いつだったか、諏訪さんに言われた。
自分でもおかしいってわかってんだろ、と。
あの時は笑って聞き流したけど、流石に自分のことがわからない程 俺も馬鹿ではない。
時々見える幻覚と。
時々聞こえる幻聴と。
夢の中で何度も繰り返すあの日。
いつから、と言えば 俺が俺の大切な人の心から消えた日からだろう。
今日も、彼らは笑う。
ラウンジのテーブルに頬杖をつく、俺の前で。
けらけら けらけら けらけら と。
あの日から、歳をとっていない彼らは俺の方を見てあの頃と変わらずに笑う。
目障りなのに。
幻でも現れてくれる彼らに、今日もまた忘れずに済んだと安心する。
耳障りなのに。
まだ、聞いていたいと思う。
もう一生呼ばれることの無い、俺の名前を呼んでくれる声を。
「雅久。おーい、雅久?」
「ん?あぁ…迅さん」
「元気?ぼんち揚げ食う?」
いらない、と幻覚の前に立ち塞がる彼の顔を見る。
迅さんと目が合うと声は聞こえなくなって、姿も消えた。
「なんかちょっと久しぶりだね」
「そうだっけ」
「冷たいなぁ、相変わらず」
何してたの?って彼の言葉にぼーっとしてたと答えればらしくないと彼は笑う。
「ねぇ、」
「なに?」
「雅久の未来って、いっつも凄い分岐してるんだけどさ」
そういやそんなこと言ってたなぁ、と彼の言葉を聞き流す。
今日はもう幻覚は見ないだろうし、誰か捕まえて模擬戦でもするか。
「今、珍しく2本しか未来がない」
「へぇ」
「沢山分岐した先に、行き着くのがたったの2択だけ。」
選択肢が少ないってことはアンタが悩まなくていいってことだろ、と笑って立ち上がる。
「このままボーダーにいる未来が2割。残りの8割で……雅久は……ボーダーを辞めて、この街から消える」
歩き出そうとしていた足が止まる。
彼の方を振り返り、俺は笑った。
悩んでいた。こう見えて色々と。
コントロール出来なくなっていく感情に、狂っていく自分に。
あの日、目的と大切な人を失った。
その引き金を引いたのは間違いなく俺だったのだけど。
だから誰を責めることも出来なかった。
自分を責めても、これで良かったと思う自分もいて責めきれなかった。
「いいな、それ」
「っ、雅久…」
「いいよ。それがいい。きっと、そっちがいい」
困る、と迅さんは言った。
いてくれないと最悪の未来が訪れると。
「最悪な未来が 不正解な未来とは限らない」
「雅久の強さが、力が必要なんだよ」
「他にもいる。強い隊員は。俺なんかじゃなくていい」
大丈夫だよ、と俺は笑った。
「大丈夫じゃない。雅久が辞めるか辞めないかで 本当に未来が大きく それこそ180度変わるんだ」
「迅さん。強い人は現れるよ、これから沢山。あの頃、強いって言われてた俺達が、アイツが過去になった。俺だって、そうやって過去になってく」
幻が俺の肩を組んだ。
あの頃みたいに、笑いながら。
「雅久が隊を組めばいいんだよ。あの頃よりも、いい隊を」
「アイツらがいいんじゃねぇ。アイツらじゃなきゃダメなんだ。俺が」
ごめんなって笑った。
アイツらも最後は泣きそうな顔して笑ってた。