シカバネ心中5


「お得意の魔法でどうにかしたらいいんじゃん?」

皮肉たっぷりに笑ったアサギに何も言えなくなる。
初めに魔法でマウントを取る絡み方をしたのは自分だ。
まさかここまで真正面から返されるとは思っていなかったけど。
それに、彼の力の使い方は不思議だ。
生身の体で、魔法を使えない彼は臆することなく俺に向かってくる。
恐怖心は、ないように見えた。

「魔法は、万能ではない。強くイメージ出来なければ魔法は具現化しないんだ。大掛かりな魔法や複雑な魔法の使用には訓練が要る」
「だから魔法学校があんだけどね。パッと思い浮かべた通りに魔法を使うにはかなりの訓練が必要ってワケ。ぶっちゃけテンパってるとミスりやすい」

ここまでわかっていながら、俺たちは失態をおかしているのだから。
先程彼が言った通りなのだ、自分の魔法を過信した。
アサギは自分から聞いたのにも関わらず興味無さそうにへぇ、と相槌をうつ。

「だからそこの動物は火しか出せねぇのか…スペードは釜…トラッポラは風……」
「んなっ!こ、これからもっとすごい魔法を使えるようになるんだゾ!オレ様はまだ本気出してないだけなんだゾ!」
「普段本気でやってねぇ奴は土壇場でも本気になんかなれねぇよ。つーか、お前がこれからどうなるとか心底どうでもいい…」

俺たちへの明らかな嫌悪が彼の態度には見える。
ただ魔法が使えないだけの奴だと思っていたが、彼の発した誘拐という言葉が今も耳に残る。

「……なぁ、お前さ…「とにかく、僕はなんとしてもアイツを倒して魔法石を持ち帰る」…遮んなよ…。てか、お前さ シャンデリアの時と言い相当馬鹿でしょ?」
「は?」
「さっき全然歯が立たなかったくせになんとかってなに?何度やったって同じだろ」

俺たちの口論が始まればまた始まったんだゾ、とグリムが呟いた。

「じゃあ、全員仲良く退学ってことで」
「「「えっ…」」」
「そうと決まればもう帰ろうぜ」

辛辣な言葉をぶつけた彼はくるりと背を向ける。

「ちょ、待て!待ってくれ!?」
「そうだゾ!」

デュースが慌てて手を掴めば、足を止めた。

「なに?お前ら、そんなんだから歯が立たねぇんだろ」

心底呆れたように言って、デュースの手を振り払った。
じゃあどうすればいいんだ、という言葉に「ちゃんと作戦立てろよ」と彼は答えた。

「作戦?それってみんなで仲良く協力しろってこと?ハッ何それ、寒っ。よくそんなダセェこと真顔で言えんね」
「同感だ。こいつと協力なんかできるわけない」
「1人で戦えない雑魚がなに選り好みしてんの?単独任務はレベル上げが終わってからって相場が決まってんだろ」

