シカバネ心中4


動物とトラッポラが戻ってきたと思えば、1人人が増えていた。
それだけなら良かったのだが。
シャンデリアの上に逃げた動物に向けて、投げられたのはトラッポラ。
嫌な予感がすると思ったのと同時に投げられた彼諸共、物凄い音をさせてシャンデリアが落っこちたのだ。

あぁ、頭が痛い。
彼女はおやまぁ大変だ、と呟く。
勿論この騒ぎだ。
直ぐに学園長が駆けつけてきた。

「一体何をしているんですか!!」

怒鳴り声も無視して、汚れた雑巾をバケツに突っ込む。
濁った水はまるで今の心情のように思えた。

「石像を傷付けただけでは飽き足らずシャンデリアまで破壊するなんて!もう許せません。全員即刻退学です!!」

2人の叫び声が食堂の中を木霊する。
まぁ、そりゃそうなるだろう。
そして恐らく俺と動物も一緒に学園の外へ放り出される。

「ねぇ、魔法がなくても出来る仕事とかあんの?」
「え?そうねぇ。無いことはないけれど、身分を証明するものがないとなると…厳しいかしら」
「…そうだよな」

抗議している声が聞こえる中、絵画の女性は「いいのかい?」と尋ねてきた。

「何が?」
「抗議しなくて」
「いいよ、あの人に何言っても無駄だから」

貴方もですよ、アサギさん!!と彼の視線がこっちに投げられた。

「こー見えても、人を見る目はあるんだよ。…貴女はいい人だった、ありがとう」

微かに残っていた埃を見つけ、指先で払う。

「さよなら、優しいご婦人」

監督責任が云々と話す彼の言葉を右から左に。

「ちょっと!?ちゃんと聞いていますか!?」
「追い出せって言ったのに受け入れたのはお前だろ。その生徒2人だって、お前の生徒。俺は言われた通り窓拭いてたのに監督責任がどうとか俺に言われてもな?」

彼が言い返して来る前に、目を回している動物の首根っこを掴んだ。
そのまま鉱山に捨ててしまおうか、なんて思ったのは内緒だ。

「鉱山で、俺が死んでくれることを願ってればいいよ」

俺の言葉に、やはり彼は言葉を詰まらせただけだった。





知らない方の彼はデュース・スペードと言うらしい。
巻き込まれた不憫な奴。

鏡をくぐっただけで別の場所へ来られる。
宛らゲートようだな、と思いながら 辿り着いた場所を見渡した。
静かな森だ。
人の気配もない。
尋ねた家も廃屋だった。
もう何年も使われていないのだろう。
俺たちが放り込まれた寮と同じく、埃が溜まり荒れ放題だった。
ただ、不思議なのは全ての家具が小さいこと。
まぁ、小人もいておかしくないから。
オバケもいるし、喋る動物もいるんだから。

「こ、この真っ暗な中に入るのか!?」

鉱山の入口に辿り着いたが一寸先は闇。
閉山したと話していたし、明かりは生きていないだろう。

「ビビってんのかよ、だっせー」
「なぬっ!?ビ、ビビってなんかねーんだゾ!オレ様が隊長だ!オマエらついてくるんだゾ」

鉱山の中に入っていく彼らの後を追いかけながら、周りを見渡す。
目が慣れてくれば色とりどりな石がむき出しの壁にあることに気付く。
価値の有無は分からないが綺麗だ。

「!?待て!なにか…いる!」
「ぴゃっ!?」

スペードの言葉で彼らは歩みを止める。
暗闇から現れたのはオバケだった。

「ここもゴーストがうろうろしてんのかよ」
「いちいち構ってたらキリが無い。先を急ぐぞ」
「偉そうに命令しないでほしーんだけど」

オバケ……彼らのいうゴーストを倒し終えたところで始まった彼らの口論。

「大体、お前があんな馬鹿な真似しなきゃこんなことになんなかったのに」
「元はと言えばお前が掃除をさぼったのが原因だろ!」
「それを言ったら、最初にハートの女王の像を燃やしたのはそこの毛玉だせ!」

あぁ、めんどくさいな。

「ふな゛!?オマエがオレ様をバカにしたから悪いんだゾ!」

口論をする彼らは気付いていない。
闇の奥から聞こえる声に。

「……はぁ、元はと言えば……お前ら全員自分の魔法とやらを過信したのが悪ぃんだろ」
「「「は?」」」
「ただ魔法を使えるってだけで、使いこなせもしないんだろ?お前ら全員」

