その日は朝から本部はバタついていた。
ゲートの誘導装置の不具合で危険区域外にゲートが開きやすくなってしまっていたからだ。
だがゲートが開くことは無く、運が良かったと話しながら交代しようとした時 嫌な音が耳に入る。

「ゲート!?てか、遠っ!?」
「…どうしますか、二宮さん」

ゲートが開いた場所は、危険区域から少し外側。
交代の為に本部に戻ろうとしていた俺達からは遠く、射程も圏外。
本部に待機してる狙撃手からも届かない距離だった。

「……防御装置で少しは持ち堪えられるはずだ。その間に射程に入る」
「「了解」」

ゲートが開く場所に関しては、こちらの裁量では決められない。
今日は運が悪かった。
そう思って走り出した時、危険区域内だというのにエンジン音が聞こえた。
何事だ、と後ろを振り返れば すごい勢いで何かが横を通り過ぎブレーキ音をさせながら目の前でバイクが止まった。

「おい、後ろ乗れ」
「え!??」

バイクに跨るのは雅久だった。
急いでいたのかノーヘルで、隊服に身を包んでいるところを見るとトリオン体らしい。

「… 雅久」
「免許はあるんで。ノーヘル2ケツはトリオン体だし緊急事態だから見逃せ」

早口で二宮さんにそう言った雅久は「早くしろ」と舌打ちをした。

「犬飼、」
「っ、犬飼了解」
「こんな日に限って誘導装置ぶっ壊れるとかアホだろ。飛ばすからちゃんと掴まっとけよ」

俺が選ばれたのは恐らく射程が長いことと、雅久とまだ親しいからだろう。
後ろに俺が跨ったのを確認すると声もかけずに、発進する。

「えっ、ちょっ!?!」
「舌噛むぞ、黙れ」

滅多に感じる事のない風圧に目を瞑る。
咄嗟に掴まった彼の腹に回す手がなんだか恥ずかしくなって緩めようとするの、その手を彼の右手が掴んだ。

「振り落とされんぞ、」
「これ恥ずいって〜」
「知ったこっちゃねぇわ」

手を回したことより重なった手が恥ずかしく「ちゃんと掴んでるから、離して」と言えばすぐに手は離れた。
スピード違反取られちゃうだろうなって速度で、民家の間を通り抜けていく。

「…クソが、またゲート開いてやがる。殺すぞ」
「ねぇ!今日休みじゃなかったの?」
「休みだわ。おい、そろそろ射程入るぞ。」

スピード緩めるから両手離せるか、と彼に聞かれ 「もちろん」と笑ってやる。
右に4体、左に3体か。
視線を右から左に動かし、右側のトリオン兵に銃口を向けた。

「左は俺がやってやるよ。バイパー!」
「片手運転怖いんだけど!?」
「うっせぇ」

なんか、荒船とか喜びそうなシチュエーションだなぁなんて思いながら撃ち落とされるトリオン兵。
敢えて、後ろに回り込ませた弾丸はトリオン兵を危険区域内に落とした。
相変わらず、バイパーの扱いは二宮さんや出水に引けを取らない。
全てのトリオン兵の沈黙を確認し、バイクが止まる。

「わざわざ助けにきてくれるなんて優しいね」
「違ぇよ。本部長に呼び出されてただけだわ」
「……今度は何やらかしたの、」

別に、と答えて 彼は俺に降りるように促す。

「これでチャラにするっつーから、もう関係ねぇわ」
「反省してないんだね」
「自分が悪くねぇことをなんで反省すんだよ」

どうせまたC級とかと揉めたんだろうなぁ。

「忍田さん、このまま帰んぞ」

本部長と通信機越しに喧嘩している彼を見ながら、終わった事を二宮さんに報告すれば先に帰還するから適当に戻ってこいと言われた。

「話通じねぇオッサンだな、相変わらず」
「まぁまぁ。結局戻るの?」
「戻んねぇよ」

換装を解いた彼は見慣れた制服姿で、椅子の下の収納に入っていたメットを被りながらお前はベイルアウトでもして戻れよと視線も向けずに言ってくる。

「乗せてってよ」
「は?だる」
「さっきはかっこよく助けにきてくれたのに」
「お前の為じゃねぇし」

その通りなのだけど。
こんな経験、他の誰だってしていないはずだ。

「もっかい乗りたい。バイク持ってるの知ってたけど、乗ってるの初めて見たし」
「……うぜぇ」
「すぐそう言うこと言うじゃん」

ヘルメットのせいで声が少し篭もり、見えてる目元は不機嫌そうだ。
これ以上は踏み込んだらダメだとわかり、冗談だよと言おうとしたがそれよりも前に彼は「今度な」と呟いた。

「ちゃんとメット貸してやるから」
「え!ほんと?」
「ほんとほんと。じゃあな」

禁止区域を囲むフェンスをバイクのまま飛び越えていく後ろ姿を見つめ、緩む口を手で隠す。

「……今度、みんなに自慢しよ」

そう呟いた自分の声は弾んでいた。