心臓を染めろ1 もし 『心臓を喰らえ』の主人公がtwst世界にトリップしたら という設定で作成。
サイトで更新してる連載が多い、紙媒体の原作がない為に3話で断念。
個性が物を言う世界で、無個性という落第点を与えられた。
そこから抜け出す方法などなく、両親からの暴言と暴力を受け止めるだけのものになりさがった。
何故、自分だけ。
そう考えたが、自分が無価値なのが悪いのだと思うことしか出来なかった。
初めから与えられなかった人間に、人権などないのだと。
この世界には覆すことの出来ない それ があるのだと幼心に理解した。
耐えて耐えて耐え続けたが、無価値な人間に価値は生まれなかった。
サンドバックとしても必要とされなくなり、両親に捨てられたのは夏。
蒸し暑い倉庫の中で置き去りにされ、迎えがもう来ないということを悟ったのはその日の晩だった。
子供にしては理解が早すぎた。
それだけ、分かっていたのだ。
自らに価値がなく、両親にとって掃いて棄てられる道端のゴミみたいなものなのだと。
それから残飯を漁り、ネズミや虫、雑草を食しなんとか秋を越えた。
怪我をした腕は気づけば動かなくなり、食料がなくなり始めた秋の終わりには食べれるものは腐った腕くらいのもの。
痛みは感じなかった。
味もあったかどうか、もう覚えてはいない。
ただ、そこまでして生きようとしていたのは何故だったのだろうか。
気づけば体は動かなくなり、目の前も霞み、ゴミのベッドに蹲っていた。
目を閉じればもう、起きれない気がして必死になって落ちてくる雪を数えていた。
辺りが薄く雪を被った頃、自分の目は意思に反して瞼を下ろし始めた。
そんな時、薄れゆく意識の中で真っ黒い馬が、見えた気がした。
あぁ、死ぬのだな。
そう、思いながら重たくなった瞼を閉じた。
どうかもう、生まれ変わりませんように。
それが俺の最初で最後の願いであった。
だが、彼は知らない。
これから先、知ることもきっとない。
彼には個性はあったのだと。
ただ、彼が与えられた個性はその世界では 存在しないものだった。
存在してはいけないものだった。
科学が進歩し、御伽噺の中でしか現れない。
人々が夢見るそれ。
個性:魔法
もしそれに誰かが気づいていれば。
いや、気付かずとも彼に救いの手を差し伸べていれば。
もしかしたら、その世界で 名を馳せたかもしれない。
ヒーローとして。
もしくは、ヴィランとしてーーー。
▽
黒い馬車が連れてきたのは、この学園に通うには幼すぎる少年だった。
いや、少年なのかもわからなかった。
腐った腕を抱き抱え、噛み付いたのか無数の歯型や抉れた痕。
そして、そこが膿み、蛆が湧いていた。
体は骨と皮だけ。
死んでいるのかと思った。
だが、確かに。
彼は呼吸をしていた。
生きているのが、奇跡だと思った。
なぜ、この子がここへ来たのか。
その理由はわからなかったが、この黒い馬車が選んだのだ。
ここ数十年 間違えたことなど無い。
きっとこれからも間違えることなど無い。
ともなれば、この少年はこの学園に通うべき 相応しい存在なのだろうと。
ボロ雑巾よりも醜い少年を棺から抱き上げる。
まるで死体そのものだ。
重さはないようなもの。
「……助けてあげますよ。私、優しいので」
返事など勿論、ない。
それでも途切れない呼吸が彼の生きるという意思に思えた。
出来うる限りの魔法をかけた。
だが、終ぞその腕が治ることはなかった。
魔法とて万能ではない。
死んだ人を生き返らせることが出来ないのと同じく、死んだ腕はどんな魔法をかけようと死したまま。
壊死が広がるのを抑える為に、切り落とす他なかった。
それをこの幼い少年が受け入れられるのか。
その不安は少なからずあった。
先生方に話をし、教員寮の一室を彼の為に空けた。
殺風景な部屋の中、白い布団に眠る姿はやはり 死体のようだった。
彼が目を覚ましたのは一週間後。
「初めまして」
ベッドの横にしゃがみ顔を覗き込みながら声をかければ 血のように紅い瞳がこちらを見た。
「名前を聞いても?」
少年は何も話さなかった。
