日の光が目に痛い。オレンジ色のうすぼんやりとした光に包まれていた独房から出たばかりの僕は瞼の上に手を翳してダンゴムシのように少しだけ身を縮こまらせながらキース教官の後ろを歩いた。彼のもっと早く出してやりたかったなんて話は殆ど聞いてなくて、僕は遮るようにあの子の名前を口にした。
「ファーストネームは、どうなったんですか。」
「普段通りに戻っている。友人たちに恵まれているな、彼女は。」
前を向き歩み続けるままそう口にした。ほっとするような温かい安堵の気持ちが胸の奥に広がった。あの百合が手折られていないなら、いいんだ。その時の僕はまるで無欲だった。
あの教授はシーナに戻ったらしい。勿論、裁判所にだ。キース教官はぼかしたが、買収された訓練兵等は他の訓練兵たちに散々ボコボコにされた後、寒い開拓地へと運ばれていったという。特にライナーが僕の代わりに頑張ってくれたらしい。アニはファーストネームと仲がいいけれど、彼女のことだからやっぱり見ていただけなんだろうなと思考を飛ばしている内に、男子寮の前までやってきた。帰っていく教官に敬礼をしたあと部屋に戻ると、わっと襲い掛かる様な同期たちの声が僕を襲った。
スポンジのように疲れが染み込んだ体は鉛のように重かったが今日から何時も通り訓練をこなさなければならない。一週間と少し、あの暗い部屋に閉じこもっていた間にも時と授業は進んでしまっている。この位で三位から落ちるとも思えないけれど、遅れを取り戻すためには―――まず食事をとらないといけない。食堂の扉を開くといつも通りの食事風景が広がっていた。何時もの席に彼女は確かに座っていた。
僕に気付いた彼女は食事をそのままに立ち上がった。サシャが物欲しそうにそれに視線を落としつつ彼女を見送る。ゆっくりとこちらにやってきたファーストネームはしゃんと背を伸ばしていて、その姿を自分の目で見たことに何よりも安堵した。
僕らはどちらとも言わずに食堂の外に出た。
「久しぶり、ファーストネーム。元気そうでよかった。」
「ベルトルさん。ごめんなさい、もっと早く会いたかったけど……。」
「あそこには訓練兵は普通入れないからしょうがないよ。」
「……ベルトルさん。助けてくれて、ありがとう。いうの、遅くなっちゃったね。」
そっと手を伸ばされた手は僕の頬に添えられた。微かに震えている指先はひんやりとしていた。
「怪我は大丈夫? 殴ったから手も傷ついてるんじゃ……ごめんなさい。」
僕を見上げる瞳には涙が浮かんでいた。普通なら気にしないでと声を掛けるのが正解なんだろうけれど、僕はその姿に微かに苛立ちを覚えていた。
この体は幾らでも治るんだ。傷なんてあってないようなもので、僕を心配するなんて、それは違うんだよ。もっと自分を大切にしてほしいと思うのは僕の勝手なんだろうか。それでも、君があんなやつに触られたと思うだけで僕はもう狂ってしまいそうなんだ。
僕に触れるそのか細い手を掴む。ふるりと揺れた瞳を見つめながら勢い任せに口を開いた。
「ねえお願いだよファーストネーム。何かあったら僕に言って、僕に頼って、僕は君を守りたい、絶対に。そのためならなんだってする。」
彼女の目が見開かれる。
「ねえ、頼むから、僕のものになってよ。」
僕は、気付いてしまった。自分の中で育っている花の名前を。
そして、僕は知っている。それをどんな風に育てて行けばとても綺麗な花が咲くのかということを。
「私なんかで、いいんですか。」
「君がいい、君じゃないと駄目なんだ。」
そして、綺麗なそれは、時にとても醜くもなるということも。
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