06
平穏な日々が続いていた。静かな俺の望んだ日々。
友達に見返りを云々で監督生を怒らせたようで、監督生が俺の元へ来ることはなくった。
そのお陰で、グリムも俺の元へ来ることはなくなった。
時々 エース達が仲直りしろよと声をかけてくるが 俺としては喧嘩をしているつもりはない。
価値観なんて、人それぞれだ。
それが合わないのに一緒にいる必要なんてないのだ。
そして、フロイド先輩も俺の前に現れなくなった。
手首の痣も、綺麗さっぱり消え去った。
「クロヴィス、」
「はい?」
「サムの所に荷物を取りに行ってくれ」
かしこまりました、と渡されたメモを受け取る。
放課後は基本的にクルーウェル先生の手伝いをしていた。
錬金術の授業は好きだし、目の前で色々な物を見れるのは良い経験だった。
今まで俺にあった知識は古い本の中の知識だけだったから。
思えばあの古びた小さな小屋には魔法に関する書物が沢山あった。
ルヴトーの件も含めて考えれば お爺さんは元々魔法士だったのだろう。
サムさんから受け取った段ボールを抱えて歩いていれば前からフロイド先輩とジェイド先輩が歩いてくるのが見えた。
一瞬交わった視線。
だが、フロイド先輩は顔を歪め その表情を隠すように顔を背けた。
そう。
俺の前に現れなくなったフロイド先輩は 偶然でも俺と会うと同じような反応を見せるのだ。
その表情を見る度に何かを忘れているような気がしてくるのだ。
だが、これを望んだのは俺自身。
わざわざ自ら踏み込もうとは思わなかった。
このまま、平穏無事な日々を享受したかった。
「こんにちは、クロヴィスさん」
「こんにちは」
すれ違いざま微笑んだジェイド先輩に頭をぺこりと下げる。
ジェイド先輩は普通なんだよな。
「クルーウェル先生、受け取ってきました」
先生のいる部屋の扉を開けた時。
視線が刺さった気がして、2人がいた方を見たがもうその姿はなかった。
「どうした、仔犬」
「いえ。なんでも」
今日は何を作るんですか、と箱の中身を覗く。
「魔法を封じ込める薬だ」
「……それなら、猛禽類の爪が足りなくないですか。これとこれもいらないし…」
「……随分と古い知識だな」
先生は驚いているのか目を瞬かせてふっ、と笑う。
「貴様の話す調合で出来上がるのは魔力封じ。私が作ろうとしてるのは魔法効果封じだ」
「ん…?」
「魔力封じは魔力そのものを封じるもの。効果が強すぎて、飲んだ後に魔力が戻らなくなる事案が多くて 学校では教えていない。魔法効果封じは魔力はそのままに魔法の発動や効果を封じるものだ」
そうだったのか、と改めて箱の中身を見る。
「今はもう載っている本も少ないというのに…」
「あの家にあった本は…古かったですから」
魔法の効果封じか。
リドル先輩のユニーク魔法に似ているな。
「今度持ってきてくれないか」
「え?」
「私も見たことがないものもあるかもしれない」
では、次の休みに帰りますと答えた。
ルヴトーが守るあの森に。
▽
「…フロイド、」
「いらいらする」
足を止めたフロイドが俯いてそう呟いた。
徹底的にクロヴィスを避けているフロイドは彼がいた方を振り返った。
「あの時もそうだった」
「何がです?」
「イシダイ先生が奪っていく」
何が言いたいかは分からないが、クロヴィスさんはイシダイ先生ことクルーウェル先生に随分と信頼を寄せているらしい。
それに嫉妬しているのだろう。
「…俺は、触れることすら出来なかった」
「触れたいんですか?クロヴィスさんに」
「触れられるって…肯定だと思わね?存在を許されてる」
俺はくらげちゃんの中にはいさせて貰えない、とフロイドは笑った。
「好きなんですか」
「…またそれかよ。……けど、そうかもねぇ」
好きだったのかもしれない、と言いながらフロイドは歩き出す。
「仲直りしませんか?クロヴィスさんと」
「しない。…てか、出来ない」
「どうしてです?」
くらげちゃんが倒れたのは俺のせいだから、と。
フロイドにしては小さな弱々しい声で呟いた。
