ラギー誕生日


アズールと契約してるラギーの同郷出身男主 アッシュ
×
アッシュのことが心配だけど、踏み込めないラギー
の誕生日のお話


沢山の人に誕生日を祝って貰えた。
クラスメイトや部員、寮の皆。
わざわざ監督生たちまでプレゼントを持ってきてくれた。
あのレオナさんまで「誕生日だろ、好きなの持ってけ」と全く片付ける気配のない机を指さして笑った。
なんの遠慮もなく一番高そうな装飾品を選べばお前ならそれを選ぶと思った、と言ってベッドの上から俺に何かを放り投げた。
それはどうやらブランド品の紙袋で、お高そうは箱の中身は空っぽで首を傾げる。

「お前が選んだやつの外箱」
「え、」
「箱があった方が売れんだろ」

勿論、そうだ。
そうなのだが、レオナさんが丁寧に箱を取っておく人だとは思えないし、何より紙袋も箱も綺麗すぎる。
と、なれば考えられるのは一つだけ。

「…わざわざ、買ってくれたんスか…?」
「使おうと思って置いといたらお前が選んだんだろ」

素直じゃない。
だが、彼らしくて つい笑みが零れた。

「ありがとうございます!大切に取っておきます、ほんとにやばい時まで!」
「…勝手にしろ。んで、……会ったのか、例のアズールのあれと」

レオナさんが聞きずらそうにそう尋ねてくる。
笑いながら忙しいんじゃないスかね、と答えれば彼は顔を顰めた。

「……いいっスよ、別に。元々誕生日祝い合うような関係でもないし」
「親友だなんだと、言っていたのにか?」

地元が一緒の彼は 確かに親友だったと思う。
ここへ入るまで。
元々悪いことに手を染めていたのは間違いない。
お金の為だ、と正当化してきた過去がある。
だがここに来て、彼は変わった。
アズールくんと金の為に契約を交わし、フロイドくんたちのように取り立て屋紛いのことやもっと悪どいことにまで手を出してるって噂もある。

「…いいんスよ、あんなやつ。こんなに沢山祝ってもらって、俺はもう満足っス」
「……そうか」

レオナさんの尻尾は少し速いテンポで布団を叩いた。
案外優しい人なのだ、この人は。
だから、今でも彼の傍にいる。
お零れが貰えるってのも理由ではあるけど。

「それじゃ、おやすみなさい。明日ちゃんと起きてくださいね」
「はいはい」

両手いっぱいにプレゼントを抱えて部屋を出る。
そう、別にいいのだ あんなやつ。
学校では顔を合わせる事もあるけど、昔のような話すことはなくなった。
授業中は仕方ないけど、休み時間も机にかじりついて何かをしている。
放課後になればすぐに教室を飛び出し、次の日の授業まで姿を見せはしない。

「…男子校だから、前みたいなことはないと…思ってたけど」

消える時間の長さから考えると可能性はあるかもしれない。
はぁ、と自然と零れた溜息。
部屋に戻った頃には時計の針は12時を回り、俺の誕生日は終わっていた。

「…別に、期待なんかしてなかったっス……別に、」

貰ったプレゼントを机の上にまとめて置いて、ベッドに飛び込む。
そんな時だった、コンコンとノックの音が聞こえた。
なんスかもう、と文句を言いながらドアを開けるが、人の姿はなく。
代わりにノックの音がまた聞こえた。