ダサい協力戦闘かダサい退学か。
好きな方選べはいいよ。どっちにしてもダサいから、と彼はバカにするように鼻で笑った。

「そこまで言うってことは…なんかいい作戦あんの?」

にぃ、と口角を上げた彼に1歩後退りする。
一瞬で雰囲気が変わった。





「アサギ〜…ほんとにその作戦上手く行くのかよぉ……こわ……いや、不安なんだゾ」
「腹括れよ」

屈伸を数回してからぴょん、と地面を蹴る。
生身だけど、体はそこまで重くない。
さっきのアイツはパワーはあれど、そこまで緻密な攻撃をしてはいなかった。

「んじゃ、パパッとやりますか!」

鉱山に入り、あの化け物を視界に入れる。

「やい、バケモノ!こ、こっちなんだゾ!」
「ガエレーーーー」
「ギャッ!来た!アサギッ!」

こっち来いよ、バケモノと 自然と口角が上がるのがわかる。

「グルッ!?コッチニモ…ドロボウ……ワダサヌ…オデノ……オデノ!!」

追いかけてくるそれは決してスピードは速くない。

「びゃっ?!あんなパンチ当たったらひとたまりもないんだゾ!」
「あんな大ぶり当たるかよ」

バケモノと付かず離れず距離を取り、鉱山の入口がら距離を作る。
出ていけ、出ていけと壊れたラジオみたいに言い続けるバケモノは幾度のなく腕を振り上げた。

「だいぶ洞窟から離したんだゾ!」
「今だ!」
「オッケー、お任せ!いくぜ、特大突風!」

大きく巻き上がった風に動物の炎が混ざる。
青い炎は風の力で大きく、その場を包み込んだ。

「どーよ!グリムのショボい炎も、俺が風で煽ってやればバーナー並の火力だぜっ!」
「ショボくねーっ!ほんっとにオマエ一言多くてムカつくんだゾ!」

大きな炎にバケモノが怯んだ。

「スペード、今だ!」

ぶつぶつと何か呟いていた彼は顔を上げた。

「いでよ、大釜!!」

空中から現れた釜がバケモノを押し潰す。

「あいつが足止めくらってるうちに魔法石を取りに行くぞ!」

駆け出した彼らを追いかけながら大釜に押し潰されたそれを振り返る。
後々祟られたりしないだろうか、と少しズレたことを考えながら見つけた魔法石を大事そうにスペードは握り締める。
触るな、と地を這うような叫び声をあげるそれは今にも大釜を押し退けてしまいそうだった。

「やっば!アイツもう重し押し退けそうじゃん!」
「おい、デュース!もっとなんか乗せるんだゾ!」
「えぇっと、重たいもの!?」

焦った彼に大釜でいい、と伝えれば 表情から焦りが消える。
なるほど、臨機応変に対応するのが苦手なのだろう と何個も大釜を落とす彼を見つめる。
恐らく逐一指示を出せば 戦えるんだろう。
なんとかしろ、とかどうにかしろってのが苦手なのだろう。

「魔法石はゲットした!ずらかるんだゾ!」
「了解っ!」

火事場の馬鹿力…というものか。
炭鉱の入口の森まで逃げた俺達を沢山の大釜に押し潰されていはずのそれが追いかけてきていた。

「くそ、このままじゃ追いつかれるっ…!」

焦るトラッポラを視界の端に写し、足を止める。

「ちょ、何してんの!?捕まるぞ!?」
「引き付けておくから、ゲートの前まで逃げろ」
「は?」

ある程度距離があろうとも魔法が出せることは分かった。
ならば確実に逃げれる距離から抑え込むのが得策だろう。

「ちょ、待て待て待て!何言ってんの!?」
「無茶なんだゾ!」
「うるせぇ。いいか、確実に逃げられる距離から攻撃しろよ?一瞬足止めしてくれりゃ あとはどうにか逃げる」

なんて無謀な、と言う彼らに視線を向ける。

「これはお願いでも提案でもねぇぞ。命令だ。俺が逃げ遅れても、置いてけ」
「「「は?」」」
「ほら、走れ」

俺達を追いかけてくるそれの方を振り返る。
少しの間留まった彼らも反対方向へ走り出す。

「さぁて……悪かったよ、お前の大事なもん奪ってさ」

振り上げられた腕を避け、それを見上げた。

「けどこっちにも、譲れないものってのがあんだよ…だから、わかってくれよ」

怒りからか先程より攻撃が速い。
鋭い風が何度か体を掠めていたが、遂に腕に触れた。

「ははっ、速っ…」
「アサギーー!!!」

トラッポラの叫び声。
そして、「避けるんだゾー!!!!」と動物が叫んだ。

眼前に落ちてきた大釜と避けた俺を掠めていく青い炎と熱風。
叫び声を上げるそれからその隙に距離を取る。

「もう一度……!大釜!!!」

更に落とされた大釜に、聞こえていた呻き声が止んだ。
ちら、と視線だけ振り返れば それはぴくりとも動かず沈黙していた。

「やっ…た?」
「か、勝った…オレ様達が勝ったんだゾ!」
「よっしゃ!!」

喜ぶ彼らの元へ辿り着き、ハイタッチを交わす彼らに「すっかり仲良しだな」と呟けば 彼らは咄嗟にそれを否定する。

「て、言い訳すんのもダサいか。悔しいけどアサギの作戦勝ち、かな。怪我は?」
「ああ、アサギが落ち着いて指示を出してくれたからこうして魔法石を手に入れられた。これで退学させられずに済む。……本当に良かった」
「怪我はねぇよ。よかったな」

帰ろう、と話し始めた時 動物が黒い石を拾い、そして食べたのだ。
驚愕する2人だったが、俺は動物だしなとどこか納得していた。
それにしても、と静かになったそれを振り返る。

「アサギ?」
「悪い、ちょっと待ってて」

驚く彼らを置いて、大釜に押し潰されたそれに歩み寄る。
完全に沈黙しているが、それの腕が届かぬ場所でしゃがみ両手を合わせた。
命、だったのかはわからない。

「…どうか、安らかに」

これが死なのかはわからない。
伸ばした手は割れた顔に触れる。

「っ!?」

それでも、確かに奪ったことは事実だ。
流れ込んできたノイズを飲み込み、立ち上がった。

「悪い、なんでもないよ」

心配そうな彼らにそう、声を掛けた。



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