「小エビちゃん達にその分遊んで貰うからいいよ」
「ですが、」
「いーの。しつこいとジェイドでもぎゅーってしちゃうよ?」
わかりました、と口を閉ざせば 1度だけ後ろを振り返り フロイドはそれ以降彼の話をすることはなかった。
▽
「え?フロイド先輩とクロヴィスが?」
「喧嘩?」
考えた結果。
彼と仲の良いエースとデュースの2人の元へ来ていた。
「監督生も今喧嘩してんだよなぁ……」
「監督生さんとも?あまり怒らなそうなのに…」
「クロヴィスは、こう……善意で動かねぇからなぁ…」
エースの言葉に首を傾げれば デュースもたしかになぁと頷く。
「監督生って、助けてくれー!って言ったら 誰でも助けちゃうし。助け求めてなくても、勝手に助けようとするし。けど、クロヴィスの場合 助けてって言うと じゃあ何してくれる?ってなるんすよね」
「監督生はそれが許せなかったみたいで…。フロイド先輩との喧嘩の理由は?」
それが詳しくはわからなくて、と答えれば 難しいなと彼ら口を閉ざした。
「元々…フロイドが気に入っていて、ことある事にちょっかいをかけていまして…」
「あぁ……なるほど」
「ですが、先日…どうも口論になっていたとか…」
ガラス割った時かな、とデュースは首を傾げた。
「クロヴィスがキレてガラス割ったって…なんかクラスでも話題になってて。魔力暴走じゃないか、とも言われてたんすけど クルーウェル先生が駆けつけて事なきを得たとか…」
「クルーウェル先生…ですか、」
「仲良いんすよねー、あの2人。クロヴィスが懐いてるだけかと思ってたけど、先生もクロヴィスに甘いし…」
フロイドの言うイシダイ先生に奪われた、というのはこのことなのだろうか。
「クロヴィスって冷めてるっつーか…損得勘定で動くっつーか……。監督生もフロイド先輩もどっちに対しても、いなくても困らないって思ってると思うんすよね。だから、クロヴィスから仲直りーって流れには確実にならないのは確かっすねぇ」
「そう、ですか……」
「ただ、自分から人を切るタイプでもないんですよ」
実際俺らもまだ仲良くして貰えてるし、と彼らは顔を見合わせた。
「だから多分。こちらから歩み寄って 謝罪して 受け入れられてしまうのが1番だと思います。快く受け入れてはくれないと思いますけど…」
「あーはいはい。そこにいたいんなら勝手にしろよって感じで。近くにいることを許してくれるんすよ」
なんとなく彼らの言いたいことはわかった。
クロヴィスさんが自ら両手を広げ、何かを受け入れる姿というのは思い浮かばないのだ。
それでも全てを拒絶するような冷たい人でもない。
すれ違いざまに私への挨拶に答えてくれるような人なのだ。
本当に拒絶したいのなら、無視することもできるのに。
「その為にどうするかって話になるんだけど…」
「モストロ・ラウンジに誘ってみたらどうだ?期末課題の時のお詫び、とか言えば来てくれるだろ」
「あ!それ名案。ナイス デュース!」
フロイドがシフトに入っている日に連れて行けば否が応でも関わることになる。
勿論、フロイドがサボらなければなのだが。
「そこはジェイド先輩が頑張るしかないっす」
「ついでに監督生も連れてくか?」
「あー…偶然装って?両方いっぺんに来たら もし苛立っても分散するか?」
俺は監督生とグリムを連れて行こう、とデュースが言い 話はトントン拍子に進んでいく。
後は計画通り仲直りのキッカケを掴めればいいのだが。
「とりあえず俺、クロヴィスに声掛けてきます。おっけー貰えたら連絡しますね」
「ありがとうございます」
「ま、困った時はお互い様ってことで。ポイント上乗せしてくれていいっすよ?」
悪戯が成功した子供みたいに笑った彼にわかりました、と笑う。
「特別にポイント2倍にします。アズールにも許可を貰います」
「よっしゃ。て、ことでクロヴィスんとこ行ってきます」
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