独占


「当真先輩」
「お、なまえ。上がりか?飯行く?」
「これから模擬戦っす」

なんだ残念、と笑った当真さんにまた今度是非、と表情を緩め微笑む。

「笑ってんじゃねぇよ」

ぼそっと呟いた言葉を太刀川さんが拾ったのかこちらを見て「ん?」と首を傾げる。

「相変わらずすげぇ猫被りだなって、思っただけですよ」
「まぁな」

当真さんにぺこりと頭を下げて戻ってきた彼は表情を消し、俺の隣に並ぶ。
幼馴染として育ち、幼稚園から今に至るまで同じクラスという奇跡を重ね、俺と同じく太刀川隊に所属する彼は俺を見て「何」とぶっきらぼうに言った。

「二重人格」
「黙れ」
「当真さんにもさっさとバレちまえ」

バラしたら殺すとドスのきいた声で言った彼はじろりと俺を睨んだ。

「模擬戦で 頭には気をつけろよ」
「俺のこと打つ気かよ!?」
「偶然、弾が当たるだけだから安心しろ」

事前に決まった偶然ってなんだ、と言い返せば 彼はそっぽを向いて歩き出す。

「慶さん、コーヒー買ってから行っていいっすか」
「おう。遅れんなよ」

ロングコートを翻し俺に背を向けて歩きだした彼の姿を目で追う。

「出水はなまえのこと大好きだな」
「…なんすか、急に」
「俺以外のとこ行くなって言えばいいのに」

太刀川さんはケラケラと笑いながらなまえとは反対に歩き出す。
そんなんじゃないです、とは答えたが実際その通りなのだ。
俺以外を見ないでほしい、俺にだけ笑って、俺にだけ語りかけてほしい。
俺以外の奴の名前なんて、呼ばないでほしい。

響也は昔から人に興味がない。
昔から無口で無表情。
友達がいないことを苦と思わないのか、友人というものは作って来ず 隣にはいつも俺だけがいた。
それが幼馴染の特権だと思っていたし、それがこれからも続くはずだったのに。
ボーダーに入ってからは 自ら人に歩み寄るようになった。
あのキャラじゃない笑顔を貼り付けて。
そして、彼の隣は俺だけのものではなくなった。
初めは彼が人と関わることに嬉しさがあったが、気付けば嫉妬に溺れた。
作り笑いだとしても、俺には彼は笑いかけない。
吐き捨てる言葉も冷たく、アイツにとって俺は腐れ縁の奴ってくらいなんだろう。

拭えない苛立ちを抱えながらだったが、模擬戦は滞りなく進んだ。
八つ当たりのようなメテオラも 誰に咎められることはない。
制限時間はまだある。
そして、敵はあと1人 スナイパーのみ。
どの辺にいるかわかるかー、と呑気に声をかける太刀川さんの声を聞いていれば「公平」と低い音がインカムから耳を擽って、ゾワッと背筋が震えた。

苦手なんだよな、アイツの声が近すぎて。
どうした、と返事をしようとしたがその前に「左に3歩」と続けざまに声。
操られたみたいに体は動き、自分のいた場所で2つの銃弾がぶつかり合った。
そして、ほぼ同じタイミングで一筋の光が見えて、終了の合図が鳴った。

「さすが、なまえ」

太刀川さんが拍手をすると 仕事なんで、と彼は答える。
彼が隠れていた方を見ればバックワームをはためかせ、銃を肩に担ぐ彼がいた。
切れ長の目は細められ、満足げに少しだけ笑っているように見えた。





みんなが帰った隊室で今日の模擬戦を観ていた。

敵を射抜くこの目、狡ぃな。
公平、と俺を呼んだ声も 相手の弾を撃ち落とすその精密さも。
画面の中 敵を撃ち抜きふっと笑った彼に手を伸ばす。
作り笑いが欲しいわけじゃない。
けど、笑ってほしい。
時折 戦闘中に見せるこの笑みを 俺の前で見せてほしいのに。
当真さんに言われたことがあるのだ。
遠征で闘う彼は楽しそうな笑うのだと。
俺が知らない笑顔を当真さんは生で見てるなんて、許せるわけない。
画面越しに見るんじゃ、足りない。

