シカバネ心中6


帰還した俺たちにクロウリーはそれはそれはわかりやすく驚愕していた。

「本当に魔法石を探しにドワーフ鉱山へ行ったんですか?」
「「「へっ?」」」
「いやぁ、まさか本当に行くなんて…しかも、魔法石を持って帰ってくるなんて思っていませんでした。粛々と退学手続きを進めてしまっていましたよ」

これが教育者で、上に立つものか。
呆れを通り越し殺意さえ湧くのをなんとか抑え込む。

「なんて野郎なんだゾ!オレ様達がとんでもねーバケモノと戦ってる時に!」
「バケモノ?」
「モンスターが出たんスよ。ほんと、めっちゃエグいわ強いわで大変だったんすけど!?」

詳しく話を、と食いついたクロウリーに3人がそれぞれに話すのを見ながら腕の汗を拭う。
あんだけ動き回ったし、少し疲れた。

「ほほぅ。炭鉱に住み着いた謎のモンスター。それを4人で協力して倒し、魔法石を手に入れて学園に戻ってきたと?」
「や、協力したっつーか…」
「たまたま目的が一致したというか…」

何故、そこまで協力が恥だと思っているのか。
1人で戦えない者が力を合わせて何が悪い。
1人でできることなんてたかが知れてるのに、どうしてそんなことすら分からないんだほう。
そんなことを考えていれば、クロウリーが態とらしい動作で泣き始めた。

「この私が学園に務めて早ン十年…ナイトレイブンズカレッジの生徒が手と手を取り合って敵に立ち向かい打ち勝つ日がくるなんて!私は今猛烈に感動しています」

否定する彼らの言葉など聞こえていないのだろう。
それにしても、うざったい ともう一度腕の汗を拭う。

「今回の件で確信しました。アサギくん、貴方には間違いなく猛獣使い的才能がある!」
「何馬鹿なこと言ってんの?部下が協力出来ないのは、上官が無能だからだろ」

「うわ、辛辣〜」とトラッポラが苦笑する。

「違いますよ!!ナイトレイブンズカレッジの生徒たちは皆、闇の鏡に選ばれた優秀な魔法士の卵です。だから、優秀がゆえにプライドが高く、我も強く、他者と協力しようという考えを微塵も持たない個人主義かつ自己中心的な者が多いんです!」
「違うね。卵だっつーんなら、まず入学した段階でそのプライドをへし折れよ。お前ら卵だ。手も足も出ねぇ赤ちゃん以下だって。それやんねぇから、協力も出来ず自分の力を過信した馬鹿が出来あがんだ」

言葉と共に嘲笑ってやる。

「いいか、全ては…卵を孵らせた親の責任だ。上官の、教育者の責任だ。俺に監督責任云々と説く前に自分を見直したらどうだ?」

クロウリーは言葉を詰まらせ、俺は静かに話を聞いていた3人に視線を向けた。
彼はそれこそ、この3人が死体にしてしまっていても気づかなかったのだろう。

「プライドが高い人間は、危険を危険として受け入れられない。自分がそんな目に遭うなんて思っちゃいないから。そんな奴らに、退学と天秤にかけさせてみろ。大抵はそっちを選ぶだろ。そんなことも分からないのか?ウン十年、生徒を見てきたのに」
「そ、れは…」
「しかも。行ったことすら把握していないなんて…もし、彼らが死んだらどうするつもりだった?お得意の隠匿か?」

拭っても拭っても腕を伝う汗が鬱陶しい。
服の上からもう一度腕を擦り、黙り込んだクロウリーを睨んだ。

「アンタ、それでも教育者か?上官か?笑わせる。個人主義かつ自己中心的なのはまず、アンタだろ」





浅葱 憂。
彼は人を教える事については自覚のある通り、あまり向いてはいなかった。
見切りをつけるのが早いし、口もお世辞にもよろしくはない。
褒めることも滅多になく、笑うことも殆どない。
笑ったと思えば、嘲笑や冷笑ばかり。
そんな彼が後輩に怖がられるのは仕方の無いことであった。
上層部ー所謂司令部での話し合い、なんてことも得意ではなかった。
選ぶ言葉は常に棘を持ち、大人の打算や狡さを許しはしない。
それでも彼は上官として、指揮官として、現場の指揮を執ることに関しては類稀なる才能を持っていた。
彼と共に戦ったことのある 特に遠征部隊に参加する面々は口を揃えて言う。
彼を超える隊長はいない、と。
あの忍田でさえ、あの城戸でさえ 最前線に立つ指揮官は彼が1番だという。
自らの戦闘能力はさることながら、空間把握能力に長け人を扱うのが上手かった。
隊員達の信頼を裏付けるように彼の戦歴は過去誰にも負けぬほど、優れているのだ。

そんなこと、クロウリーもトラッポラ、スペードも知るはずも無く。
本人でさえ、他人からの評価に興味がない為 知りもしない。
だが、吐き出す言葉の鋭さに クロウリーはそれを悟った。