あの有り様だったのだ。
喋ることが出来ないのかもしれない、と思った。
ショックで喋れないのか、元々教わってすらいないのか。
文字は読めるだろうか、とメモに書いて見せたが、その目が文字列をなぞるだけだった。
だが声は聞こえているようだし、理解もしているような気がした。
ご飯を用意してみても、ただそれを見つめるだけで手をつけようとはしなかった。
食べてもいいですよ、と伝えてみても 変わらない。
「…私は仕事がありますので外に出ています。食べたくなったら食べてくださいね」
別の場所で映像を確認していれば、残った左手が右肩を撫でた。
そしてそこにあるべきものがないことを確認するように肩を動かした。
そして辺りを見渡して、ベッドから降りる。
何も無い部屋の中をふらつきながら歩き、テーブルの上に置いたご飯を見た。
犬のように鼻を近付けて、大丈夫だと判断したのだろうか。
彼はその皿を持って部屋の隅っこに座った。
「…例の子供か」
画面を覗き込んたクルーウェル先生に「えぇ、」と短く答える。
「呼び掛けは聞こえていますが、返事はなし。識字出来てるかは不明。…あと、警戒心が強いのか 私の前では食事はとりませんでした」
地べた座って、体育座りした膝の上に器用に乗せた。
胸元で皿を支え、左手だけで器用に食事を始める。
右腕は随分と前から動かなかったのかもしれない。
そこにそれがないことを、気にしていないように思えた。
「あれを、どうする気だ」
「どうしましょうかねぇ」
▽
目が覚めた。
覚めて、しまったというのが正しいかもしれない。
広い部屋にはベッドが1つ。
綺麗なシーツや掛け布団が居心地が悪い。
ぶら下げていた右腕はなくなっていた。
食べ切ったのか腐り落ちたのか 記憶が曖昧だった。
何をしていたのか、そしてなぜここにいるのか。
ただ分かることは、生きていたくなどなかったということだけ。
「初めまして」
嘴のようはマスクに顔を隠した人が俺の顔を覗き込む。
「名前を聞いても?」
この人は誰だろう。
それに変な服。
俺が見てきた服とは何となく系統が違う気がした。
あぁ、ヒーローコスチュームか?
いいな。
個性を持っているのか。
なんで俺にはなかったんだろう。
個性があれば、よかったのに。
そしたら、あんな思いしなくてよかったのに。
じくじくとない右腕が傷んだ気がした。
ご飯を置いて嘴の人は出ていった。
柔らかいベッドの上は居心地が悪くて、ベッドから下りる。
冷たい床に骨の浮いた足をつけた。
路地裏にいた時より、力が入った気がした。
「……なんもない」
なんなんだろう、ここ。
あのご飯は食べてもいいのだろうか。
匂いを嗅いでみたがよく分からない。
けど食い物を目の前にして食べないという選択肢もなかった。
腐ってたり毒が入ってたりすることは今までもあった。
ちょっと、腹が痛くなって気持ち悪くなるだけだ。
「…温かいもん……いつぶりだろ、」
味はわからなかった。
それでも皿を置いた膝から、そして喉元から温かさはわかった。
食事が終わってから少ししてまた、嘴の人が部屋に訪れた。
水が入った入れ物とマグカップ。
そして玩具や本を沢山置いていった。
「トイレに行きたくなったり、何か欲しいものがあった押してください」
そう言って差し出されたボタンを受け取れば、マスクに隠れていない口元が綺麗な弧を描いた。
積み重なった本の1番上のものを手に取る。
それは絵本のようだった。
「…英語だ…」
あの嘴の人も英語で喋ってたし、ここはやはり海外なのだろうか。
親に教えこまれた外国語が役に立つ日がくるとは思わなかった。
まぁ、外面を気にしていただけだろうけど。
俺は拾われて売られたのか?
肥やして、臓器を売るとか。
路地裏で出会った爺さんが言ってた。
体は金になるって。
使い方はいくらでもあるって話してた爺さんも、両目がなかった。
売られるならそれでいい。
別に。
今更、生きたいとも思っていないんだから。
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