「……窓、?」

カーテンの閉まった窓の方、確かにそちらから音が聞こえる。

「……いやいや、ここ2階なんだけど」

恐る恐るカーテンを開けば月明かりに照らされた人影。
影になっているのに、それが誰かなんてすぐにでもわかった。

「…アッシュくん、今何時だと思ってんスか」

箒も使わずに空中浮遊なんていつの間に出来るようになったのか。
また俺の知らない彼がいる気がして、イラついた。

「何時って…あ、やべ。日付変わってんじゃん。…悪い」

はい、と差し出された紙袋。
見覚えのあるデザインと鼻を擽る甘い香り。

「なんスか、これ」
「誕生日おめでとう。時間すぎちゃったけど」
「は?」

間違ってた?と彼は首を傾げる。
今まで散々無視した癖に、なんで今更。
そう思うのに、彼の差し出す紙袋を手に取っていた。
袋の中には沢山のドーナツ。
変わったデコレーションのされたそのドーナツはどこか、見覚えがあった。

「これ…スラムにいた頃に食べたいって言ってたやつに似てるっスね」
「似てるんじゃなくて、それ」
「え?」

わざわざ買いに行ったんスか、と聞けば 彼はそうだけどと不思議そうに首を傾げた。

「金を手に入れたら、腹一杯食いたいって言ってたじゃん。まぁ…そんなに多くないから 腹一杯にはならないかもしれないけど」
「……なんで、俺の為に」
「え?なんでって…親友の誕生日くらいちゃんと祝ってやりたいじゃん。あの頃は…プレゼントなんて渡してあげれなかったし」

お金貯めるのも大変だけど、アズールから休みをもぎ取る方が大変だったと彼は笑った。

「…なん、なんスか…もぉ…」
「え、なに?!嫌だった?」

よくわからないけど涙腺が緩む。
泣きそうって思った時には、アッシュくんが俺を抱きしめていた。

「泣くな泣くな」
「泣いてないっス」

彼の匂いがする。
彼だけの、匂いがする。
女物の香水の匂いもしなけりゃ知らない人の匂いもしない。

「…アズールくんのとこでなに…してんスか」
「え?基本的にはラウンジのキッチンで働いてるけど。たまにリーチ兄弟の取り立て手伝ったりしてるかな」
「…悪どいことに、手ぇ出してるって」

はぁ?と素っ頓狂な声が落ちてきた。
アッシュくんの手は俺の頭を撫でながら なんかしてたっけと呟く。

「あと…やってんのは、学園長のパシリとかクルーウェル先生の実験の手伝いとか…サムさんのお手伝いもするし…?」
「……ウリは……?」
「男子校でどうやってやんだよ」

彼はそう言うって笑う。

「今の方がよっぽど健全の稼いでるよ」
「……なら、いいっス。アズールくんにいじめられてないっスか」
「いや、全然。金払い良いし仕事も斡旋してくれるから助かってるよ」

それならいい、と呟き 彼の腕から抜け出す。

「……いいっスよ、それなら」

あの頃のように死んだ目をして、下手くそな作り笑いを浮かべないなら。
俺の知らない人達の匂いをべったりつけて来ないなら。
俺の知らないお前が増えることくらい、許してやる。
俺って優しいでしょ?

「ねぇ、アッシュくん」
「ん?」
「一緒に食べよう?今日くらい、付き合ってほしいっス」

きょとん、とした彼はすぐに表情を綻ばせ窓枠に腰掛けた。

「お前が食べ物分けてくれるなんて、明日は雪でも降るのかね」
「怒るっスよ」
「ごめんごめん」

あの頃だって、そうだった。
あのドーナツを腹一杯食べたいと 甘い香りの漂う店の前で話してたあの時も。
夢見たその光景には当然のように彼がいたんだ。
1人で腹一杯食べるのだって嫌いじゃないけど、本当はいつだって この親友が隣にいて欲しいのだ。
ドーナツを頬張った彼は、美味しいなって俺に笑いかける。

「ねぇ、アッシュくん」
「ん?こっちも1口食べたいのか?」
「あ、いただきまーす!って、違う!」

違うって言いながら食べてんじゃん、と彼は言って どうした?と首を傾げた。

「……来年は、もっと買ってきて」
「……もう来年の話かよ。ま、その時は一緒にお店行こう?で、お前の好きなだけ買えばいいよ」
「うん」




戻る