「全員いなくなりゃ俺のもんになるかな…」
「物騒」

後ろから聞こえた声。
は!?!とソファから転げ落ちた俺を見下ろした彼は「今日のやつ?」と画面を覗いた。

「な、な、なんで?!!お前帰っただろ!?!!」
「慶さんに鍵締め忘れたって言われたから」

ハメられた。
太刀川さんには残ると伝えていたはずなのに。
最後ニヤニヤしてたのはそれかよ。

「公平いんならいらねぇじゃん」
「む、無駄足だったな。俺締めとくから…大丈夫」
「ん。で?」

彼の目が真っ直ぐに俺を射抜く。
な、何がと吃った俺に彼は画面を指差す。

「何を自分のものにしたいって?」
「は、!?!いや、な、なんの話!?」

若干声が裏返った。

「全員殺してまで 何を手に入れてぇの?」
「そこまで言ってねぇわ!!発想が怖ぇよ!?!
「嘘吐き」

なまえがゆっくりとこちらに歩み寄り、俺の前にしゃがむ。
同じ高さで交わった視線と細められた目。
伸びてきた手は頬に触れ、ゆっくりと首筋まで落ちていく。

「や、め…っ」
「欲しいって言えよ、公平。全員殺してでも、俺が欲しいってさァ?」
「っ、」

ふっ、と目の前の彼が笑った。
敵を撃ち抜いた時に見せる笑顔が目の前にある。
てか、こいつ今なんて言った?
俺が欲しい…?

「気づかねェとでも思ってた?」
「なんで…んッ」

なに。
目の前になまえの顔。
あれ、てか 俺キスされてる?!

「っ!?ん、ちょ」

やめろって言おうとした俺の唇を割って入った熱いもの。
それは俺の舌を絡めとっていく。

「ぁ、んッ」

やばい。
なんだこれ、なんだこれなんだこれ。
なんで俺キスされてんの?
しかも、キスされてるだけなのに すげぇ体熱い。

「っは、なまえ、っ」

彼の服を縋るように掴めば、唇が離れ 彼は閉じていた目をゆっくり開いた。

「公平、」

獲物を射抜いた猛獣みたいだ。
どこか光を帯びた目が うっとりと細められ、赤い舌が濡れた唇をなぞった。

「お前が悪いんだよ」




腕を引かれて彼の家に連れて帰られたと思えば、ムードもへったくれもなく脱がされベッドに転がされ。
気づけばぐちゃぐちゃだった。
頭の中も、体も。
他人に触れさせたことのない自分自身と、自分でも触れたことのない場所を暴かれて。
知らない快楽に溺れそうになるのをなんとか、彼に縋り付いて耐えていた。
息継ぎもままならないのを彼は気づいているのか。

「そろそろ、入れられるかな」
「ぃ、れ…?」
「お前のどろどろになってるここ」

とんとん、と指が強すぎる快楽を引き摺りだす。

「ぁあっ!?」
「ここに、俺の入れんの。わかる?sexしようって言ってんだよ」
「セッ!?!」

大丈夫だよ、と彼の声が直接耳を擽った。

「初めてだろ?優しくしてやるから」

かちゃかちゃ、とベルトを外す音が 妙に生々しい。
sex?
なまえと?俺が?
抱かれる?
なんで?

ずり、と後ろの穴に押し付けられた熱。
ひっと情けない声が出たのを彼は笑った。
映像の中で笑っていた彼みたいな笑顔。
そして、熱に浮かされた瞳。
お前そんな顔すんのかよ。
ずるくね?
普段のぶっきらぼうな態度はなんだったんだよ。
お前、俺のこと好きなの?
なんで俺抱かれてんの。
言いたいことは たくさんあるのに。

