月島と散歩

 月島は日課のためにひどく重い体を起こさねばならなかった。昨日も遅くまで仕事をしていたせいで起きられませんでしたと言うのは理由にはならないし、目下それが通じる相手ではないことは月島自身が一番よく理解していた。あくびを咬み殺しながら身支度を整え鏡に映る姿にどこも問題がないと見るとゆっくりと目的の場所に歩き出した。大広間だ。寝ずの番によってすでに暖炉に火がくべられていた大広間は暖かく、過保護な奴らもいたものだと思うしかなかった。訓練のために普段は伽藍堂としていて物もあまりないこの場所に態々火を灯す理由など一つしかなかったからだ。
「ワウ!」
「待たせたな」
 月島は暖炉横の小屋を見て小さく笑った。待ってました!と言わんばかりに尻尾を振る白い犬があまりにも健気だったからだ。すでにリードを加えて今かいまかと待ちわびてこちらを見る目はなんと言うか加護欲を擽られる。月島は屈み込むとそれを合図にポチはこうべを垂れた。かちゃん、と軽い音がしてリードがつけられたのが分かると嬉しそうに目を細めるので月島もつられて目を細めた。
 大広間を抜けて裏口から外へ出ると、まだ上がり切っていない太陽の光が降り注ぎ朝を感じる。不満がないとは言わないが、こうして毎朝早起きして朝一番の空気を吸うのは贅沢だと言うのは間違いない。最初は嫌々やっていたことだとしても、習慣になってしまえばなんてことは無いものだ。グイグイとリードを引っ張るポチを片手で制しつつしっかりと刈り込まれた芝生を歩き始めた。
 定番散歩コースの花園公園から暫く歩いてもう少しで兵舎へ帰ろうかと言うあたりでピタリ、と横を歩くポチの足が止まった。どうした?と顔を向ければポチの視線の先にはベンチがあった。木陰で一休みには丁度良さそうな場所にある。いつも通る道だが茶色い配色も合間って木に隠れて見えなかったらしい。こんな所にあったのは気づかなかったと思っていると月島の足が鼻先で押されていた。
「休みたいのか?」
「ワンっ」
 まあ、少しなら。朝食まではまだまだ時間はあったし、今日は少しペースが早めだったのか折り返しはとっくに通り過ぎていた。ガス灯の柔らかな光をあびたベンチに腰を降ろすと、いつもなら行儀よく足元にいるポチがこちらを見上げていた。一瞬考えたが春とはいえ朝で少し冷えるのだ。地面もそれは冷たかろう。地面からポチを抱き上げて隣に降ろすと、ポチはゆっくりと移動して月島の膝に頭を預けて丸くなった。その頭を撫でてやるとポチは気持ち良さそうに目を瞑った。とくとくと生きている温度が伝わってくると、月島も自然とまぶたが落ちていく。まあ、少しなら。

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