手に持ってたマグカップを音を立ててテーブルに置いた。
『で?その張本人はどこにいるんや?』
「さぁな。仕事押し付けて どっか行きやがった。…次は俺か、とか言ってたけど」
『ねぇ、かっちゃん。まさかだけど…なまえくん、犯人に会いに行った…なんてことないよね?』
は、と俺が目を見開けば 相変わらず気持ち悪いぶつぶつと呟くデクの癖。
『なまえくん、最近変だってかっちゃん言ってたよね?』
「だったらなんだ」
『…被害者の共通点って。男性でお金を持っていること。そして、人が変わったと周囲に思われていたこと…じゃない?』
なまえくんにぴったりだと、僕思うんだけどとデクは言う。
『待たんかい。もしそうなら、なまえが犯人に変えられとるってことか?この捜査の内容も筒抜けって?』
『いや、そこまでは。けど、次は俺かってなまえくんが言ってるところや自分で捜査を進めてるところを見ると そこまでは操られてないんじゃないかなと。けど、術にかかってる可能性は高いんじゃ…かっちゃん?』
「……そーいうことか、」
アイツは言った。
もう大切なものは失いたくないと。
だが、天秤にかけなければいけないと。
「今まで事件は半年定期で起こってた。人探しから操るまで半年かかると考えると、この1年半事件が起こってないのはなんでだ?」
『それは、たしかに』
「死んだんだよ。個性をかけていた相手が」
きっと、予想外だった。
犯人も、死ぬとは思っていなかった。
いや待てよ?
もし、そうなら なんで他人の記憶に残るような行動をした?
詐欺するのが目的だったなら、死んだら次に行けばいいんじゃ…?
『爆豪?』
「本気だったのか?」
詐欺をする傍ら、本気で好きになった?
けど 死んでショックを受けて…外部との連絡を絶った。
本来のターゲットは別にいたが、中途半端に終わってるのか?
1年半かけて、アイツは普通の生活に戻った。
そこで再度接触があった?
『わかるように話せ』
「多分だけど、犯人は…」
▽
「どうしたんですか?急に会いたいなんて」
「ごめんね、」
彼女は笑う。
弟の隣に並び、俺に会いに来たあの頃と変わらない笑顔で。
「俺さ、ヒーロー辞めようと思って」
「え、」
辞表を出してきたんだ、と言えば少しだけ彼女の目に喜びが滲む。
「精神的にもきつくなってたから、いい機会かなって」
「それが、いいと思います。ヒーローやってるなまえさんは素敵ですけど、やっぱり辛そうで…」
「うん、そうだね」
それでね、と一度大きく息を吐く。
「結婚を、しようと思って」
「…え?」
彼女の表情が一気に曇った。
「結婚、?だ、誰と…?」
「爆豪だよ」
強張った表情。
「そんなの、ヒーロー辞める意味が…」
彼女は自分の口を手で隠し、目を逸らす。
きっと咄嗟に出てしまった本音なんだろう。
「そうだよね。俺と、爆豪を切り離したくて ヒーローを辞めさせたかったんだもんね?」
「え、」
「優先順位が高くなればなるほど、個性がかかりやすいのかな?ヒーロー復帰前までは上手くいってたのに 復帰してから個性がかからなくなって焦った?」
見開かれた彼女の目に映る自分は、なぜか薄ら笑いを浮かべていた。
「俺のお金を、君の孤児院に寄付させたかったんだよね?」
「な、に言って…」
「弟のことは どっちだった?本気だったの?騙してたの?」
彼女から返答はない。
「まぁ、どちらでもいいか。ヒーローをカモにしようなんて、度胸がある」
そっと彼女の手を握りしめ、手首にかけた手錠。
連続詐欺事件の実行犯として、君を逮捕すると彼女の目を見つめながら伝える。
「ち、違う。私じゃない!!」
「いや、君だよ」
「なんの証拠があるんです!?私が何をしたっていうんですか!!?」
思えば最初からおかしいんだよ、と言えば彼女は何が、と声を荒げた。
「身寄りがないはずの君が 仕事もせずに大学に通っていること。奨学金って可能性もあったけど、1年近い休学があれば普通は打ち切られる。通院でも、お金に困ってる様子はなかった。俺は弟の死亡保険やらなんやらでお金が入ってきてはいたけどね。君には、それもない」
「お、親が 死んだ親が お金を残してくれていただけ」
「そう。俺もそう思ったんだけど、君に親はいない。君に会う前に調べてきた。君の出身は孤児院だった」
孤児院の出身の人が、普通の生活をするのに 一体どれだけのお金がいると思う?と首を傾げる。
「何をやるにもね、親がいないことは 足枷になる。その足枷を外すにはお金が必要なんだよ。俺は、その足枷に縛られながら生きてきた。だから、弟の足枷を外す為にヒーローになった。君は?君は誰に、その足枷を外してもらったの?」
彼女は言葉を詰まらせた。
「お金が必要だった。自分たちの自立のために。そして、残された子供たちのために」
「っ!だったら、なんだって言うんですか。親がいないだけで、どうして冷遇されるんです!?普通の生活がしたかっただけ!!普通に学校に通って、普通に就職して、普通に結婚して!普通に生きたかっただけなのに!!!」
「そうだね」
自分の普通を守る為に、戦っただけだと彼女は言った。
たしかに、その通りなんだろうな。
ただ、ただ普通に生きたかっただけ。
「同じ苦しみを下の子たちに味わってほしくなかった。守りたかった。私の、私の大切な家族だから。それの何が悪いんですか!?お金を持て余してる人たちから少し貰っただけじゃないですか。私たちも生きれて、あの人たちも普通の生活を送れてる。何がいけないんですか!?」
「自分が一番、わかってるでしょ?何がいけないかなんて」
「うるさい。うるさいうるさいうるさい!私は、家族のために戦ってただけです。たった1人の家族を救えなかったなまえさんに、責められる筋合いはない」
戦い方が、間違ってるんだよと言えば彼女はキッと俺を睨みつけた。
こんな表情もするんだな。
知らなかった。
家族を守るために悪に手を染めた。
わかるんだよね、その気持ち。
俺もきっと、弟のためなら同じことができた。
「誰も!助けてくれなかったじゃない!ヒーローなんて!神様なんて、いなかった!!だから!私が、私たちが救わなくちゃいけなかった!!」
「うん、そうだね。ヒーローは、救う人を選ぶ。神様は、いない。だから君が、家族のヒーローに…神様になりたかったんだよね。」
「だったら、なんです」
「君の言い分はよくわかる。けど、罪である以上罰を受けなきゃいけない」
警察もきっともう君達に辿り着くよと言えば ヒーローなんか狙わなきゃよかったと彼女は言った。
たしかに、俺を狙わなければここまでバレることはなかったかもしれない。
いや、まずあの日 俺の電話を盗み聞きなんてしていなければ 疑いを持つことなんてなかった。
「俺の持て余したお金を、狙ったところまでは良かった。けど、個性なんかに頼らず 伝えるべきだった。同じ孤児院の出身として、表立った支援はできなくとも君を通して寄付することはできたはずだ」
「な、」
「大切な義妹の為なら…俺だって、なんて 今更だね。弟を救えなかった時点で俺は、君にとってのヒーローでは なかったんだよね?」
彼女は何も、答えはしなかった。
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