「っなまえ、」
「ん?」
「…俺のこと…だけ…見てろ」

そんなことどうだって良くなるくらいに、目の前の男が好きだ。

「はっ、かぁわいい」

愛されたい。
たとえ、気まぐれでも。遊びでもなんだって、いい。
お前が俺を見てくれるなら、なんだって。

「んっ」

内臓を拡げられる感覚に背筋が震えた。
熱い。痛い。苦しい。
けど、俺で こんなに硬くしてるなんて 考えただけで 死んでもいい。

「ぁ、あっ」
「ほら。ゆっくり息して」
「む、ぁりっ」

仕方ねぇな、って彼が俺の息子を優しく擽ぐる。
痛いのにそれだけで 口から甘ったるい声が出る。

「なまえっ、ぁむりっ」

目の前がチカチカとする。
薄ら白くなった向こうに輪郭のボヤけた彼がいる。

「ほら、全部入った」

受け入れる為に作られていないはずのその場所にどうやらすっぽりと収まったらしく、ほらわかる?となまえは腰を揺らした。
息がつまる。
気持ちいいのかもわかんない。
けど めちゃくちゃ熱くて どうでもよくなってた。

「なまえっ、なまえ!」
「なぁに?」

彼にしがみついて 壊れたみたいに口から溢れた好きの二文字。
彼は知ってるよ、と笑って 俺の体を抱きしめたい。





甘ったるい嬌声の合間に好き好きとうわ言のように公平は言った。
その声の隙間で ぐちゃぐちゃと艶かしい水音が聞こえる。

「っ公平」
「ぁ、あっ」

涙に濡れた目も、だらしなく開いて涎を垂らす口も。
本来の使い方ではなく俺を受け入れる下の口も。
目に毒だな、と 目を細める。

公平が俺に好意があるのはずっと昔から気付いていた。
そして、俺はそれを甘受していた。
初めは都合が良かっただけだった気もするが、気づけば独占欲がわいた。
俺のものにしたいと思えば思うほど 彼の社交性に苛立った。
結局それの当てつけのように 自らも彼以外に目を向け始めた。
するとどうだ?
彼の目はまた、俺を追い始めた。
しかも以前よりも強い感情を持って。

「なぁ、公平」
「ゃ、あっな、に?」

腰を打ち付けるのをやめることもせず、快楽に溺れる彼の頬を撫でる。

「そろそろ、イこっか」

ずっと放っておいた彼の息子をゆるく握り律動に合わせて擦れば、より一層声が甘くなる。

「だ、ぁっだめっや、」

やだやだと首を横に振り、綺麗な髪がシーツに散らばる。

「んっーやだ、くるっイくから、イクっぁっ」

ぎゅっと目を瞑り俺にしがみつく公平の項を舐め、耳に口を寄せる。

「イって、公平」
「ぅっ、ぁあっーーーっ」

白濁が飛び散り 公平の体が痙攣して、キツく締め付けられる。
搾り取られるような感覚に耐え、なんとか彼の中から引きずり出して 薄っぺらいゴムに俺自身からも白濁を吐き出す。
はぁ、と詰めていた息を吐けば ずるっと首に回っていた腕が弱まった。
落ちそうになる彼の体を抱き寄せて、大丈夫?と彼の柔らかい髪を撫でる。

「む、り…に決まってんだろ…」
「まぁ、そうか。公平、」
「なん…だよ」

少し腕の力を緩め、彼の顔を伺えば 赤く染まった目元に涙が浮かぶ。

「俺は、全員殺してでも…お前がほしいよ」
「は、」
「あんまり、余所見してると噛み付くから 気をつけろよ」

それはお前だろ、と彼は声を荒げたが腰に痛みが走ったのか顔をしかめる。

「嫉妬して、俺のことしか見えなくなるお前が可愛かっただけ」
「…悪趣味かよ。…笑うなよ、俺以外の前で」
「え?」

お前は全部俺のもんってことだろ、と彼は恥ずかしそうに言った。
あぁ、可愛らしい。なんて言ったら怒るんだろうな。

「そうだな」
「……とりあえず。風呂」
「ムードもクソもないな、お前。ま、いいけど」

ぎゅう、と音がしそうなほど俺の首にしがみつく彼は 「このまま」と自信なさげに言う。

「はいはい、仰せのままに」
「…なまえ、好きだ…」
「俺もだから、安心しとけ」

ふへっと変な笑い声が耳元で聞こえる。
随分ご機嫌なようで、何よりだ。



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