左01

剣持 左京は戦いたい。
戦って勝つことだけが彼にとって価値あることだから。
剣持 左京は戦いたい。
それが唯一彼に振り向いて貰う方法だから。


バキバキに割れた携帯の画面。
反応の悪くなったその画面に指を滑らせる。
耳慣れた音が流れ、切れた。

「…入学式だぞ、今日」

2年と1ヶ月と数日。
並ぶ不在着信の文字と未読のトーク。
苛立ちに任せて携帯を握った腕を振りかぶった。
その腕を掴んで なにしてんだよ、と五色は眉をひそめる。

「…離せ」
「物に当たるなよ」
「テメェには関係ねぇ」

腕を振りほどき、舌打ちを零す。
だが、幾分か落ち着いた。
いや イライラはしているが 今に始まったことではないんだ。
その度に携帯を犠牲にするわけにはいかない。

「部活の時間だぞ」
「…うぜぇ」

携帯の画面の中。
彼は俺の知らない男と俺の知らない笑みを浮かべてる。
それを見るたびに吐き気がするくらいイライラする。
なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで!!!
俺を捨てて、なんで笑ってんだよ。
俺を独りにしてなんで笑ってられんだよ。

「左京!」
「…聞こえてンだよ。喚くな…」

ふー、と大きく息を吐き出して携帯の電源を落とす。

「今日から一般入部組も練習加わるって」
「興味ねぇ。どうせ、消える」
「わかんないだろ!白布さんは一般入部生だって言ってたし」

1人だけだろ、と言えば まぁと彼は頷く。

「何十分の一の人間が、二年連続現れるわけねぇんだよ。スタメン入らねェ奴に興味なんかねェの。お分かり?」
「…相変わらずだな。けどエースの座は譲らないからな!」
「お前も大概だ。エースなんて肩書きはいらねぇよ。勝てばいい。勝利こそ全てだ」

おはようございます、と体育館に入ればざわっと耳障りな声。
そして、向けられる視線。
コソコソ ヒソヒソ そんな音がついて聞こえそうな光景が目の前に広がっていた。

「凄い人数だな」

隣で五色が喋ってる。

「言いてェことあんなら面見せて喋れや」

五色の言葉なんて無視して吐き出した言葉。
おい、と肩を引かれたがそれを振り払い舌打ちをする。

「耳障りなんだよ、糞蝿共」
「やめろ、馬鹿」

頭を叩かれて振り返れば呆れ顔の瀬見さんが立ってた。

「怖がらせんな。イライラしてんのはわかるけど、」
「……うざ」
「先輩にうざいって言うな」

お前らも私語は慎め、と瀬見さんは言って俺の背を2回叩いた。

「一般入部生はすぐ移動する。お前はアップしとけ。すぐ練習始めるぞ」
「……」
「返事」

はい、と答えれば彼は満足げに笑って 一般生達の元へ歩いて行った。

「そうやってすぐキレるのやめろよなー」
「黙れ五色。今は誰の声でも耳障りだ」
「はぁ!?」

後ろからの文句も聞かず体育館の隅に移動する。
荷物を置いて はぁ、と息を吐いた。

右足から履いたシューズ。
そして、左足から紐を縛る。
バレーを始めた頃から変わらないルーティンだ。
波打った感情がゆっくりと静まり返る。
嗚呼、そうだよこれこれ。
俺はこの静寂が好きなんだ。
余計な雑音はいらない。





「英太君さっすが〜」

茶化すように天童が笑う。
嬉しくねぇよ、と答えて体育館の隅の左京に視線を向ける。

剣持左京。
バレーをやってりゃ知らない奴はいない。
彼はそれくらいのレベルの選手だ。
小さい頃から 神童と呼ばれ 今もその名を欲しいままにする。

「神童っつーより、触らぬ神に祟りなしって感じだろ。あれ」
「あはは、言えてるかも。バレーしてれば神童なんだけどね」

そう、バレーをしてる時は間違いなく神童なのだが。
普段は手当たり次第に噛み付き暴れる。
彼の気に障ればさっきみたいに噛み付かれる。

「大人しくしててくれよ、面倒くせぇ」
「見てる分には面白いけどね」

俺たちの視線の先。
左京は靴紐を結びながら目を閉じている。
そこだけ切り取られたみたいに ゆっくりと時間が流れているように見えた。
さっきまでの荒さが消え、静かに 鋭くなっていく空気。

「キタねぇ、神童…剣持左京」
「普段からあれで居てくれりゃ幾分か楽なんだけどな」
「確かにねぇ」

立ち上がってこちらに歩いてくる彼に もう苛立ちは見えない。
普段は大荒れの海が波一つ立てず 静かになるみたいな そんな雰囲気。

「もういいの?左京」

天童の言葉に何がすかと彼は淡々とした声で答えた。

「始めるぞ」

若利の声に左京は返事もせず彼を追いかけた。
どっちが本物の彼なのか。
俺はまだ知らないでいた。





汗を拭う。
相変わらずきっつい練習だ。
春休みから参加してるけど、まだ体が悲鳴をあげる。

「左京、この後は?」

天童さんが駆け寄ってきて首を傾げる。

「自主練やるけど。来る?」

俺は参加します!と五色の声が聞こえた。
嗚呼、相変わらず煩い。

「あ、」
「ん?」

煩いって思ってる。
て、ことは 集中切れたのか。

「今日はいいっす」
「え、珍しいネ!体調悪い?」

反対向きに彼は首を傾げる。
こてんと音がした気がした。

「…別に、」
「そ?じゃあ、またね!お疲れ!」
「っす」

荷物をまとめて靴を脱ぐ。
途端に音が大きくなった感覚。
昔から俺の周りは騒がしい。
煩いのは嫌いだ。

「左京!」
「あ゛!?」
「呼んだだけだろ。キレんな」

呆れ顔の瀬見さんがいた。
この人いつも呆れ顔だな。
違ぇか、そうさせてんのは俺か。
めんどくせぇだろうな、1年のために時間割いて。

「自主練やんないんだろ?」
「…だったらなんすか」
「ストレッチしたか?」

まだ、と答えれば俺がやってやるよと笑顔を見せた。
特に話をするわけでもない。
暇でもない癖に 態々1年のストレッチに付き合うなんて。

「…どうも」
「おう。じゃ、お疲れ。体冷やすなよ」

下心とかあんのかな。
俺によくしてりゃ何か手に入るとか?
それとも監督命令?
なんだろう。
いや、なんだっていいか。
自分の思考さえも、鬱陶しい。

ぺこりと頭だけ下げて体育館を出る。
頬を伝う汗もうざったい。
こうなったらとことんダメなのはもうわかっていた。

「とりあえずシャワー浴びて 寝よ」

バレーやってたのに集中切れることはそうない。
きっと、疲れてんだ。
入学式の長ェ話とか。
クラスメイト達に囲まれたこととか。
一般入部組の声とか。
色々、重なったんだ。きっと。
部屋に帰って携帯の電源をつける。
起動までの時間でお香を焚いて、電源が入ったらメッセージアプリを開く。
1番上にピン留めした彼の名前を押して 指を滑らせた。

今日あったこと、そして連絡を待ってると言う言葉。
それだけ送って ベッドに倒れ込む。
きっと既読はつかない。
まだ見てもらえない。
まだ。まだまだまだ、足りない。

「戦って戦って戦って戦って…勝ちてェ…」

積み重ねればきっと、価値を持つ。
明日もまた 勝つ為に生きよう。


×End

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