「ベルトルさん。」そう自分を呼ぶファーストネームの声はとても心地良くて、ついつい聞こえなかったという振りをして何度もベルトルトは自分の名前を呼んで貰ってしまう。きっと彼女はもう気付いているはずだ、なのに嫌な顔一つせずに自分へと声を掛けてくれることに甘えてしまう。「あ、ごめんね。ファーストネーム。」眉を下げて聞き返せば彼女は何時だって笑って、他愛のない会話を交わすのがここ数か月の間に日常と化していた。同じ班に配属され強制的に話していた最初の頃よりも、自主的に楽しそうに会話を交わす二人には笑顔があふれていた。ベルトルトは日常的に名前を間違われるストレスを微かにこの時間によって軽減している節もあり、ライナー、アニといる時とはまた違う安らぎを手にすることができていた。

「ベルトルさんは上昇するときガスってどの位吹かすの?」
「地面からだったら自分の足でけり上げるのと同時に軽く吹かすだけでいいと思うよ。移動中だったら慣性を存分に利用して……、」
「そっかー、勉強になります。いつもありがとうね。」
「どういたしまして。」
「あ、そうだ、今度の休みにさ一緒にその……。」
「一緒にー?」
「ああもうベルトルさんってたまに意地悪だよね! 私と一緒に街にいってくれないかな?」

 顔を真っ赤にして少し叫ぶようにファーストネームはしっかりとそう彼に言う。何時も教えてくれたお礼にお昼を御馳走したいと言う彼女の頬に薄らと朱が差していた。計画のこともあって、あまり人と深い仲になろうとはしなかった今までの戦士としての自分が「断れ。」と言う。その一方で大きな声を上げている温かななにかが「行ってあげてもいいんじゃない?」と甘く囁いた。ファーストネームをちらと見る。随分と背の高いベルトルトを見上げる視線は少し熱っぽくて、返事を静かに待つ姿は待てと言われている犬のようにも見えた。きっと、彼女はここで断っても笑顔で謝るのだろうということは想像に難くない。

(そうだベルトルト! 班の人間とは仲良くしておかないとお前の成績も悪くなるぞ。そしたら故郷への道も遠くなる。故郷へ帰るため、そのために行くんだ。)

「うん、勿論いいよ。」

 がちがちに固めた屁理屈で自分の中の戦士を押しやって、兵士としての自分を表に出す。押しやられた戦士としての自分がまだ何かを叫んでいたけれど、そんなこと彼女の笑顔の前では何もかも無意味に等しかった。

(なんでこんなにドキドキするんだろうね。)


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