シカバネ心中


WT→twstのトリップ
男主
原作沿い


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おかしなことになった。
気付いたら知らない場所で知らない服を着てきた。
目の前には喋る動物。しかも火を噴く。
それに棺はぷかぷかと宙に浮いている。

近界…か?
攫われた?
いや、待て。その前に俺……何してたっけ?
トリガーねぇんだけど。
奪われた?

「目の前のオレ様を無視するとはいい度胸なんだゾ!このグリム様に目をつけられたのが運の尽き!オマエのその服を寄越すんだゾ!!さもなくば…丸焼きだ!!!」

あぁ、うるさいな。
敵なのか?味方なのか?
つーか、火を噴く動物ってなんだよ。
新型のトリオン兵?
トリオン兵ってもっと機械的な奴だったろ?
こんな動物的なの作れたんか?報告しねぇと。

けどまぁ、とりあえず逃げの一手。
戦う術を探さないことにはこの状況は無理だ。
動物に背を向けて、扉を抜ける。

とりあえず、トリガーを探さねぇと。
あの動物の首を持って、この国のヤツらと話をしよう。
俺を狙った理由はなんだ?
いや、まず…何をしてたのか思い出せない方がやばくないか?
薬とか?自白剤とか飲まされてねぇといいけど。
話しちゃいけねぇ機密情報が俺の中はたんまりとある。

「オレ様の鼻から逃げられると思ったか!ニンゲンめ!さあ、丸焼きにされたくなかったらその服を…ふぎゅ?!?痛ぇゾ!なんだぁこの紐!」

あれこれ考えながら逃げ回る俺に追いついた動物が何かに打たれた。

「紐ではありません。愛の鞭です!ああ、やっと見つけました。君、今年の新入生ですね?」

鳥のようなマスクをした男は腕を下ろし、顔をこちらに向けた。

新入生?
いや、何を言ってる?
俺は、もう新入生なんて歳じゃねぇし。

「ダメじゃありませんか。勝手に扉(ゲート)から出るなんて!それにまだ手懐けられていない使い魔の同伴は校則違反ですよ」
「ゲート…?使い魔…?」

暴れる動物を押さえつけて、口を塞ぐ。

「まったく、勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です!はぁ…どれだけせっかちさんなんですか。さぁさぁとっくに入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう」

反論する暇もなく連れられながら話を聞けば、ここはナイトレイブンズカレッジという魔法士養成学校らしい。
そして目の前にいる鳥人間は校長のディア・クロウリー。

「…魔法士?」
「この学園に入学できるのは闇の鏡に優秀な魔法士の素質を認められた者のみ。選ばれし者は扉を通って世界中からこの学園へ呼び寄せられる。貴方の所にも扉を乗せた黒い馬車が迎えに来たはずです」

魔法士の素質?
黒い馬車…?
話を聞いても何を言っているのかサッパリだ。
明らかに人違い。
まず、魔法なんてアニメや漫画の中にしかないだろ。
俺に備わっているのはトリオン機能だけ。

「あの黒き馬車は闇の鏡が選んだ新入生を迎えるためのもの。学園に通じる扉を運ぶ特別な馬車なのです。古来より特別な日のお迎えは馬車と相場が決まっているでしょう?」
「相場ってどこの相場だよ…」

今どき馬車?
いや、何時代の話?

「さっ入学式に行きますよ」
「人違いだ」
「はぁ?何言ってるんですか!」

式典服だって着ているではないですか!と彼は言う。
これ式典服なのか。
あぁ、やっぱりおかしい。
なんで俺は、この服を着ている?
これから始まるのはなんだ?
拷問?いや、洗脳教育って可能性もある。
逃げなければ、と思うが ここがどこかも分からぬ今逃げたとて生きていけるかは怪しい。
ひとまず、情報が必要だ。
俺以外に攫われている人もいるかもしれないし。

連れて行かれた先。
同じ服を着た人達が集まっていた。

「さぁ、寮分けがまだなのは君だけですよ。狸くんは私が預かっておきますから早く闇の鏡の前へ」

促されるまま鏡の前に立つ。

「汝の名を告げよ」

鏡が喋った。
顔のようなものが動いて、鏡と目が合うという不思議。

「浅葱 憂」
「汝の魂のかたちは…」

鏡は黙り込む。
嫌な静寂の後「わからぬ」と一言 鏡は告げた。

「なんですって?」
「この者からは魔力の波長が一切感じられない…色も、形も、一切の無である。よってどの寮にもふさわしくない!」
「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えに行くなんてありえない!生徒選定の手違いなどこの100年ただの1度もなかったはず。一体なぜ…」

なんの茶番だ。
魔力なんて端から俺にないのはわかっていたはずだ。
拷問と洗脳って可能性は低い…か?

