贔屓の強い教授の授業はそれはそれは格差が酷かった。どこから聞いてきたのか親が少しでも権力を持っていればその生徒にはとてつもなく甘く接する様子は獲物を肥えさしてから食べる肉食動物のようにも思えた。その中でも元貴族の娘だというファーストネームに、教授は特に甘かった。権力があり容姿も整っている方のファーストネームは絶好の的だったのだ。しかし、教授は既に彼女に家族などいないことを知らないでいた。
 何か口にしようとするものならば成績のことを出してくる教授にファーストネームは成績のためと自分に言い聞かせ、彼から発せられる気持ち悪さからやってくる嫌悪感を必死に隠した。

「イェーガー、第八章の概要を読みたまえ。」
「……ええと、」
「遅いッ! 王に心臓を捧げた兵士たるもの、王政の定めた法さえも読めないとは何ごとだ! 次、ファミリーネームくん。」
「は、はい。」
「その章では何についての話しをしている?」
「えー……、壁の防衛です。」
「素晴らしい、流石ファミリーネーム家のご息女だ。そこら辺の兵士とは訳が違うね。」

 簡単すぎる質問をこう盛大に取り上げられて比較にエレンを使われたことを気にし、申し訳なさそうに顔を真っ赤にして俯くファーストネームは膝の上で拳を握った。最初は授業で優遇するだけだったのが、段々とエスカレートしていく様子は誰の目から見ても明らかだった。
 そして、余りにも理不尽な優遇のしわ寄せは、教授ではなくファーストネームに集まっていった。



「……。」

 朝食の時に同じテーブルで顔を合わせると疲れ切ったような顔をしたファーストネームが一人で朝食をとっていた。何時もならユミルやクリスタらと食事をとっていそうなものだけれど、いや、今日はあの二人は水汲みの当番だと言ってのを聞いた気がする。だから一人なのか? いや、でもそれでもよく群れる女子が一人で朝食はちょっと違和感がある。興味から口が動いた。

「どうしたのファーストネーム、元気ないみたいだけど……。」
「いや、なんでもない、よ。」

 そうとは到底見えない様子のファーストネームは話はこれで終わりという雰囲気で食事を再開する。少ししてスープを飲みきった彼女はパンを半分程残して足早にどこかに行ってしまう。そんな彼女と入れ替わるように入ってきたのはライナーだった。ベルトルトが出て行くファーストネームの後ろ姿を黙って見送っていったのに何かを察したのか急いでベルトルトに声を掛けた。

「どうしたんだ。喧嘩でもしたのか?」
「そうじゃないけど……。」

 食堂から去った彼女の温もりがまだ隣に残っていて、あの少し陰った顔が脳裏を掠めた。そして残されたパンが視界に入る。机の端に設置されてる紙ナフキンを手に取るとそれを包んだ。只でさえ過酷な訓練に身を投じているのだから食べるものはちゃんと食べた方がいいだろう。ああ、また彼女の心配をしている自分がいる。

「あのなベルトルト。」ぼそと小さな声でライナーが呟く。「お前、分かってんだろ?」
「な、なにが?」余りに真剣な眼差しに驚いて声が喉につっかえた。
「……一緒に帰りたい奴が出来たら相談しろよ。俺に言えるのはそれだけだ。」
「は。えっ……えええ!? な、何言ってんのさ君。」
「お前がファーストネームを見る目があんまりにも穏やかだったからな、なんとなく気付いてはいたんだ。お前、アイツのこと好きなんだろ?」
「……好きって、君ねぇ……。」
「一緒にいる時のお前、俺といる時よりも楽しそうだぞ。というか、お前たちまだ付き合ってなかったんだな。」
「さっきから何言ってるんだいライナー。僕たちが付き合ってるように見えただって?」
「多分、皆そう思ってるぞ。お花夫婦って呼ばれてるの知らないのか?」
「何それ知らない。」

 夫婦って、夫婦ってなんだ。恥ずかしさから顔が上気していくのが分かった。今頃ゆでだこのような顔をしているのだろう自分にライナーは溜息を一つ吐いて話を続けた。ライナーは思う。自分の幼馴染はこれほど鈍感だったのか、その分だとファーストネームも知らないんだろう。二人は似ているから。

「そうだ、お前知ってるか。」
「何が?」
「さっきアニから聞いたんだが……―――」


-6-

top