「貴方は、間違いなくこの学園の未来に必要な人材になるでしょう。私の教育者としてのカンがそう言っています。トラッポラくん、スペードくん。2人の退学を免除するとともにアサギくん。貴方にナイトレイブンズカレッジの生徒として学園に通う資格を与えます」
「「「えぇっ!?!」」」

魔法が使えないのに良いのか、と問われると思っていた。
だが、驚く他の3名とは裏腹に彼は冷たい目を私に向けた。
そして「断る」と一言吐いたのだ。

「誰が好き好んでこんな学校通うんだよ」
「こんな学校…!?!ここは、望んでも入ることができるのはひと握りだけの超!名門!!ですよ!?!!」
「入る時がどれだけ狭き門だろうが、出てきた奴が 使えるとは限らないだろ。プライドだけデカくて、協力も出来ない奴が 社会でどれだけ価値があるのか…甚だ疑問だな」

彼は話は終わりだ、とでも言うように踵を返す。

「約束通り、日用品を支給してくれ。それで釣りが出るほどの功績だって言うなら 仕事を紹介してくれ。魔法も戸籍もなくても働ける仕事」
「ま、待ってください!!!」

完全に予想外の流れだった。
私に感謝して、「ありがとうございます、学園長!」と受け入れてくれると思っていた。

「っ、貴方が生徒として入学しないというのなら…2人の退学を取り消すことは出来ません」
「「はぁ!?!」」
「貴方がいたから、彼らは…魔法石を手に入れられた。2人だけならきっと、失敗していたことでしょう。……猛獣使いである貴方が傍にいることが…彼らを再び受け入れる条件です」

足を止めた彼は俯く。
慌てるトラッポラくんとスペードくんには悪いですが、彼のような存在を手放すのは惜しすぎる。

「さぁ、どうしますか…アサギくん」
「心底、あんたを軽蔑するよ」

アサギくんは2人を見て、そして溜息をついた。

「…受け入れる、が。こっちも条件は出す」
「なんでしょう?」
「俺が起こす問題には全て目を瞑れ」

問題を起こします、と暗に宣言した彼は「どうする?」と首を傾げた。

「そんなの、認められるわけないでしょう」
「そうか。じゃあ、話は終わりだ。2人は退学。俺は出ていく」
「貴方に!慈悲はないんですか!?」

アンタが言うか?と彼は私を冷笑する。

「元々…炭鉱で殺して捨ててこようと思ってたくらいだ。どうなったって、俺の知るところじゃない。友達でもねぇし、俺の部下でもねぇ。まぁ……外に出て俺がこの事を言いふらさない事を震えながら願ってるといいよ。…名門学校のスキャンダルなんて…いい金になりそうだな」

そんなこと、想像しただけで恐ろしい。
自分が優位に進むように話していたはずが、ペースは完全に彼のものだった。

「っ!!!わかりました!!!わかりましたよ!!!それで飲みます!貴方の問題には一切言及はしません!!倫理的に問題なければ!!」
「じゃ、交渉成立」

魔法が使えないからグリムくんと2名セットで、そしてゴーストカメラを使って報告書を書くことが条件として追加でなんとか付け加えた。





るんるん、と嬉しそうなグリムとそれをぼんやり眺めるアサギ。
望んでもいない入学を受け入れた彼の感情は読めない。
何故、助けてくれたのか。
そう考えながら感謝の言葉を伝えれば彼は「別に、」呟いた。
デュースと同じようにお礼の言葉を伝えれば彼は漸く足を止めた。

「…人の努力は正当に評価したいタチなんでね。……一応」

一応。
最後のその言葉を強調しているように思ったのは気のせいだろうか。
彼は話し中に何度もしていたように服の上から腕を摩る。
癖なんかなぁ、と眺めていれば 袖を捲った腕が真っ赤に染まっているのに気づく。

「はぁ!?!!!」
「ちょ、どうしたんだ!!?それ!!!」
「血!!!血が出てるんだゾ!?」

目に見えて慌てだした俺達と真っ赤に染まった腕を冷静に眺める彼。
相当シュールな絵だな、と妙に焦りの裏腹 冷静な頭は考える。

「い、痛くねぇの!?」
「とりあえず保険室!!いや、学園長のとこか!?」
「あぁ…いいよ、これくらい」

反対の袖で傷口を拭う。
黒い服着てたから気づかなかったのか。
いつ怪我を…?
あ、最後の引き付けてくれてた時か?
どうしよう、と慌てる俺達のことなど気にせず、彼は俺こっちだからと片手を上げる。

「じゃ、また明日」
「ちょ、待て待て待て!?!」
「大丈夫だって。明日は悪さするなよ トラッポラ、スペード」

デュースだ!と言い返したデュースに彼はきょとんとする。
俺はエースね、と付け加えれば オレ様はグリムなんだゾ!と続く。
アサギは少し面倒くさそうに溜息をついて「また明日。エース、デュース。」と呟いた。

「グリム。お前は俺に迷惑をかけたら カレーの具にするからな」
「カレー!?!」
「ゲテモノ食いしてたから、味は悪そうだし…」

嫌なんだゾ!とグリムが彼を追いかける。
その姿を心配しつつも見送った。



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