「だったらその席、オレ様に譲るんだゾ!」
「あっ待ちなさい!この狸!」
「そこのニンゲンと違ってオレ様は魔法が使えるんだゾ!だから代わりにオレ様をこの学校に入れろ!魔法ならとびっきりのを今見せてやるんだゾ!」

みんな伏せて!と誰かが叫んだ。
その声と同時に目の前に広がった青い炎。

あの動物、やっぱりトリオン兵じゃないよな…?
魔法使えるとか言ってるし。
まず、トリオン兵に意思はない。

「このままでは学園が火の海です!誰かあの狸を捕まえてください!」

クロウリーの言葉に皆気だるげな反応を見せた。
その間も動物は自慢げに炎を吐く。
服やら地面が燃える臭いに眉をひそめた。





事態は赤髪と眼鏡の生徒によって収束した。
目の前で飛び交う 魔法 というものに目眩がする。

「どうにかしてください!貴方の使い魔でしょう!?」
「違う」
「しっかり躾を…え?貴方のじゃない?」

魔法を知らないのに使い魔なんているはずないだろ、と呟いて見知らぬケモノです続け 捕まった動物に視線を向けた。

「では、学園外に放り出しておきましょう。鍋にしたりはしませんよ。私、優しいので」

それでも尚、嫌だと喚く姿は人のようだった。
何故、そこまで必死なのか。
この学校は本当に、魔法士育成の為の学校…なのか?

「少々予想外のトラブルはありましたが、入学式はこれにて閉会です。各寮長は新入生を連れて寮に戻ってください」

ぞろぞろと生徒達が外へ出ていく。
人口密度の高かった空間は気付けば俺とクロウリーだけに。

「さて、浅葱さん。大変残念なことですが 貴方には、この学園から出て行って貰わねばなりません。魔法の力を持たない者をこの学園へ入学させるわけにはいかない…。心配いりません、闇の鏡がすぐに故郷へ送り返してくれるでしょう」

帰れるのか?
何なんだろう、この茶番は。
夢?
俺は、捕虜ですらなかったのか?

「さあ、扉の中へ。強く故郷のことを念じて…」

長い夢だった。
そう、思うことにしよう。
早く帰らなくちゃ。
寝過ごしたら、きっとまたどやされる。
何をしてたか思い出せないけど。
会議中とかじゃないといいな。

「さあ闇の鏡よ!この者をあるべき場所へ導きたまえ!」

また、長い沈黙が訪れた。
そして「どこにも無い」と答えた。

「え?」
「この者のあるべき場所はこの世界のどこにも無い」
「なんですって?そんなことありえない!ああもう、今日はありえないのオンパレードです」

自然と溜息が出たのは仕方ないだろう。

「もういいよ、」
「え、」
「これ……夢だろ?夢だよな…きっと、そうだ…」

夢を夢だと認識することもあるって言うし。
きっと、これは夢なんだ。
さっきまで何をしていたのかも思い出せないのも夢だから。

「動物が火を吹くはずないし、魔法なんてあるはずない。俺が新入生になるわけない。まず、帰る場所がないのだって…ありえない。そう、これは夢なんだ」
「ちょ…夢なわけないでしょう?!」
「夢ってどうやったら覚めるんだっけ?目ぇ覚めろって思えばいいのか…?あ、そーいや死ぬまで終わらないタイプの夢もあったっけ…」

待ってください!!とクロウリーは俺の腕を掴んだ。

「考え方がぶっ飛びすぎですよ!?掴まれて痛いでしょう!?!夢じゃありませんよ!?!そもそも貴方どこから来たんです!?」
「三門市。日本の、三門市」

俺の言葉を聞いて彼はまた黙り込む。

「……聞いたことのない地名ですね。私は世界中からやってきた生徒の出身地は全て把握していますが、そんな地名は聞いたことがない。1度図書館で調べてみましょう」

彼の言葉に頷きもしなかった。

夢だ。
夢であってくれ。
そうじゃなくちゃ、困るんだ。





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