雅久とはよく2人で飯に行く。
勿論、同学年のメンバーと集団で行くことも多いけど、雅久に関してはサシの方が多い。
お互いの間に共通の話題があるわけでもないのだが、何となくテンションが同じというか。
一緒にいて余計なことを考えなくて済む。
雅久の地雷のことや病的に変わる人格的なところもなんとなく上手く付き合えている…方だと思う。
任務を終えて、イコさんに一言声をかけて先に隊室を出る。
携帯にはラウンジと単語だけのメッセージが届いていた。
お互いの履歴もそんなんばっかりだ。
ラウンジに行けば妙に人集りがあることに気づく。
どちらかと言えば女の子が多い。
きっと嵐山さんあたりがおるんやろ、とアタリをつけて周りを見る。
探している姿は見つからず 人が多いの嫌いだし移動したんかなと 携帯に視線を落とした。
「あの人だれ?」
「B級の王子隊長とソロでやってる粕谷って人らしいよ」
「えー、あんなかっこいい人いたんだ」
どこにおんねん、と入力しかけていた手が止まる。
今、粕谷言うたよな?
「……まさか、」
人集りをかき分けて 中心を見ればそのまさかだった。
チェス盤を置いた机を挟み向かい合う2人。
顎に手を添え背筋を伸ばす王子と頬杖をつき足を組む雅久。
真逆の2人が向き合っているのに、それがとても絵になっていた。
雅久は黙ってればイケメンだとよくオペレーターの女子たちにも言われているが、確かに改めて見るとそうだ。
これ、めちゃくちゃ声掛けにくいやん。
てかなんでこんなとこでチェスしとんねん。
こんなに近くにいても2人は気づいていないらしい。
「遅いね、2人とも」
「ほんとにな。そろそろ腹減ったわ」
「これ終わったらご飯でもいく?」
お前蔵内と行くって言ってだろ、と雅久は答えながら駒を動かした。
元々あの手のゲームが好きなのは知ってたし、きっと2人とも人待ちの間に暇を持て余したのだろう。
「後で合流すればいいかなって。まだかかりそうだし。雅久は?みずかみんぐと何の約束?」
「飯」
「じゃあちょうどいいね。4人で行こうよ」
王子の置いた駒を見て雅久は微かに眉を寄せた。
そして、すっと目を細め親指で唇に触れる。
戦闘中も時々やる、アイツの集中してる時の癖だ。
「嫌だ」
「え、なんで!?」
「2人でいい」
2人がいいじゃなくて?と王子が少し笑う。
チェス盤を見ていた雅久は顔も上げず、表情も変えず「そうだな」と答えた。
「アイツとは2人がいい」
「雅久ってみずかみんぐのことお気に入りだよね」
「別に」
僕とも2人でご飯行こうよ、と王子が言えば めんどくさいと一蹴する。
「あはは、酷いなぁ。その扱いの差はなに?みずかみんぐが良くて、僕がダメな理由って?」
「あー…雰囲気と関西弁」
「雰囲気はまぁわかるけど。関西弁、好きなの?」
雅久はやっと顔を上げた。
「そうだな」
「それは、僕にはどうしようもないなぁ…」
「何真に受けて凹んでんの?アホかよ。…これに勝ったら行ってやるよ」
王子の駒が動いたのを視線で追いかけながら雅久は笑う。
「え、ほんとに?言ったね!?」
「ほんとに。はい、チェック」
「え、」
チェスのルールは知らないけど多分、 わざとだろうな。
「いつの間に…」
「俺の勝ちっしょ?」
「……分かってて言ったんでしょ?」
勿論、と雅久は笑った。
「もう1回」
「やんねぇよ。水上もう来てる」
「え?」
立ち上がった雅久は来てんなら声かけろや、と俺を見た。
一体何時から気づいていたのか。
「すまん、楽しそうやったから」
「ま、良い暇潰しだな。つか、なんだこの人集り…うぜぇ…」
しっしっ、と虫を払うみたいに手を動かして嫌悪を顔に滲ませた雅久に また人集りがザワつく。
そりゃそうやろな。
さっきのイケメンが瞬間これやで?
「雅久、お前あれや。やっぱり喋らん方がええわ」
「は?なに?喧嘩売ってんの?買うけど?」
「売ってへん。品切れや、あほ」
なんだ残念、と彼は笑う。
「じゃな、王子」
「次は負けないからね。ご飯も、2人で行こうね」
「俺に勝ったら考えるわ」
隣に並んだ雅久はどこ行く?と首を傾げる。
「いつもの中華屋は?」
「おっけー」
「雅久、関西弁好きなん?」
雅久は懐かしくてと目を細めて笑った。
「懐かしい?」
「大好きだった人が、関西弁だった」
「へぇ…」
大好き"だった"人が 関西弁"だった"。
その過去形がどういう意味なのか。
もう好きじゃないのか、はたまた。
関西弁を話すのをやめてしまったのか、はたまた。
「ん?どした、水上」
「いーや、なんでもない」
関西弁を話していた大好きな人が、過去の人になってしまったのか。
なんて。
確実に地雷踏み抜くだろうな。
「チェス、前はあんまやらんかったよな」
「あぁ、真木ちゃんとやろうって話してて。練習中」
「なんでそこが仲良いんか、不思議やわぁ…」
強い女性は好きだよ、と雅久はまた目を細めて笑った。
懐かしむように、大切そうに。
普段見ることのない、慈しむ優しいものだった。