魔法が使えない奴が!と掴みかかってきそうになったトラッポラを背負い投げすれば 動物とスペードが目を丸くした。

「痛ってぇ!!?」
「…言わなかったっけ。お前に勝てるって」

トラッポラを見下ろし、顔面スレスレを踏み付けた。
咄嗟にギュッと瞑られた目。
この隙にきっと首を奪えたなぁ、と今はなき自分の手に馴染む刀を思い出す。

「何をしてるんだ、お前は!」

スペードが俺の肩を掴む。
その手を引き寄せ、先程拾った鋭利な鉱石を彼の喉元に押し付けた。

「っ!?」
「これ以上、俺をイライラさせるなよ…お前らにとって、俺がどうでもいい存在であるのと同じく…俺にとってもお前らどうでもいい存在なんだよ。こんな古い鉱山だ…さっきのゴーストも10年振りの客だって言ってたし…」

死体が3つ転がっていたって誰も気づかないよ、と微笑んだ。
煩かった彼らがやっと静かになった。

「さ、てと。冗談はここまでにしておいて…」

地面に倒したトラッポラを立ち上がらせ、近付いてくる声の方を見る。

「冷静になったか?耳澄ましてみろよ」
「……さぬ……うぅ………ぬ……」
「こ、この声………は?」

聞こえる声は少しずつ近付いてくるのがわかる。
先程のゴーストとは違う"何か"がここにいる。

「なんか……だんだん近づいて…」
「イジハ…オデノモノダアアアアオオオオ!!!!」
「「「で、出たああああーー!!!」」」

なんというか禍々しい姿だ。
割れた電球?いやフラスコ?みたいなのから溢れ出す黒い液体。
手には掘削の道具。

「なんだあのヤバイの!?」
「あんなの居るなんて聞いてねーんだゾ!はよ逃げろ!」
「めっちゃエグい!でもアイツ石がどうとか言ってなかったか?!」

石は俺のもの、と言っていた。
守り神的な?
神?いや、神様って雰囲気じゃないか。

「やっぱり魔法石はまだあるんだ!」
「むむむむむりむり!いくらオレ様が天才でもあんなのに勝てっこねぇんだゾ!」
「だが魔法石を持ち帰られなければ退学…。僕は行く!」

冗談でしょ!?とトラッポラが声を荒らげた。

「1人じゃ無理だろ」
「俺は絶対に退学させられるわけにはいかないんだ!」

駆け出したスペード、その後を追ったトラッポラ、動物と。
彼らの魔法は一切効いている様子はない。

魔法は生まれ持ったものなのだろうか、とも思ったがそれなら学校なんてものはきっとない。
と、なれば単純にレベルが足りないんだろう。
トリオンのように最初からほぼMAX値が出るものなら、その範囲内での戦い方を模索するが…。
そんなことを考えていれば、視界に何か光が差し込む。

「光……?あ、おい。奥、なんか光ってる」
「あいつの後ろ!坑道の奥でなんか光って…」
「あの光は魔法石!?」

だがその存在に気づいたところで為す術はなく、俺たちは1度撤退することとなった。

「ここまで来れば大丈夫か…?」
「いってぇ……なんだったんだよさっきの!」
「ただのゴーストではなさそうだったな…」

探鉱の入口までくれば、あの禍々しい奴は追いかけては来なかった。
地縛霊的なものなのだろうか。

「もう諦めて帰ろーよ。あんなんと戦うくらいなら退学でいいじゃん、もう」
「なっ!?ざっけんな!退学になるくらいだったら死んだ方がマシだ!魔法石が目の前にあるのに、諦めて帰れるかよ!」
「はっ。俺より魔法ヘタクソなくせに何言ってんだか、行くなら勝手に1人でで行けよ。俺はやーめた」

この2人、本当に相性が悪いんだな。

「あぁ、そうかよ!なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
「はぁ?腰抜け?誰に向かって言ってんの?」
「な、なぁデュース。お前なんかキャラ変わってる気がするんだゾ?」

動物の言葉にスペードは肩を揺らし、わざとらしく咳払いをした。

「悪い、少し取り乱した」

そんな彼から暗い探鉱に視線を向ける。
あれは何の為に、誰の為に守り続けているのだろうか。
誰からも忘れられ、来ない敵を待ち続けたあれの過去を知りたいと。
少しだけ思った。




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