右04
朝。
いつもより目覚めが悪かった。
GWの前日だ。
明日から休みだと言うのに、気分は冴えない。

通学路で会った近所の子供達が「おはよう兄ちゃん」と大きく手を振る。
それに手を振り返しながら重たい足を学校へ運ぶ。
そして直接、職員室に向かった。
担任が俺を見て少し表情を曇らせる。
俺もきっと同じような表情をしているんだろうな。

「どうやった、親御さんは」
「来られないそうです」
「…学校にもメールで本人に任せます言うて連絡来とったけど…」

だと思いました、と笑えば 先生の表情は尚更曇った。

「留学なんて、そんな軽い話とちゃうで?お金もかかるやろ?」
「お金は自分でどうにかしますよ」
「…そんなん…、」

初めからわかっていたことなのだ。
先生が悪いわけじゃない。

「大丈夫ですよ、元より自分でどうにかする予定でしたから」
「…そうか、」

半年間は入学までに時間はある。
それまでにお金はどうとでもできるだろう。
まず、入試を受ける為のお金さえ貯めてられれば…。

「すいません、気を遣わせてしまって」
「いや、学生なんやで?大人が気にかけるんが当然やろ。いや、お前の親御さんを悪く言いたいわけやないんやけどなぁ…」
「いえ、先生の言う通りなので。あの人らが普通じゃないんですよ」

長期休暇に稼げるのが1番だけど、部活応援があるだろうし。
ボランティアの方もあるからなぁ…
会長には相談しておいた方が良いかもしれないな。

「まぁええわ。親御さんが反対しとるわけやないならこのまま進めばええよ」
「はい」
「出来る限りのサポートはするから、安心せぇよ」

ありがとうございます、と頭を下げた。
そして結局親の元に届くことのなかった三者面談の日程表は白紙のまま先生の手に渡った。

「受けたいとこは決まっとるんか?留学希望ってことしか聞いてへんかったわ」
「何個かピックアップはしてます」
「そか。それやったらその辺りは今度の進路面談のとき聞いてええか?」

準備しておきます、と答えて職員室を後にした。




朝の職員室。
右京さんがいた。
また先生と話しとるんか、と彼を視界に移しながら 補習課題を担任の机の上の提出トレーの上にのせた。

生徒会ってそんな忙しいんかなぁ。
北さんとかめっちゃ心配しとったし。

盗み聞きはいけないと思っているのに、耳は彼の声をよく拾う。

「留学…?」

今、留学希望って言ってたか?
流石 頭良い人は考えることちゃうなぁ。
海外でバレーをするってことは、少し考えたことがある。
けどあの人は受験するってことやろ?

「頭ええ人ってすごいわぁ…」

職員室から出て呟いた言葉が聞こえたのか「何の話や」とツムが首を傾げた。

「剣持右京 留学するらしいで」
「へぇ、」
「反応薄いな」

どうでもええわ、とツムは言った、

「バレーしてへん人のことなんかどうでもええやろ。左京ちゃんと血が繋がってるだけの、ただの一般人やで?」
「…まぁ、そうやけど」
「お前、妙に気にしとるよなあの人のこと」

意味わからんわ、と言いながらツムは歩き出す。
その後を追いながら確かに、そうだなと後ろを振り返った。
耳が、目が彼の存在を拾う。
職員室から出てきた彼は俺には気付かず、階段を上がっていった。
きっと、生徒会室に向かったんだろう。

「美味しそうに食ってる姿見ると、食いたなるやん?それ」
「は?意味わからん。人は食えないやろ」
「知っとるわ。けど、そんな感じや」

3年の先輩達が彼を大切に、大切にしているから。
美味しい美味しいって目の前で飯食われてるみたいなのだ。
一口、俺にも頂戴って 思ってるんだ。

「北さんとアラン君もめっちゃ大事にしとるやん」
「だから?」
「だから、俺もその味が知りたい」

略奪好きなんか、と若干引いてるツムに無言で肩パンを入れて視線を逸らした。
けど確かに、不思議なくらいあの人が気になる。
バレーもやらん人に興味持ったのは初めてかもしれない。





「なぁ…なんか、北さん機嫌悪ない?」
「めっちゃわかる。なんなん?ツムなんかしたやろ」
「は?お前ちゃうん?」

練習中も珍しくイライラしていた北さんは、練習が終わっても機嫌が良くなることはなかった。
いつも以上に刺々しい空気を纏う北さんを見ながら声を潜めてそんなことを話していればアラン君が聞こえてんでと呟く。

「右京と色々あったんだよ。気にすんな」
「あ、やっぱ留学の話?寂しいもんな仲良いやつおらんくなると」
「は?」

アラン君がピタリと固まった。
その姿を見て どうしたん?とツムがアラン君の前で手をひらひらと振る。

「治!!」
「な、なに!?」
「右京が留学ってほんまか!?!」

予想外の反応に困惑しながら頷けばアラン君は慌てて北さんに駆け寄った。
そして、北さんもこちらを振り返った。

「ほんまか、治」
「え。あ…多分。今朝、職員室で先生と話しとって…」
「アイツ隠しとったんはこれか…」

北さんは眉を寄せた。

「ここのところよう職員室行ってたんもそれやろ」
「別にやましいことちゃうやん。なんで、隠すん?」
「そんなん俺が知りたいわ」

隠してたのか?
もしそうなら、申し訳ないことをした。

「北。アイツ、バイト増やしてるよな?」
「…去年に比べれば」
「金、あいつの親が…払うん?」

沈黙。
そして、北さんは携帯を片手に体育館を出ていった。

「アラン君すまん。俺、余計なこと言うた?」
「いや、教えてくれてありがとう。知らん方が大変なことになっとったわ」
「…それなら、ええけど」

携帯を片手に出ていった北さんの顔が消えない。
あんな顔してんの初めて見た。

「…なぁ、アラン君」
「ん?」
「北さんって、なんであんなに右京さんのこと大事にしとるん?」

アラン君は目を瞬かせてから せやなぁと首を傾げる

「右京が俺らをめっちゃ大事にしてくれてるからちゃうかな」
「…なんやねん、それ」
「バレー部だけちゃうねんけど。部活やってる子らからしたら神様やからな、アイツ」

意味わからん。って呟けば 生徒会やろ?と彼は話し始めた。

「1年の時からアイツも、今の会長は生徒会やってん。…その頃から部活やってる子に向けて 勉強会企画したり 応援バス出すって企画作ってくれたり…色々やってくれてんねん」
「へぇ…」
「せやから、俺らはめっちゃ感謝しとる。まぁ、北はそれだけちゃうかもしれへんけど」

アラン君は眉を下げて笑った。


×End

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